「メノウ様っ!」
魔法陣でエクソシストの寮まで戻り、そこから全速力で走る。
連絡を受けてから10分とかからず合流した。
メノウは、サファイアの長屋から少し距離を取った場所で二人を待っていた。
「よっ!早かったじゃん」
「メノウ様、ヒスイは・・・」
「ホラ、あそこ」
メノウが指をさす・・・窓辺にヒスイの姿が見えた。
「ヒスイっ!!」
「お前が迎えに行った方が喜ぶと思うから、ここは譲ってやるよ」
「ありがとうございますっ!」
脇目も振らず窓辺へ駆け寄るコハクを見送って「ちぇっ」と呟く。
「あいつじゃなきゃトパーズのところからヒスイを連れ戻せないもんな〜」
メノウはオニキスにこれまでの経緯を説明し、ヒスイはまだ軟禁状態で人質にはなっていないことを告げた。
「連れ戻すなら今しかない。トパーズを残すことになっても」
「・・・戦いになるのか?」
「それがさ、よくわかんないんだよね。サファイアって奴。できることなら戦わないで勝ちたいけど、何のために戦うのかさえハッキリしないんだ」
「・・・様子を見る必要があると?」
「まぁ、そゆこと」
「・・・・・・」
「ヒスイっ!」
コハクが窓から飛び込んだ。
「お兄ちゃんっ!!」
逢いたかった。
ヒスイはコハクに飛び付いた。
言葉を交わすより先に首筋へ牙を剥く。
とにかく血が飲みたかった。
「よし。よし。いい子だね〜」
んく。んく。んくっ。
ヒスイは乳を得た赤子のように、ひたすら一途に血を吸った。
噛みつかれるのには慣れている。
コハクは、無邪気に喉を鳴らすヒスイを腕に抱き、そっと髪を撫でた。
「・・・おにいちゃぁん」
「ん?」
「したいよぅ〜」
「え?」
いつもの流れだった。吸血後は必ずといっていいほど求めてくる。
(僕だってしたいけど・・・安定するまでは控えたほうがいいよなぁ・・・)
「今、誰もいないよ?」
(いや、そこでメノウ様とオニキスが見てるんだけどね・・・)
背中に視線を感じる。
「ん〜・・・っ」
ヒスイはコハクのシャツのボタンを外して胸元をペロリと舐めた。
「おにいちゃん〜・・・」
猫なで声でヒスイが甘える。
(ヒスイ・・・根はコッチだからなぁ・・・)
大の甘えっ子。
コハクにどっぷりと甘やかされて育ったヒスイはいくつになっても甘え癖が抜けなかった。
普段はツンとしていても、ここぞという時はしっかり甘えてくる。
(そこが可愛いんだ!!僕だけに甘えるヒスイ・・・あぁ、やばい)
決心が揺らぐ。
「でも8週目までは・・・我慢を・・・ブツブツ・・・落ち着いたら・・・17年ぶりの・・・妊婦プレイ・・・ムフッ」
「おにいちゃん?なにブツブツいってるの?」
肌の上でペロペロとヒスイの舌が動く。
「はやくしようよ・・・」
(う〜ん・・・でもヒスイの体の事を考えると・・・やっぱり今は・・・)
下半身のコントロールを試みる。
「・・・・・・・・・」
(だめっぽい・・・中に出さなければ大丈夫かな・・・)
前向きな検討。
他人の家であることを二人ともすっかり忘れていた。
前回から48時間・・・あっさり我慢の限界を迎える。
「ヒスイ・・・」
名前を囁きながらキス。
「おにいちゃん・・・」
「・・・マタニティ仕様でちょっとだけ・・・しようか」
「うんっ!」
「あ・・・はぁ・・・。はぁっ。あ。はっ。あんっ・・・」
「ちょっとでも痛かったら言ってね」
浅い挿入。奥を刺激しないようにソフトな出し入れを繰り返す。
「はっ。ふっ。んっ。ぜんぜん・・・へいき・・・あ・・・」
仰向けになったヒスイが両手でシーツを掴んだ。
ピンと胸を張って腰を浮かせる。
「ん・・・はっ。ああっ。お・・・にいちゃ・・・ぅんっ・・・あぁ」
「・・・何やってんだよ・・・人ん家で・・・」
窓からメノウが顔を覗かせた。
「ホント我慢のできない奴ら・・・」
窓側からはコハクの腰に回されたヒスイの足しか見えない。
「・・・・・・」
一方オニキスは外壁にもたれ、暮れかかった空を見ていた。
「はっ。うっ。おにいちゃん・・・おにいちゃ・・・」
ヌルヌルとした入り口付近を熱い先端で擽られ、嬉しそうにヒスイが笑う。
「あ・・・ん。おに〜・・・ちゃぁん」
「おヤ、まァ。ずいぶんな甘えっ子サンですネェ〜。」
そこで――長屋の主人が帰宅した。
「・・・・・・」
ヒスイ自ら脚を開いてコハクを受け入れている様がトパーズにとっては不快だった。
ヒスイの乱れる姿が嫌だ。
そしてヒスイを乱すコハクが許せない。
トパーズの右手がメキメキと音をたてた。
「・・・消えろ」
「おにいちゃん!あぶな・・・」
バチイィン!
神の爪をコハクが剣で止めた。
「・・・武器がわかっていればそう簡単にやられないよ」
しかしその姿はかなり間抜けだ。
はだけたシャツ一枚。下は当然何も履いていない。
「そんなに嫌?僕がヒスイに触れるのが」
ニヤリと勝者の顔で笑う。
「・・・・・・」
煽られたトパーズは無言で次の攻撃を繰り出した。
が、コハクはそれを余裕でかわした。
「ヒスイは下がってて」
いつの間にか服を着ているヒスイを背にコハクが剣を構える。
「“下がってて”じゃないでしょっ!!お兄ちゃん!早くズボン履いてっ!!」
ヒスイに怒られ、やっと自分の格好に気付く。
「あ、そういえば」
クフッ。
「大層なモノをお持ちデ」
「!!」
唇を舐めて笑うサファイアを見て、ヒスイが前に飛び出す。
「見ちゃだめっ!!」
「捕まえタ♪」
「え・・・?」
場がシーンとなる。
サファイアの腕にはヒスイが捉えられていた。
「ハ〜イ。皆サン。言うこと聞いてクダサイ〜」
(しまった・・・)
とりあえずズボンを履いたコハクが頭を掻く。
ヒスイを人質に取られてしまった。
「・・・・・・」
取り返すにも隙がない。
(メノウ様から“堕天使の娘”って聞いたけど・・・かなりデキる)
「外にイル、ギャラリーの方々もこちらヘ来てクダサイ」
「・・・ったくも〜・・・何やってんだよ・・・」
「・・・・・・」
窓からメノウとオニキスが入室した。
「すいません〜・・・」
隣に並んだメノウに責められ、コハクが謝る。
オニキスには足を踏まれた。
いきなり絶体絶命。
ヒスイを人質に取られては、誰一人動けない。
各々が頭の中で対策を練っている最中だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
クハハハハ!
「あっけないですネェ・・・揃いも揃って馬鹿バカリ♪」
「・・・目的は何だ」
コハクが一歩前に出て、サファイアを睨みつける。
「・・・チーム分けでもしましょうカ。このまま敵ナシっていうのモ退屈ですカラ」
ついてくるよう指示され、一行はサファイアの後に続いた。
サファイアの腕の中にはヒスイ。その傍らにトパーズ。
1メートルほど距離をおいて、コハク、メノウ、オニキス。
計6名で魔界へとやってきた。
そして空の旅。
一人一頭黒毛のペガサスが与えられ、夜空を駆ける。
ヒスイだけはサファイアと共に先頭の馬に跨っていた。
男達の運命を握る人質の割には緊張感に欠け、少し眠そうにしている。
魔界の大陸から離れ、飛行を続けること一時間。
赤みを帯びた月と海に挟まれた場所で先頭の馬が足を止めた。
海のど真ん中。
「・・・見てクダサイ」
サファイアが海面を指した。
「!!!!」
その先にあるものを見て一同息を飲む。
「・・・ヨルムン・・・ガルド?」
ヒスイの眠気も吹き飛んだ。
に照らされた海底・・・そこに見えるのはヨルムンガルド。
大陸を一周するほどの大きさを持つ巨大な世界蛇だった。
己の口で己の尾をくわえ、目をつぶったまま全く動かない。
「ワタシの育ての親デス」
「!!!」
「・・・・・・」
全員で驚く中、トパーズだけは事情を知っていたらしく表情ひとつ変えなかった。
「今でコソこの姿ですガ、昔はヒトに化けることガできたのデス。人間に捨てられたワタシを育ててくれマシタ」
「・・・病気なの?」
メノウは水面ギリギリまで近付いてヨルムンガルドの様子を窺った。
「えェ、自ら吹き出す猛毒で弱ってしまいましテ」
“魔界の海は毒に犯されている”有名な話だ。
その原因は海底に沈むヨルムンガルドだった。
「この海はもう駄目デス。他へ移さなけれバ、死んでシマウ」
「他へ移す?それってまさか・・・」
恐る恐るヒスイが訊ねる・・・
「ハイ。人間界をいただきマス。なにせ魔界は海が少ないノデ」
「人間界の海に毒を流すと?」
オニキスの口調は厳しかった。
「海を殺すということは生けとし生ける者を殺すということだ」
「ソレが何カ?」
サファイアがオニキスを見据える。
「無償の愛ヲ与えてくれる相手というのハ、世界よりモ大切デス」
はっきりそう公言して、コハクの傍に馬を寄せた。
「違いますカ?セラフィム」
「・・・・・・」
「お返ししまショウ。世界よりモ大切なアナタの宝ヲ」
ヒスイをコハクの馬へ移らせる。
「お兄ちゃんっ!」
「ヒスイっ!」
二人は馬上で抱き合った。
その様子をサファイアが笑顔で見守る。
「さて、答えを聞かせてクダサイ。セラフィム、アナタハ敵ですカ?味方ですカ?」
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