「お兄ちゃん!!!」
ヒスイはぱああっと表情を明るくして、嬉しそうにコハクを見た。
が、いつもと少し様子が違うコハクに気がつくと「何・・・やってるの??」と不思議そうな顔で首を傾げた。
「しかもオニキスと二人で・・・」
「ヒ・・・ヒスイ・・・これは・・・その・・・」
コハクはしどろもどろになりながらさっと剣を後ろに隠した。
「それに・・・今のナニ???」
「えっと・・・それは・・・」
コハクはだらだらと汗をかいている。戦いの最中でさえ見せる事のなかった汗を。
(あなたのせいですよ!どうしてくれるんですか!!)
コハクはキッとオニキスを睨んだ。
「・・・・・・」
オニキスはコハクから視線を逸らし、大きなため息をついた。
「オレがやった。こいつと少し手合わせしてみたくなってな」
オニキスがくいっと親指でコハクを指すと、待ってましたとばかりにコハクが言葉を続けた。
「そうそう!無理矢理つき合わされちゃって!!も〜、死ぬかと思ったよぉ〜!」
コハクは胸に手をあて、綺麗な菫色の瞳をウルウルさせながらヒスイに訴えた。
「ちょっと!オニキス!!お兄ちゃんに変なことしないでよねっ!!」
ヒスイは大声でオニキスに文句を言った。
「・・・・・・」
オニキスは横目でコハクを睨んだ。
(この・・・二重人格者め・・・)
「・・・さっきのこと、ヒスイには黙っててくださいね」
コハクはオニキスに剣を返すと見せかけて、オニキスにだけ聞こえるようにボソッと言った。
「さあ、どうだかな」
オニキスは底意地が悪そうにニヤリと笑った。
「そんなぁ〜・・・、お願いしますぅぅ〜」
コハクはそれこそ泣きそうな顔でオニキスにしつこく頼み込んだ。
「・・・なんか仲いいね、あの二人・・・」
ヒスイは何やらヒソヒソとやっている二人を見てぽかんとした。
「一体いつの間に・・・」
「あっはっは!!」カーネリアンが高笑いした。
「囚われの姫君を救うために力を合わせたんだろうさ」
そして隣にいたヒスイの頭をくしゃくしゃと撫でた。
その時だった。
カーネリアンに大人しく撫でられながら二人の様子を見ていたヒスイが叫んだ。
「お兄ちゃんっ!!危ないっ!!」
「隙ありっ!」
不意にコハクの後ろから男が飛び出し、剣を振りかざした。
何もかもが一瞬の出来事・・・。
バザッ。
何かが地面に落ちた。
「えっ・・・?」
ヒスイは目を丸くした。よく見るとそれはコハクの束ねた髪だった。
コハクの三つ編みにされた髪が見事なまでに根元からばっさりと切り落とされていた。
「あ・・・。油断した」
周囲は一時呆気にとられた。
コハクは男の剣を避けたつもりだったが、自慢の長い髪はそうはいかなかったようで、無残にも男の剣の餌食になった。
「・・・お前もいい加減にしておけ」
オニキスが叱るような口調で男を制止した。
「ちぇっ!なんだよ〜!つまんねぇの。こいつ今まで全くスキがなかったくせに、今笑っちゃうぐらいスキだらけだったんだもん。こいつらビビらせてくれたお礼でもしてやろうかと思ってさ」
ガサガサと音をたてながら低木の間からオオカミが数匹姿を現した。
「大人しくしていろ、といったはずだが?ヘリオドール」
オニキスにヘリオドールと呼ばれた男は見た目15・6歳ぐらいの少年だった。
ヘリオドールは狼たちを撫でながらおかっぱになったコハクを見てケラケラと笑った。
「似合うぜ、そのアタマ」
「・・・・・・」
コハクは額に手をあて、軽く溜息をついた。
「ひょっとして・・・狙いは初めからこれ?」
そう言って下に落ちている自分の髪を指した。
「そ♪」
ヘリオドールはコハクの三つ編みを拾った。
コハクの髪はよくある金髪のなかでも群を抜いて美しかった。
内側から淡い光を放つようなやわらかな輝きを持っていた。
「こんだけ上物だといい金になると思ってさ」
「こらぁ〜っ!!!何やってんだぁ〜!!」
カーネリアンはヘリオドールを怒鳴りつけた。
「やべっ!ババアだ!」
ヘリオドールは指で耳を塞いで舌をだした。
「じゃ、これもらってくよっ!!」
それからコハクの立派な三つ編みを大事そうに抱えて森の中へと消えていった。
狼達もヘリオドールの跡を追って森の中へ走り去った。
「・・・まったく・・・どいつもこいつも・・・」
カーネリアンは怒りに身を震わせながら荒々しい声で言った。
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