「・・・あの・・・」

びくっ。かぁぁ〜っ・・・

ミルクティーを飲んで一息。のはずが、ヒスイは緊張真っ只中にいた。
コハクの言葉に過敏に反応してしまう。

どきん。どきん。どきん。

(ひゃぁっ!私っ!意識してるっ!期待してるっ!)
甘美な快感を求めて、コハクの唇や指に目がいってしまう。
(再会して間もないっていうのに!!私って凄くえっちなんじゃ・・・)
そんなことを考えていると汗が出てくる。
「ヒスイ?大丈夫?」
(緊張してる?ひょっとして僕のこと怖がってるのかな。前例あるし、警戒されてるのかも・・・)
「もういきなりあんなことしないから。そんなに怖がらないで・・・ね?」
「えっ!?あ、うん・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それとも・・・今すぐする?」
コハクが冗談っぽく言って笑う。
「あ、うん・・・え!?ううん」
ヒスイの回答は二転三転・・・自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。
「あの・・・その・・・」
「くすっ。ヒスイの頭が僕のことでいっぱいになるまではしないよ」
コハクは笑顔でヒスイの頭を撫で、ミルクティーのおかわりを出した。


(・・・なんて言ったけど・・・ごくっ)
両手でカップを持っているヒスイ。
嬉しそうにふぅふぅと湯気に息を吹きかけて。
その唇や胸、ミニスカートの裾のあたりに目がいく。
(したいに決まってる!!いい加減我慢してるんだ。これでも)

ちらっ。

(・・・でもなぁ・・・やることばっかり考えてると思われるのも・・・。帰ってきてくれただけ充分だよな・・・ウン)
ヒスイから無理矢理目を反らす。一方ヒスイも悶々としていた。
(えっちしたいなんて恥ずかしくて自分から言えない・・・でも・・・キスをして裸で抱き合ったら、このヒトのこと全部わかるかな、って・・・そんなことを考える自体エロだわ・・・)
「あ〜・・・」
「う〜・・・」
各々が声を洩らす。

ちらっ。ちらっ。

お互いにチラ見。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ!そうだ!大切なことを忘れてた!」
コハクがポケットから取り出したのは結婚指輪だった。
席を立ってヒスイの隣まで移動し、そっと薬指に通す・・・
「ヒスイが記憶を無くした日に僕が外したんだ・・・持ってても混乱するだけだと思って」
お揃いの指輪。誓い合った愛の証。
「もう一回結婚式しちゃう?」
「いい・・・恥ずかしいから」
ヒスイが照れる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙。そして働く唇の引力・・・瞳を閉じて二人はキスをした。
「ん・・・」
キス解禁。もう止まらない。
夢中になってキスに溺れる。
(やばい・・・めちゃくちゃしたくなってきた・・・怒られても殴られてもいいから・・・とにかくしたい!!)

はぁ。はぁ。

(やだ・・・濡れてきちゃった・・・私ってどこまでもえっち・・・)
体が勝手に・・・もうそんな感じで。
ヒスイはコハクの手を取り、自分のスカートの上に置いた。
「!!ヒ・・・ヒスイ?」
(これはOKのサイン!?)
誘われるがままスカートに手を入れ、中の心地よい熱気と湿り気を指先で堪能する・・・
「あっ・・・」
照れて俯いていたヒスイの表情が次第に色気を帯びてくる。
「・・・っ・・・」
「・・・ベッドいこうか」
「・・・うん」
コハクは頷くヒスイを椅子から抱き上げた。



ココロの記憶。カラダの記憶。

僕等が過ごしてきた時間は簡単に消えるものじゃない。

ココロが忘れてもカラダが覚えてる。

カラダが忘れてもココロが覚えてる。

完全に消えてなくなることなんてないんだ。



「僕の腕の中で・・・もう一度綺麗に咲いて・・・ヒスイ」



「あ・・・ふっ!」
「ヒスイ・・・もっと脚広げて・・・そう・・・両手で押さえて・・・」
ベッドの上。ヒスイに自分で脚を開かせ、そこに顔を深く埋める。
はむっ・・・
ヒスイの割れ目にかぶりついてひたすら舐める。
愛液と唾液が混ざり合い、ぐちゃぐちゃと音をたてた。
「あぁ・・・ぅん・・・」
悦びの声。コハクは舌でヒスイの中に割って入った。
(・・・うん。この締まり具合・・・オニキスとはやってない。よかったぁ〜・・・今回ばかりはダメかと思った・・・)
内心胸を撫で下ろす。
(オニキス・・・よく我慢できたなぁ・・・表彰ものだ・・・)


「・・・久しぶりだからちょっと痛いかもしれないけど・・・」
「はぁ・・・っ・・・平気・・・そんなの・・・は・・・やく・・・」
ヒスイは脚を大きく開いて待っている。淫らで美しい姿だ。
「うん・・・じゃあいくよ」
コハクは瞳を伏せ、少し湿った先をゆっくりとヒスイの中に潜らせた。
「う・・・ん・・・あ・・・お・・・にいちゃん・・・」
刺される快感に身を委ねたヒスイが無意識にそう口走った。

そしてハッとする。

「あれ?おにい・・・ちゃん?」
「!!!ヒスイ!?記憶戻ったの!?あ・・・」

瞬間放出。

「ごめん・・・嬉しくて先イッちゃったぁ〜・・・」
コハクは崩れた微笑みでヒスイをぎゅっと抱き締めた。
「おにいちゃん!?泣いてるの?」
「うん。泣いてる」
「・・・ごめんねぇ〜・・・忘れたりして」
ヒスイの顔も涙でくしゃくしゃに歪んだ。
「ちゃんと思い出してくれたから・・・いいよ」
コハクも涙声だった。
「おにいちゃぁ〜ん・・・」
「ヒスイぃ〜・・・」
(名前で呼ばれることに憧れていたけど・・・“お兄ちゃん”この響きがやっぱり好きだ!)
泣きながら心の中でそう叫ぶ。
「ヒスイ・・・もう一回呼んで。“お兄ちゃん”って」
「うんっ!おにいちゃん、おにいちゃん、おにい・・・ちゃんっ!」




モルダバイト城。

「・・・と、いうわけで、全部思い出したの」
バルコニーでオニキスとヒスイが向き合っている。
「だから・・・その間のことは忘れたわ」
「・・・そうか。思い出したらいつでも殴りにこい」
「うん」


「母上・・・ここでのこと・・・本当に忘れてしまったのか?」
二人の様子を室内からシトリンが見守る。
隣にはトパーズもいた。
「忘れた奴がわざわざ挨拶にくるか。覚えてるに決まってるだろ」
「ではなぜあんな言い方を・・・」
「ああ言ったほうが父上の為になる。父上もわかっているはずだ」
「・・・散々オニキス殿を喜ばせておいてか?」
シトリンはヒスイに文句を言いたげだ。
「・・・お前は一体誰の味方なんだ?」
「へ?」
「ヒスイがいなくなった方がお前には都合がいいはずだ」
「そう・・・かもしれんが・・・」
「だったら放っておけ」
「・・・・・・」
(しかし・・・オニキス殿が沈んでいる姿を見るのは忍びない・・・)
ヒスイが城を去ってからまだ数日しか経っていない。
そしてモルダバイトの謎がまた一つ増えた。
王妃が再び神隠し・・・メイド達の落胆ぶりはひどかった。
(オニキス殿も・・・顔にこそ出さないが、かなり気落ちしている)
「母上、ちょっといいか?」
シトリンは帰り際のヒスイを呼び止め、自分の部屋へ誘った。
城の人間に気付かれないようコソコソと移動し、ドアにしっかりと鍵を掛ける。
「母上は・・・もうここには戻ってこないのか?」
「うん」
ヒスイは迷わず答えた。生真面目な顔でシトリンが質問を続ける。
「・・・そもそも・・・我々は何故オニキス殿に預けられたんだ?」
最大の疑問だった。今まで考えなかったのが不思議なくらいだ。
「えっと・・・それは・・・」
ヒスイが言葉を濁した。
「怒らない?」
上目遣いでシトリンを見上げる。
(う・・・また例の発作が・・・)
可愛い。何でも許せる。そんな気になってしまう。
「親のエゴだよ?」
「いいから話してくれ」
「オニキスを幸せにして欲しかったの」
「は?」
「オニキス・・・ずっと一人だったから」
「・・・・・・」
「女の子だったら絶対オニキスのこと好きになると思ったし」
「・・・その為に我々を産んで・・・オニキス殿に預けた・・・と?」
「うん」
(私は・・・オニキス殿を好きになるために産まれたというのか?)
シトリンの表情が曇る。
「・・・オニキス殿の幸せを望むなら・・・母上が傍にいるべきだ」
「それはできないわ。私はお兄ちゃんの傍にいる」
はっきりとヒスイが答えた。
「あんな男よりオニキス殿のほうがずっと・・・」
「お兄ちゃんのこと悪く言わないで」
ヒスイが睨んだ。シトリンが睨み返す。
「シトリンはオニキスのことが好きなんでしょ?だったら・・・」
「オニキス殿の気持ちを知っていてよくそんなことが言えるな」

バチバチバチ・・・

「・・・オニキスは私の眷族よ。私が殺して眷族にしたの。どうしようと私の勝手でしょ」
ヒスイが腕を組んでツンと横を向いた。
「な・・・っ!!!殺した・・・だと!?」
カッとなったシトリンがヒスイに手を伸ばす・・・ヒスイはスッと身をかわした。
「オニキスに聞いてみるといいわ」



(はぁ〜っ・・・どきどきした)
オニキスの元へ向かうシトリンを見送り、ヒスイが息を吐く。
(舌噛みそうになっちゃった。でもこれだけ言えばシトリンにも気合いが入るはず・・・)
「誰に似たんだか知らないけど、シトリンは人がいいから・・・損するタイプだわ」
ヒスイが苦笑する。
「頑張って・・・ね」



「オニキス殿っ!!」

宮殿2階。

息を切らしたシトリンが転がり込む。
「何だ」
「今!母上から聞いた!オニキス殿は母上に命を奪われたのか!?」
「違う」
オニキスが短く答えた。
「オレが勝手にしたことだ」
それ以上詳しく語ろうとしないオニキスにシトリンの苛立ちが募る。
「二人の間に昔何があったっていうんだ!?」
「・・・話すほどの事でもない」
「だがっ・・・」
「・・・ヒスイに奪われたのは心だけで、与えられたもののほうがずっと多い。お前も・・・そのひとつだ」
シトリンの頬をオニキスが撫でた。
愛情溢れる瞳・・・娘を愛しむ視線がシトリンに注がれる。
(・・・オニキス殿は・・・母上を通してしか私を見ていない・・・)
求めていたはずの温もりなのに・・・嫌悪。
「そんな目で・・・私を見るな!」
オニキスの手を振り払いシトリンは駆け出した。

はぁっ。はぁっ。

(だめだ・・・こんなんじゃ・・・)
ヒスイに続きオニキスとも気まずい別れ方をしてしまった。
あの夜以来ジンとも顔を合わせていない。
「・・・恋愛が何だ!私は城を出るぞ!こうなったら武者修行の旅だ!学校なんか辞めてやるっ!!」






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