赤い屋根の屋敷。
思春期アイボリーの部屋にて――


「あーくん、えっちな本、貸して」


ヒスイが言った。
「別にいいけど、どした?急に」
アイボリーが不思議がる。
「お兄ちゃんに、もっと気持ちよくなってもらいたいの。薬とかに頼るんじゃなくて」と、ヒスイ。
アイボリーに手渡された、えっちな本のページを捲りながら、真剣そのものだ。
「テクニックを磨かないと・・・」などとブツブツ言っている。
「・・・・・・」(このひと、またやらかす気だ・・・)
双子の兄マーキュリーもその場に居た。
黙って、弟アイボリーと視線を交わす。

結局のところ、双子の言動がヒスイをおかしな方向へ導いてしまうのだが。

みすみす放ってはおけない。
ヒスイは輪をかけて真面目な顔で。


「お兄ちゃん、すっごく気持ちいいの」


「だから、私と同じくらい、お兄ちゃんも気持ちよくなってくれたらいいな、って」
「・・・・・・」←沈黙のアイボリー。
ヒスイの乱れ具合は半端ない。
(頭ん中まで蕩けたみたいな、えっろい顔してんの、知んねーんだろうな、ヒスイ・・・)
覗きをしてきた立場から。
(コハクまであーなったら、成り立たねーって)
ツッコミが喉まで出かかったが。そこは発想の転換で。
「しばらく“おあずけ”してみたらいーんじゃね?」
我慢した分、快感も倍増!と、ある意味もっともなことを言うアイボリー・・・だが。
「無理。私が我慢できない」
ヒスイが即答する。
「ひとりえっちすりゃいーじゃんか」
「あれ苦手なんだもん」
「・・・じゃあ、俺とする?」
「する訳ないでしょ」
アイボリーが言うと、冗談にしか聞こえないらしく。
ヒスイはふくれっ面で聞き流した。


二人の不毛なやりとりに、見兼ねたマーキュリーが。
「もっと大人の男性に相談してみたらどうですか?」と、提案する。
「大人の?」
ヒスイは目をぱちくり。それから・・・
「セレとか?」
外見的に一番年上に見えるという理由から、名を挙げた。
「いや、あいつはやめとけ」
俺のシックスセンスがそう告げている、と、アイボリー。
「なんつーか・・・アヤシイ」
「そう???」
ヒスイが首を傾げる。
「でも他に・・・」
「いるじゃんか!適任が!」
アイボリーが立ち上がり、ヒスイの手を引く。そして・・・




国境の家にて――

「・・・・・・」
安心安全の、オニキス。
二階の書斎で、椅子に腰掛け、読書をしているところだった。
「しっかり教えてもらえ!!男のカラダについて!!」
「え・・・ちょっ・・・」
アイボリーが勝手にヒスイを抱き上げ、向かい合わせになるよう、オニキスの膝に座らせた。
「・・・・・・」「・・・・・・」
オニキスとヒスイ。互いになんとなく気まずかったが。
「あの・・・えっと・・・」
引くに引けなくなったヒスイはオニキスを見上げ。
「お兄ちゃんって、どのへんが感じるのかな?」
「・・・オレが知っているとでも?」
「・・・思わないけど」
はぁ。オニキスの胸元に額を預け、柄にもなく溜息。その時ふと。
「・・・あ!男のヒトって、おっぱいとかどうなのかな?」
どうしようもない閃きを口にするヒスイ。
「ちょっと触らせてくれる?」
「・・・・・・」(何故、オレで試す)
相変わらず酷い扱いだ。
待て、と、ヒスイの手首を掴むオニキス。
「なに?別にいいでしょ?」
感想を聞かせて欲しい、と、ヒスイが迫る。が・・・
「・・・迎えが来たぞ」
ガラスの窓越し、金色の羽根が数枚落ちてくるのが見えた。
「え?」(お兄ちゃん?)
「俺達が時間を稼ぐ!」と、アイボリー。
「その間に体裁を整えておいてください」と、マーキュリー。
オニキスは素早くヒスイを膝から降ろした。
男達の脳裏に過ぎるは、コハクの“お仕置き”。
ヒスイが泣かされるのは目に見えている。
そうならないために、気を回しているのだが・・・
「え?なに???」
ヒスイ本人はあまりわかっていないようだった。

それから間もなく。

「ヒスイ、帰ろうか」
コハクは笑顔で、ヒスイの前に現れた。
「あ・・・うん・・・」




夫婦の部屋にて――

結局何一つ解決しないまま、夜になり。
(・・・どうしよう)
バスタオルを巻いたまま、ベッドの前で立ち尽くすヒスイ。
シャワーを終えたコハクが、もうすぐ来る。
(とりあえず、今夜はいつも通りに・・・でも、あれ、試してみようかな・・・)
「ヒスイ、お待たせ」
その声と共に、後ろから抱きしめられ。
「ひぁ・・・っ!?お・・・おにいちゃ・・・」
ヒスイは驚き、身を竦ませた。
くすり、隠れてコハクが笑う。
ヒスイの企みについてはアイボリーから聞いていた。
どうする気なのか、今から楽しみだ。
「ベッド、行こうか」
「ん・・・」


バスタオルを身に纏ったまま、ベッドの上、横になる。
そこに乗り掛かるコハクは、何も身に着けていない。
(あ・・・)
硬く反り返るペニスがヒスイの目に入った。
もうそれだけで、濡れる。
「ヒスイ」
優しく名前を呼ばれて、顔を上げると。
ちゅ。右の頬に唇が降ってきて。
「あ・・・」
バスタオルが剥される。
「ん・・・」
続けて唇を塞がれた。
「はぁ・・・」
コハクの熱に溶かされた唇はすぐさま半開きになり。
とろとろとした隙間から、コハクの舌先が入ってくる・・・が。
(だめ・・・このままじゃ・・・いつもとおなじになっちゃう・・・)
「っ!!」
ヒスイは自ら唇を離した。
コハクのキスを拒むことなんて、これまでなかった気がする。
「はぁはぁ・・・」
「・・・ヒスイ?」







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