「お兄ちゃんっ!」
ぎくっ。
「できたよ〜!今日は冷やし中華!」
「冷やし中華!?」
コハクの声が裏返る。
“お兄ちゃんは怪我人なんだからゆっくりしてて!”と、ヒスイ自ら料理に挑むこと3日・・・
上達の兆しは全くなかった。
「異世界料理図鑑に載ってたの!」
コハクをベッドに縛り付け甲斐甲斐しく世話をする・・・いつもと違う役回りを楽しんでいるようだった。
「麺はシトリンが茹でてくれたんだよ!」
更にぎくっ。
(ウチの女性陣はだめだ・・・何って料理が・・・致命的に・・・)
しかし口が裂けてもまずいとは言えなかった。
出されたものは残さず食べる。
その際、褒め言葉は絶対に忘れてはならない。
(トパーズが一番まともな物を作る・・・アイツは料理が上手い。それに比べ・・・)
差し出された皿を見る。
「・・・これ?冷やし中華??」
「うん!ちょっとアレンジしてみたの!」
ヒスイが得意顔で説明を始めた。
「包丁使えないから材料みんなミキサーにかけちゃった。キュウリ・トマト・玉子・ハム。食べやすくていいでしょ?」
「そ・・・うだね。うん。画期的だ」
「それにレバーも」
「・・・え?」
「お兄ちゃん貧血気味でしょ?だからたくさん入れといたよ!」
無邪気な微笑み。そして唇を舐める。
「早く元気になって血飲ませてね」
「血ならいつでも・・・」
「だ〜め。我慢する」
エプロン姿のヒスイ。
我慢!我慢!と自分に言い聞かせる仕草に萌える。
(かっ・・・可愛いっ!!今なら食べられる!愛があればどんなにマズイ物だって・・・!!)
コハクはヘドロ状のタレがたっぷりかかった冷やし中華を頬張った。
「うっ・・・」
(!!?何だ?この麺、食べ物か!?ゴムのような味がする・・・なんか粉っぽいし・・・不味い・・・飲み込めない。茹で方云々の問題じゃないぞ、これは・・・)
「・・・・・・」
(しかもヒスイ特製のタレが猛烈に吐き気を誘う・・・)
「お兄ちゃん?どぉ?」
「うん!美味しいよ!うぷっ!」
「うぷっ?」
「ははは・・・美味しすぎて食べるの勿体ないなぁ・・・なんて」
「大丈夫!おかわりあるから!どんどん食べて」
「・・・・・・」
(食べるしかない!無心になれ!何も考えないで流し込むんだ!!今こそ愛を見せろ!!愛だ!愛!)
ごくんっ!
コハクは噛まずにすべてを飲み干した。
そして放心・・・
「お兄ちゃん?」
「・・・・・・」
「おかわり持ってこようか?」
「!!いやいや!残りはトパーズに!きっと喜ぶよ!」
「そう?」
「何ならオニキスに差し入れしてもいいし!」
とりあえず誰の胃袋でもいい。
コハクは必死になって勧めた。
「明日からは僕が作るね!コレ食べてすっかり元気になったから!もう大丈夫!全然大丈夫!絶対大丈夫!」
意気込んで力説。
「え〜?折角慣れてきたのに・・・」
ヒスイは不満の声を洩らした。
(慣れた!?ミキサーにでしょ!?)
ツッコミたいところを愛の力で堪える。
「だから・・・もうできるよ?」
「ホント?」
「うん。ヒスイが嫌じゃなければだけど。あんなことがあった後だし、怖かったら無理しなくていいから・・・」
ヒスイの体に残されたトパーズの噛み傷・・・これも普通の回復魔法では治せなかった。
オニキスに脅されたトパーズが傷をすべて消し去るまではかなり痛々しい姿をしていた。
許した訳ではない。
しかし裁けない。
それ以上は考えるだけ無駄だった。
(再発防止・・・一時だって離れるもんか!)
トパーズの態度はいつもと変わらず、ヒスイ自身もけろっとしている。
(トパーズ以上に愛を注ぎまくる!僕にできることはそれしかない!)
コハクはふつふつと湧き上がる欲望を微笑みの下に隠してヒスイを見つめた。吐き気は瞬時に克服した。
「お兄ちゃんと・・・したい」
ヒスイは照れて瞳を伏せた。
「いっぱい好きにしていいよ。全部お兄ちゃんのものだから」
甘えモード全開でベッドに潜り込む。
「ヒスイ・・・っ!」
愛しさ爆発。
二人で上から毛布を被り、服を脱がせ合う。
欲情の香りと熱気がこもる。
心ゆくまで交わす情熱のキス。
「・・・うんと優しくするからね」
そう囁いてコハクが頬を撫でると、ヒスイは目を細めて微笑んだ。
いたわるようにそっと抱擁。
「あ〜・・・お兄ちゃんだぁ〜・・・」
コハクの肌にヒスイが顔を擦りつけた。
安心しきった表情でコハクに体を預ける。
「ヒスイ・・・」
(うおぉ〜!!可愛い〜!!!)
魂の咆吼。逸る本能を抑え、優しさに徹した愛撫をする。
「んっ・・・」
手の平にすっぽりと治まるヒスイの胸。
指の腹で軽く乳首の先に触れただけで充分な反応を示した。
乳輪を舐め、チロチロと舌先で擽る。
「うにゃぁ〜・・・」
甘い鳴き声。
かつてこじ開けられた割れ目からは惜しげもなく愛液が流れ出し、すっかりシーツを湿らせていた。
「お・・・にいちゃん・・・もうこんなになっちゃった・・・よ」
ヒスイは大きく脚を開いてコハクを誘った。
正常位で正面からたっぷり愛し合う。
唇を吸い、舌を絡め、唾液を捏ねて愛を伝える。
「・・・入れる・・・ね」
「う・・・ん」
遠慮がちにコハクが硬い先をあてがった。
「ヒスイ・・・見て」
「あ・・・ん」
挿入の速度はいつもよりずっとゆっくりで。
ヌルヌルとした中に埋まり繋がってゆく様をじっくりとヒスイに見せた。
興奮が高まる。
「あっ・・・んっ!」
ヒスイは溺れるほどの愛液で抵抗なくコハクのペニスを迎え入れた。
根元まで浸かった後は、激しい出入りもなくじっと静止したり、少しだけ戻ってまた入ってきたりで、まったりとじらされた。
いつもと少し違う愛し方に体の芯が疼く。
「う・・・ぅん・・・」
ねっとりとペニスに絡みついた愛液が、緩やかな押し引きのたびにくちゃり、くちゃりと鈍い音をたてた。
「お・・・にいちゃん・・・もっと・・・」
ヒスイは堪らず自分から腰を動かした。
「あんっ!お・・・にい・・・ちゃんっ!」
内側でコハクを感じながら、溢れ出す雫。
それは快感と安堵の嬉し涙だった。
「もっと・・・もっとぉ〜・・・」
「ヒスイ――」
泣きながらせがまれ、コハクは一気に深く差し込んだ。
「あうッ!!」
ヒスイの両脚を肩にのせ、練られた愛液が白く泡立つほどの勢いで、とことん奥まで突き続けた。
「あ、あ、あ、んッ!んんンッ!」
お互いに知り尽くした絶頂のリズム。
「あ・・はぁんっ!!おにい・・・ちゃんっ!!」
「ヒスイ・・・よしよし・・・」
コハクはいつにも増して濃い精液を最後の一滴までヒスイの中に落とした。
「ふにゃぁ〜・・・おにいちゃんだぁ〜・・・」
息を乱したヒスイが恍惚とした表情で笑った。
「ごめんね・・・もうあんな思い絶対させないから」
「うん」
「僕だけを見て・・・感じて」
「うん」
「・・・もう一回、いい?」
「うんっ!!」
「・・・まぁ、今日は大目に見よう」
ドアの外。赤面したシトリンが咳払い。
二人の仲をこれ以上邪魔させるまいと自ら見張りに立った。
が、トパーズは姿を見せなかった。
全てがもとの鞘に収まってとりあえずホッとする。
「もう大丈夫だろう。おやすみ、母上。良い夢を」
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