「・・・あれ?」
真っ白なシャツ一枚で、ヒスイは、雲の上に居た。
手には、懐中時計。タイムスリップを可能にする超レアアイテムだ。
メノウの部屋で、たまたま目にしたそれを弄っているうちに、誤作動させてしまったらしい。
「ここは・・・天界?」
現代ではもう、存在しない世界。
ヒスイの目前には見覚えのある神殿と・・・
「お兄ちゃん!」
ちょうど“裁き”を終え、戻ってきたところだった。
体は一切汚れていないが、血と土の匂いがする。
「“お兄ちゃん”じゃ、ないけどね。久しぶり、僕の花嫁」
どうやら、500年ほど過去にトリップしてしまったようだ。
「歓迎するよ、と言いたいところだけど、血の匂い、凄いでしょ?平気?」
「あ、私、一応、吸血鬼だから」と、ヒスイは言ったが。
コハクは至って紳士的に。
「ちょっと待ってて、流してくるから」
神殿の中は、相変わらずシンプルで、最低限の家具が置かれているだけだった。
ベッドで休憩しているうちに、ヒスイはうたた寝。そして・・・
「・・・ん?」
湿ったコハクの毛先が頬に触れ、目を覚ます。
いつの間にか、禊を済ませたコハクの下になっていた。
(あれっ?私、服着てない・・・)
シャツを脱がされ、全裸だ。
一方コハクも、腰に布を巻き付けただけの姿だった。
均整のとれた体、長い金髪が筋肉をより色めかしく見せて。
「な・・・なに???」
赤面しつつ、この状況について尋ねるヒスイ。
「折角来たんだから、キミに色々教えて貰おうと思って」
「教える?何を?」
「気持ちいいこと、とか」
「!!ちょっ・・・だめっ・・・」
コハクが、上から体重をかけてくる。
肌と肌が密着し、甘く擦れ合う・・・が。
だめ!だめ!絶対だめ!と。いつになくヒスイは大暴れ。
コハクの髪を滅茶苦茶な方向に引っ張り、両脚をジタバタさせる。
「・・・抵抗される意味がわからないんだけど」と、コハク。
「キミは、未来の“僕”のもので――」
「“僕”のものは、僕のものでしょ?」
さらっとそう言い放つ。しかしヒスイは怯まず。
「お兄ちゃんは、もうすぐ“私”と会って、えっちするのっ!!」
・・・間を随分端折ってはいるが、歴史的に間違ってはいない。
「その時が初めてのえっちじゃないとやだ!!」
「ああ、そういうことね」コハクが笑う。
「わかった。つまり、僕が童貞を守りさえすれば、キミに何をしても構わない、ってことだよね」
「んっ?」(あれ???そういうことになるの???)
首を傾げるヒスイ。
次の瞬間。手錠をされ、両手の自由を奪われた。
「え・・・?」
自然界の物質を利用して、武器を創り出すのはコハクの十八番だが、手錠もその限りであるらしい。
「なんで・・・手錠なの?」
「キミに似合うと思って。僕からのささやかなプレゼントだよ」
「・・・・・・」(手錠が似合うって何!?どういうこと!?)
「どこまでOKなのか、確認しておこうか」
コハクが話を続ける。
「あ・・・えっと・・・」
ヒスイは混乱したまま・・・
とりあえず、男性器を使うことを禁じ。唇へのキスもNGとした。
するとコハクは、数分間、神殿から姿を消し。
「だったら、これしかないよね」
・・・ペニス代わりの淫具を調達してきた。
鼈甲の張形、今でいうディルドだ。
コハク曰く、下界で簡単に手に入るのだそうだ。
「え・・・ちょっ・・・」(なんでそうなるの!?)
ベッドの上で体を丸め、防御を試みるも。
呆気なく仰向けに転がされ。
「ここであってるよね?」
「あッ・・・!!」
にゅくッ・・・張形の先端が膣口を抜け、ヒスイの中に入ってきた。
「んッ・・・んぅ・・・ッ!!」
(へんな・・・カタチ・・・これ・・・や・・・)
嫌悪感から、小さな体が震える。
「もしかして、押し戻そうとしてる?」
そう言って、笑みを浮かべるコハク。
指先の感覚が鋭いようで、内側の強張りに気付いたのだ。
「そんなにコレが嫌なのかな?」
「だ・・・って・・・おにいちゃ・・・のとぜんぜんちが・・・」
「だろうね。でもそれは、大した問題じゃない」
すぐにわかるよ、と。コハクは張形を一気に沈めた。
「ひ・・・ッ!!いや・・・ぁ・・・あッ・・・あぅ・・・」
コハクの操る張形が、股間の奥でゆっくり動き出す・・・
「あ・・・あぁ・・・」
うにゅうにゅ、膣肉が波打っている。
「あ・・・ん・・・」
(うそ・・・わたし・・・きもちよくなってる・・・)
揺れる波間から発生するのは・・・紛れもない、快感。
無理矢理されているというのに。
「どうしてだか、わかる?」
「っ・・・!!!」
言われるまでもなく、体は知っている。
膣内に送り込まれるリズムが、コハクのものなのだ。
(こんなの・・・ずる・・・い)
コハクにしか刻めない、愛しいリズム。
(おにいちゃんは・・・やっぱりおにいちゃん・・・なんだ・・・)
「あッ・・・んんッ!!」
抜き差しされる度、どんどん感度が良くなってくる。
「あッ・・・あぁッ・・・おにいちゃ・・・あッんッ!!」
中がたっぷり濡れ、音が変わった。
ヒスイの膣が、ぐちゅぐちゅ鳴り出すと。
コハクは笑顔で一言。
「その気になってくれたかな?」
「あッ・・・は・・・あんッ・・・」
呼吸をコハクのリズムに合わせるヒスイ。
そうして膣を緩ませ、タイミング良く張形を呑み込むのだ。
「あぁッ・・・」
ピストンを受けて出来る隙間から、度々、愛液の泡を噴きこぼし。
「おにぃ・・・ちゃぁ・・・」熱っぽく、喘ぐ。
ずちゅッ!ずちゅッ!ずちゅちゅちゅちゅッ!!
快感で崩れた肉の中、徐々に深く挿入される張形・・・
「はぅ・・・ッ!!あ!!」
ついに、子宮口に先端が届く。
「ッあ・・・!!!!!」
どちゅッ!急所を一突きされ、仕留められた獲物のように。
ヒスイは、高々と跳ねあげた爪先をビクビクさせた。
一時、息を止め、硬直していたが。
その間も、コハクは手を休めず。
感じているであろう、そこを刺激し続けた。そして・・・
「ぷは・・・ッ!!あ・・・あぁんッ!!おにいちゃ・・・!!」
ヒスイが息を吹き返した時にはもう、その行為の虜になっていた。
「あッあッあッ!!」
膣奥の小さな出っ張りをグイグイ押し上げられ、そこから湧き上がる官能に、脚を拡げずにはいられない。
「あ・・・ぁ・・・」(あそこ・・・しびれて・・・)
首筋に、じんわり女の汗が浮く。
「・・・あッ!!あぁぁぁッ!!」
絶頂が間近に迫り。瞼の裏で光が弾ける。
それを払いのけるがごとく、ヒスイが顔を振り乱すと、舌先からぴちゃぴちゃ唾液が飛んだ。
「ひ・・・あ・・・ううッ!!」(だめ・・・イッちゃう・・・っ!!)
ヒスイの嬌声がぷっつりと途絶え、神殿は静かになったが。
股間には張形が突き立てられたままだった。
「次はこっちね」
「ふぁ・・・?」
曲げた膝が肩に付きそうな格好で。向けられたのは、もう一本の張形。
「!!ちょっ・・・なにす・・・やめ・・・!!!」
「“僕”なら、こっちも使えるようにしてる、でしょ?」と、コハク。
アナルの皺ごと押し込むように、迷いなく突き破る。
「んぐ・・・ッ!!!」(そのとおりだけど・・・っ!!)
「でも僕は慣れてないから、じっとしてた方がいいと思うよ」
「ああ・・・」
力を抜き、ヒスイが目を閉じる。
「あ・・・はぁ・・・ん・・・」
一度受け入れてしまうと、押されても、引かれても、気持ちがいい。
圧迫感と空虚感が交互に訪れ。
浮遊感も加わって、より心地良いものになる。
「ふぁ・・・あ・・・あ・・・」
ヒスイは、お尻でもイキかけていた。ところがそこで。
「一本余ったから、どうぞ召し上がれ」
「!?」今度は口の中に張形を詰められた。
余った、というより、最初から用意していたとしか思えない。
反射的にヒスイはそれを吐き出そうとした、が。
「時計、あれがないと困るよね?」
「!!」言われて初めて思い出す。
そういえば、どこにもない。脱がされたシャツすら見当たらなかった。
「返して欲しかったら、頑張ってね」
コハクの謂わんとしていることはわかる。
口内の張形にも愛を示せということだ。
「っ・・・!!」
目に涙を溜め、ヒスイが睨む。
いつもながら迫力に欠けるが、怒っているのだ。
「いいね、その顔。そそられる――」
少し低めの声で、コハクが言った。
「っ〜!!!」
ヒスイ、心の声。
(こっちのおにいちゃん、なんでこんなにイジワルなの!?)
コハク、心の声。
(イジメ甲斐、あるな・・・僕の花嫁は)
神殿を取り巻く景色は夕暮れ。
手首の拘束を解かれたヒスイは、テーブルに着席し、果物を頬張っていた。
※シャツだけは返して貰いました。
「・・・立ち直り、早いね」
「そう?」実を齧りながら、上目遣いでコハクを見るヒスイ。
「・・・・・・」
淫具で、体中、穴だらけにして。散々辱めたというのに。
天界特産の果物を与えたら、たちまち機嫌が良くなった。
ヒスイはすっかり元通りだ。
「お兄ちゃん、いつから優しくなったんだろ」
お腹がいっぱいになってから、改めて、こちらのコハクの行いを振り返る。
なにせ同一人物・・・比べてしまうのは仕方のないことだ。
「さあ、もともと僕は優しくないからね。フリしてるだけなんじゃない?」
「なんで???」
「キミに好かれたくて」
なにそれ、と、ヒスイが笑った。
コハク本人が言うことなので、妙に説得力がある。
「素がこれだから、たまにすごく意地悪するでしょ、“僕”」
「うん、するする!」
よく考えてみれば・・・程度の差はあるにせよ、コハクの意地悪に、怒ったり泣いたりは、今回に限ってのことではない。
「あ、そっか、私・・・」
(優しいお兄ちゃんも、意地悪なお兄ちゃんも、好きだから・・・)
いつから〜なんて関係ない、どちらでも特に問題ない、という結論に至る。
「・・・未来の“僕”は何してる?」と、コハク。
「お兄ちゃんね、人間を殺さなくなったよ」
「まさか」
「でね、代わりにいっぱいえっちしてるの!」
「・・・・・・」
出だしは良かったが、肝心なところの説明がごっそり抜けている。
「ああ・・・そう。キミちょっとバカだよね」
「お兄ちゃんも、同じくらいバカになってるよ?」
何の気なしに、ヒスイが言い返す、と。
ははは!今度はコハクが笑った。
「だとしたら、毎日、楽しいかもしれないね」
「うん!楽しいよ!お兄ちゃんといると、毎日、すごく楽しい!!」
はつらつとした表情でヒスイが話す。
「だからねっ!ちょっとくらい意地悪されたって、全然平気なの!!」
「それはまあ・・・愛があるからね」
爽快な笑いを苦笑いに変え、コハクが言った。
「・・・え?」ドキッとして。ヒスイはまばたき。
(さっきのもそうだったのかな?)
「・・・もう一回、しようか?」と、コハク。
「とは言っても、できることは限られてるけど――」
「今度は優しくするよ」
ヒスイが迷うのは予測できるので、答えは待たない。
コハクはテーブルの上にあったナイフで、自身の長い金髪を切り落とし、ヒスイを驚かせた。
「ちょっと不揃いだけど、この方が“お兄ちゃん”っぽいでしょ?」
「そ・・・だけど・・・でも・・・」
「大丈夫だよ。一晩経てば、元の長さに戻るから。神がいる限り、僕は僕の望む姿にさえなれない――」
そんな話をしながら、ヒスイをベッドへと運ぶ。
「あの・・・まだ・・・心の準備が・・・」
さっきからドキドキしっぱなしなのだ。
コハクの、知らない一面を見ているようで。
「心配しなくても、大事なところは未来のキミにとっておくよ」
・・・そう言って、強引に押し切るところはやっぱりコハクだが。
ちゅっ。まず目元に軽くキス。ヒスイが照れ臭そうに片目をつぶる。
「ひぁ・・・おにいちゃ・・・」
最初の時と同じように、上から体重をかけてくるが・・・今回は加減してくれているのがわかった。
「はぁはぁ・・・」(息って・・・こんなに熱かったっけ・・・)
ペニスを望まない分、他の部分がいつもより敏感になっている気がする。
肌も例外ではない。
「ん・・・んッ・・・」
コハクの肩に掴まり、唇以外の場所にキスを受ける。
頬、首筋、耳の後ろ・・・口づけされた場所から、朱く染まってゆく・・・
「ふぁ・・・ッ!?」
鎖骨のあたりを強く吸われただけで、手足の力が抜けてしまった。
「あ・・・おにいちゃ・・・」
臍の上までシャツを捲り・・・ぷっ、コハクが吹き出した。
「これはちょっと、食べ過ぎじゃないかな」
お腹がぽっこり。幼児体型に磨きがかかっていた。
類稀なる美少女が・・・とても残念なことになっている。
「そっ・・・そんなに笑うことないでしょっ!!あれすごく美味しかったんだもんっ!!」
コハクは笑いながら、ヒスイの頬を包み、キスの雨を降らせた。
「舌、出して」
ヒスイの口元に、囁きかけるコハク。
笑われて、スネているのか、ヒスイは、あかんべ、で、それに応じた・・・が。
「えぅ・・・あ・・・」(なにこれ・・・きもちいい・・・)
舌にコハクの指が絡み付く。
口を開け、涎を溢れるがままにして、うっとり目を細めるヒスイ。
舌先を器用に揉みしだかれた後、親指の腹で表面を擦られる・・・
性器のひとつとして愛撫されているのだ。
「あ・・・ぅ・・・」
舌を指で挟まれ、引っ張られると、喉の奥が痺れ。
「あー・・・」
見えない快感が、体の中へ流れ込んでくる。
閉じかけていた膣がふたたび開き、ちゅるちゅる、空気と一緒に自らの粘膜を吸い込む音が聞こえてきた。
それを待っていたかのように。
「中、触らせて」
コハクの指が、膣口に密着する。
「ひぃ・・・んッ!!」
考える間もなく、じゅるりッ!膣肉が啜り上げ。
人差し指と中指を招き入れてしまった。
「あ・・・はぁ・・・」
何時間にもわたって、張形が通っていたそこは、だいぶ腫れぼったくなっていたが、やんわりと撫でられ、性懲りもなく感じてしまう。
「あ・・・あぁ〜・・・」
泣き出しそうな、快感。
愛液が、差し込まれた指の間から垂れる ―と、同時に、ぽたり。
ヒスイの腹部に高温の液体が落ちてきた。
「!?」
見ると、コハクの腰巻きは外れていて。
勃起ペニスの先端が、しとどに濡れていた。
「あ・・・んッ!!」
胸がキュンとした瞬間、膣も窄まり。
二本の指に圧力をかけたが、コハクは構わず動かし続けた。
肉の僅かな裂け目を見つけては、スムーズに滑り込ませてくる。
「あ・・・あ・・・あん・・・ッ!!」
コハクの指の動きを意識すると、より感じる。
「あふ・・・ぁ・・・」
膣内を一層ヌメらせ、ヒスイは快感を露わにした。
「ここが、こんな風になったのは初めてだよ」
・・・と、自身の性器に目を遣るコハク。それからすぐヒスイへと視線を戻し。
「ただなんとなく、これが何を意味しているかは、わかるよ」
「欲しがってるんだ。キミの、ここをね」
蕩けるような甘い声でそう言って。
ヒスイの中の指を激しく動かし始めた。
「あ・・・あぁッ!!」
欲情した指先が、膣肉を舞い上がらせ・・・そこから愛液が飛び散る。
一方で。ぽたぽたと、お腹の上に落ちてくる、男の蜜はひどく熱くて。
「ひッ・・・くぅぅんッ!!」
内側からも、外側からも、性的興奮を煽られる。
快感は時として苦しくもあり。
「あ・・・あッ・・・ふぁぁぁッ・・・!!!」
口に入ってしまうほど涙を流し、悶絶しているヒスイの頬に、コハクがそっとキスをする・・・と。
「お・・・にぃ・・・ちゃ・・・」
ヒスイは泣きながらも微笑んで。
「・・・・・・」
(“僕”が夢中になるの、わかる気がするな・・・)
「あ・・・おにいちゃ・・・おにいちゃぁ・・・」
「・・・うん、早くそうなるといいね」
コハクは、ヒスイの頭を抱き込み、額にキスをしながら、何度も何度も肉襞を捲り返した。
「あ・・・ひ・・・ああ!!!」
シーツにできた愛液溜りの中で、ヒスイはすでに達していた――
「はい、これ」
身支度を済ませたヒスイに、お土産の果物と懐中時計を手渡すコハク。
「あ・・・」(もうセットされてる・・・)
秒針があと三周。ここにいられる時間は、それしか残されていなかった。
「そろそろ帰さないと、“僕”が限界だからね。ここまで迎えに来る」
「お兄ちゃん・・・」
肩を竦め、困ったように笑う姿は未来のコハクと重なって。
別れるべき相手だが、それが寂しくないといえば嘘になる。
「あの・・・」
言葉に詰まって、ヒスイが俯くと。
コハクは頭を撫で、言った。
「『好き』とか、『愛してる』って言葉はきっと、未来の“僕”が飽きるほど言うだろうから――」
ここではあえて口にしない。
「けど、キミに優しくするのはたぶん、キミの笑っている顔が見たいから、だと思うよ」
「・・・そっか!」
ヒスイが顔を上げる。
「じゃあ・・・」
最後は、笑顔で。
さよなら、またね。
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