ヒスイを抱くと、目が覚めない。
「・・・ニキス!オニキスってば!!」
何度もヒスイに呼ばれる朝。
縫い合わされたように瞼が開かず、全身が鉛のように重い。
体が・・・起床を拒絶している。
ヒスイを抱いた朝は決まってこうなるのだ。
「今日は大事な会議があるって言ってたじゃない」
「!!」
ヒスイの言葉が闇を切り裂いた。
眠りの誘惑を断ち切り、オニキスが目覚める。
「あ、起きた?」
ヒスイはまっさらな姿で、胸も隠さずオニキスを覗き込んでいた。
「・・・今、何時だ?」
「10時」
「・・・・・・」
タイムオーバーだ。会議は9時から、と王である自分が宣言したというのに。
「ご安心ください」
メイド長のローズ。オニキスの秘書的役割も担っている。
会議は日を改めることになったと説明し。
「“世継ぎ作りに夜通し精を出しておられる”と、臣下達はむしろ喜んでます」
先王が早くに病で他界したため、モルダバイト直系の王族はオニキスしかいない。
期待が高まるのも当然であるが。
いささか棘のある口調でローズが言った。
「とはいえ、以後、お気をつけください。この結婚に誰もが好意的という訳ではありませんから」
姿こそこの世のものとは思えぬ美しさ。
しかし、素性は全く謎。
他国からの申し入れをことごとく蹴って、オニキスはヒスイを娶った。
城の者達の思いも様々だ。
ローズ自身はこの結婚に反対ではなかったが、ヒスイには多々問題があり、常に頭を悩ませていた。
離宮。パウダールーム。
「ヒスイ様、今日こそ出席してもらいますよ」
ヒスイの髪を梳かしながら、念を押すローズ。
国を挙げての婚礼の儀を済ませ、一週間。
祝辞を述べに、他国の王族の来訪が続いていた。
度々行われる会食。これも国交を深める重要な役割を持っている・・・が、ヒスイは出席を嫌がり、その度に仮病を使うので、“モルダバイトの王妃は病弱”と早くも噂になっていた。
「私はオニキスと結婚したの。国と結婚した訳じゃないわ」
「オニキス様と結婚したってことは、国と結婚したのと同じことです。誰が何と言おうと、オニキス様があなたを妻とする以上、あなたはこの国の王妃です」
「愛想笑いなんてできないもん」
「してください。国のために」
本意ではないのだが、ヒスイを相手にしているとシンジュばりの説教モードに入ってしまう。
「あ、いけない」
王妃専用の香水がほとんど残っていなかった。
「ヒスイ様、大人しく待っててくださいね」
宝物庫に取りに行ってくると言い、ローズは部屋を出た。
「・・・・・・」
ひとり残されたヒスイ。
鏡には口を尖らせた自分の顔が映っている。
にっこり、笑顔の練習をしてみるが、見事な引き攣り具合を見て、溜息。
「・・・王妃なんて柄じゃないわ」
それから10分後。
「ヒスイ様、お待たせしま・・・」
急ぎ足で離宮に戻ったローズ。けれども、鏡の前には誰もおらず。
「逃げられたわ!!」
「オニキス、大丈夫ですか」
今や腹心の部下であるシンジュが声をかけた。
王オニキスの不在で会議がお流れになったのは2度目だったのだ。
オニキスは、頭痛でも患っているかのような表情で玉座に座っていた。
「・・・目が覚めないのだが」
そういう病気はないか、と、オニキスは英知ある精霊であるシンジュに尋ねた。
するとシンジュは。
「問題は、体ではなく心のほうに。ご自分でもわかっておられるのでは?」
「・・・・・・」
最愛の女を妻とすることなかれ。
国と王妃を天秤に掛けられた時、迷わず国を選べるように。
王家に語り継がれる教訓を、シンジュが口ずさんだ。
「教訓に反し、あなたは最愛の女性を・・・ヒスイ様を妻とした。天秤はどちらに傾くのでしょうね」
「・・・・・・」
シンジュは口を閉ざしたままのオニキスを見据え。
「恐ろしいですか?天秤を傾けるヒスイ様が」
「そんな馬鹿なことがあるか」
一国の王が一人の少女に恐れをなすなど・・・そんなことがあっていい筈がないのだ。
「オニキス様!ヒスイ様がまた逃げました!!」
王の間に息を切らしたローズが現れた。
時は夕暮れ。辺りが暗くなるまで後わずかだ。
「すぐ探しに・・・」
オニキスが身を翻す・・・しかし、ジンシュは厳しい口調で。
「今夜はグロッシュラーとの会食の予定が入っております。王まで不在という訳にはいきません。後は我々にお任せを」
「・・・・・・」
そう言われ、立ち止まるオニキス。
「・・・わかった。ヒスイを頼む」
シンジュとローズは二手に分かれ、ヒスイの捜索を開始した。
こちら、ローズ。
「オニキス様のあんな顔、はじめて見たわ」
一言でいえば、悔しそう。
自分が探しに行きたかったに違いない。
「とにかくヒスイ様を見つけて・・・」
ところがヒスイは見つからず・・・深夜。
「・・・やっちゃったわ、ついに」
午前様、離宮の前に立つヒスイ。
ボイコットをしたのは確かだが、自分でもこんな時間になるとは思っていなかったのだ。
ローズ、シンジュ、そしてオニキスにも。
多大な迷惑と心配をかけたであろうことはわかっていた。
「ちゃんと謝らなくちゃ・・・」
「オニキス様!ヒスイ様が戻られました!ひどく汚れておられるので、湯浴みの後お連れ致します」
ローズの声が離宮に響いた。
「・・・ああ、頼む」
「それであの・・・腕にお怪我を」
「怪我だと?」オニキスの表情が一段と翳る。
しばらくして、オニキスの元へ届けられたヒスイは右手の肘から手首にかけて包帯が巻かれていた。
「・・・一体何があった」
「別にたいしたことじゃ・・・あ」
心配で堪らなかった分、感情を抑えきれず、オニキスはヒスイを抱きしめた。
「・・・ごめん・・・なさい」
「・・・もういい」
情熱のまま、ヒスイと唇を重ね、隙間に熱い息を流し込む。
同じように熱い息が返ってきて。
オニキスは、ヒスイの首筋に唇を押し当てながら、背中のファスナーを下ろし、ドレスを脱がせた。
現れたヒスイの乳房、先端の小粒にオニキスの舌先が触れる・・・同時に硬く尖り。
「ぁ・・・」
ヒスイが小さく声をあげた。
求められていることを体が理解し、入口が濡れ出す。
二人はそのままベッドへと倒れ込んだ。
「ヒスイ・・・」
仰向けになったヒスイの上に乗るオニキス。
もう何度か自分のペニスを受け入れた場所に指を伸ばした。
「んんっ・・・!」
紅潮するヒスイの顔を見つめながら、濡れた入口を探る。
そこはヌルヌルとして・・・一度知ってしまうと、癖になる手触りだった。
指を動かせば動かすほど、潤んでゆく女性器。
ヒスイの体がみせる反応が嬉しくて、執拗に弄ってしまう。
「あっ・・・あ・・・」
快感に腰を揺らしながら、ヒスイはオニキスの服を引っ張り。
「ずるいよ・・・オニキスもちゃんとぬいで」
「ああ」
裸になったオニキスは再びヒスイの上に乗り、脚の付け根に口を寄せた。
そこからは理性を麻痺させる甘い香りがして。
思わず、吸い付く。
「あっ・・・んっ!!」
陰唇への濃厚な口づけに驚くヒスイ。
「あ・・・はぁ・・・」
普段は言葉少ないヒスイでも、体はちゃんと愛を語る。
股間から湧き出る液体は、ヒスイの体が告げる愛。
得ることに夢中になって。
オニキスは両手でヒスイの割れ目を拡げ、愛液が分泌される穴のまわりを舐め続けた。
くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃ・・・
いやらしく音をたてるつもりはないのに、舌に愛液が絡まるとどうしてもそんな音を奏でてしまう。
「あん・・・ぁ・・・や・・・!!」
抵抗か、悦びか、曖昧にヒスイが喘ぐ。
オニキスの口はなかなか鳴り止まず、夫婦の寝室に淫らな水音を響かせた。
「うっ・・・うぅんっ!!」
愛撫に次ぐ愛撫で奥に蓄積された快感がペニスを欲する。
いよいよ待ちきれなくなり、ヒスイはオニキスを呼んだ。
「あ・・・あぁんっ!オニ・・・キス・・・」
「・・・・・・」
凹に凸を近付ける。
そそり立つペニスは、ヒスイの小さな穴にしてみれば凶器のようで。
最初の晩に随分と血を流したので、毎回壊れはしないかと心配になる。
けれどもヒスイは、毎回怖がることなく脚を開くのだった。
「ん・・・」
ちゅくっ・・・亀頭がヒスイの入口をくぐり、温かな膣肉に触れたところで。
オニキスの視線がヒスイの右腕に移った。
血行が良くなったせいか、包帯に少し血が滲んでいた。
「・・・痛むか?」
「へ・・・いき・・・こうしてると・・・痛みなんて・・・感じない・・・よ」
別のモノに感じている最中だ。腕の傷など全く気にならない。
しかし、オニキスは違っていた。
「・・・・・・」
「だから・・・あ・・・あっ!!」
オニキスのペニスが一気に前進した。
「あっ・・・オニっ・・・!!」
予想外の速度で中心を貫かれ、ヒスイの表情が困惑に歪む。
「あっ!はぁ・・・っ!!」
オニキスの力強いペニスが絶え間なく動く。
ヒスイの膣内で痛みと快感が入り乱れた。
「あっ!あぁんっ!あっ・・・うっ!!」
「っ・・・」
こんなに激しく腰を振ったのも、強く奥を突いたのも初めてだった。
「・・・・・・」
度々城を抜け出すヒスイ。
王妃となったことで、急に自由を奪われ。
窮屈な日々に息が詰まるのだろうと、これまで厳しく咎めたりはしなかったが。
こんな風に怪我をして戻るなら、もう安心して外に出せない。出したくない。
このままずっと繋いでおければ・・・そんな気持ちから、何度も何度もヒスイの体に肉の楔を打ち込んで。
「あっ!あんっ!あっ!あぁっ・・・あっ・・・あ!!」
愛に、溺れていく・・・
抱けば抱くほど、心は国から離れ、ヒスイの元へ。
『恐ろしいですか?天秤を傾けるヒスイ様が』
射精と同時に、シンジュの言葉が脳裏を掠める。
オレは・・・恐れているのか?
容易く天秤を動かすこの女と、朝、再び出会うことを。
そして、翌朝。
「・・・ニキス!オニキスっ!!」
「・・・・・・」
「オニキスっ!起きて!!」
「・・・・・・」
「今日こそ会議するんでしょ?」
「!!」“会議”という単語に反応し、オニキスは目覚めた。
「・・・今、何時だ?」
「12時」
「・・・・・・」
またもやタイムオーバー。目覚めの時間はずれ込む一方で、もはや話にならない。
前髪を掻き上げ、深い溜息。
(何をやっているんだ・・・オレは)
こうしてオニキスは3度目の会議に欠席した。
そこで、ローズとシンジュ。従業員食堂にて。
「絶対まずいわよ!!」
ローズはオニキスの異変に心配を募らせていた。
「何がですか?」
「何であんたそんなに余裕なの?このままじゃ、ヒスイ様に国を滅ぼされるかもしれないのに!!」
ローズの飛躍的解釈。だが、悪妻に破滅させられた王の話は珍しくない。
「大袈裟ですよ、ローズ」シンジュはこぶ茶を啜り。
「オニキスは、これまで心を大きく動かされる事がなかったのでしょう」
「ヒスイ様以外に?」
「そうです。どこまで愛していいのか迷っているだけで、そのうち答えを出すはずです」
‖目次へ‖‖後編へ‖