モルダバイト城――真夏の夜。


離宮。パウダールームにて。

「今夜もお綺麗ですよ、ヒスイ様」
メイド長ローズが誇らしげに言った。
王に寵愛されるよう王妃を美しく磨き上げるのも重要な仕事のひとつだ。
ヒスイが他のメイドに肌を許さないので、今やローズが側近中の側近で。
エステティシャンの役目までこなしている。
そんな訳で、ローズは昼夜問わずヒスイに付き添っていた。


「オニキス様って、どんなエッチするんですか?」
「べつに普通だと思うよ」


二人はしょっちゅうこんな会話をしていた。
メイド達は皆、王オニキスに憧れと尊敬の念を抱いている。
ローズもそのひとりで。オニキスの愛妻ヒスイから聞き出す話は、メイド達の間で格好のお喋りネタになる。
とはいえ、話下手なヒスイの口から、メイド達が期待するような話題はなかなか出てこない。
そこでローズは考えた。ネタがないなら作るまで、と。
「じゃあ、ヒスイ様は?どんなテクニックを?オニキス様を射止めるくらいだから、さぞすごいんでしょうね?」
まずは遠回しに、ヒスイにプレッシャーを与えるローズ。
「え?私???」
「まさかマグロなんてことないですよね?」
「・・・うん、まあ」
そう返答したヒスイの目が泳ぐ。
(ヒスイ様ってホント嘘つくの下手よね)
ローズは笑いを堪えながら。
「ヒスイ様、大人のオモチャってご存知ですか」
大きな宝石箱を出して、蓋を開ける。
中には、大人のオモチャの筆頭ともいうべきバイブが入っていた。
先日、メイド仲間と飲みに行ったところ、偶然性具を扱う店を見つけたのだ。
そこでしこたま買い込んできた。当然、ヒスイに使わせるために、だ。
「わ・・・なにこれ・・・」
世間知らずのヒスイは、バイブに興味津々で。熱心に、ローズの話を聞いていた。
「王と王妃が円満であることが、国の安定に繋がるんですから。夜の方もしっかり頑張ってください」
そうローズに言いくるめられ、奮い立つヒスイ。
「ん!わかったっ!使ってみるっ!」



離宮。夫婦の寝室にて。

「オニキス!見て見て!」
部屋に送り届けられたヒスイは、早速オニキスの前で宝石箱を開いてみせた。
中味は宝石ではなく、数種類のバイブとローションが入っている。
「・・・何だそれは」わかっていて、あえて訊くオニキス。
するとヒスイは・・・
「何って、大人のオモチャでしょ?」
ローズにあれこれ吹き込まれたため、すっかり詳しくなっていた。
「使ってみようよ」と、わくわくした表情で“おどうぐH”をねだるヒスイ。
「・・・・・・」一方オニキスは・・・不服だ。両腕を組んで黙る。
(オレに何か不満でもあるのか?これは・・・あてつけか?)
大人のオモチャ詰め合わせセットの中から、ヒスイが選び出したバイブは極太で。常軌を逸した形状をしている。
ヒスイの膣に収まるとは到底思えない。
「・・・没収だ」と、オニキスはヒスイからバイブを取り上げた。
「やだっ!返してっ!」
バイブを取り返すべく、ヒスイがぴょんぴょん跳ねる。が。
長身のオニキスとチビっ娘のヒスイ。どんなに高く飛んでも届くはずもなかった。
「なんでだめなの?」拗ねた顔でヒスイが見上げる。
はぁーっ・・・オニキスは深い溜息で。
「・・・だめなものはだめだ」



もちろん、このままでは終わらない。

翌日。AM11:50。
オニキスは各種申請の承認作業に追われていた。
午後からは視察の予定も入っている。ゆっくり昼食を摂る時間もなかった。そんな折。


「オニキス〜・・・」


ヒスイがやってきて。オニキスに身を寄せると、横からネクタイを引っ張った。
「・・・仕事中だ」と、一度はヒスイを突き離すも。
「・・・・・・」惚れた弱味で、どうしてもヒスイを甘やかしてしまう。
オニキスは席を立ち、ヒスイと向き合うと・・・


「・・・夜までこれで我慢しろ」


そう言って、ヒスイの頬を両手で包み、たっぷりと口づけた。ところが。
「あ・・・んぅ・・・」
「・・・どうした?」
オニキスはヒスイの変調に気付いた。唇も頬も異様な熱を帯びている。
「オニ・・・キス・・・わ・・・たし・・・あッ・・・ん」
艶かしい声を出すヒスイ。
オニキスが抱きしめると、その体はビクビク震えていた。
「お・・・おっぱい・・・なんかくっつけられ・・・んッ・・・」
「!?」(まさか・・・)
オニキスらしからぬ慌てぶりで、ドレスを肩から脱がせる。すると。
「な・・・」
現れたのは、卵型のローター。それも二つ。
ヒスイの両乳首を押し潰すようにして、テープで固定されていた。
「・・・・・・」
ヒスイが自分でここまでするとは考えにくい。ローズの仕業であろうことはすぐにわかった。
「待ってろ、今・・・」
すぐに剥し取ったが、散々刺激された乳首は充血して膨れ上がり、ヒスイの平らな体から突き出していた。
「はぁ、はぁ、ぁ・・・」
昂ったものが治まらず、ヒスイが魅惑の息を吐く。
「・・・したいか?」
オニキスが尋ねると、ヒスイはこくり、頷いた。



カーテンを閉め、薄暗くなった室内。
そこにはベッドすらなく。オニキスはヒスイを壁に寄り掛からせた。
「はぁ・・・ぁ・・・オニ・・・」
「・・・・・・」
尖った乳首は愛らしく。口づけせずにはいられない。
ちゅっ。ちゅっ。何度かそこにキスをしたあと、オニキスは、まず片方を口に含み。
そのままヒスイの薄い体を掴むと、親指をもう片方の乳首にのせ、動かした。
「あっ・・・ぁ・・・」
くにくに、乳首が折れ曲がる。オニキスの愛撫で、これ以上ないくらい、ぷっくり、ぱんぱんに育っていた。
感度も一段と良くなって。舐め上げられると、全身がぞくぞくして、じっとしていられない。
「あ・・・オニ・・・キスぅ〜・・・」
乳首に吸い付くオニキスの頭部に両腕を回し、艶やかな黒髪に顔を埋めるヒスイ。
「っ・・・あっ」
乳輪を舌先で擽られ、肩を竦める。
「ヒスイ」
「ん・・・」
揉まれて。吸われて。ときどきキスをして。
心地良い快感に身を任せていたが・・・行為は次の段階に移り。
オニキスの手が乳首から離れ、下着の中へ入ってきた。
「あっ・・・!んぅっ!!」
驚いて、オニキスの肩口を掴むと。唇にキスを与えられ、すぐにそっちに夢中になって。自然と足が開いた。
「んっ!!んん・・・っ!!」
オニキスの指先が触れる・・・そこは、クリトリス。性感帯だ。
包皮からはみ出している部分をくいくい押し上げられ。
「あっあ・・・」
膣口が弛んで、愛液がこぼれる。
「ふぁ・・・あ・・・」
何とも言えない浮遊感。クリトリスを弄られている時はいつもそうだ。
高い所から急降下するみたいに。ぞくっと、気持ちいい。
「あっ・・・ふぁっ・・・あ〜・・・!!!!」
どこまでも堕ちてしまいそうで、少し怖くなって。ヒスイはオニキスにしがみついた。
「あっ・・・ん・・・オニ・・・」
「・・・・・・」
ヒスイの反応を見ながら、指を動かすオニキス。
敏感で繊細な場所だけに、後で痛みが残ることがないよう、愛しすぎに注意して。
合間のキスも欠かさない。
これほど大事に抱いているのに、なぜ大人のオモチャなどと言い出したのか。どうも釈然としない。
「・・・・・・」
オニキスは右手を更に奥へと入れ、指の腹でヒスイの膣口を押し撫でた。
「あんんっ・・・!!」
ちゅくちゅく。そこはヒスイと一緒に愛らしい声で鳴き。オニキスの指先を濡らした。
「・・・・・・」
この先の小さな空間に指を入れるのさえ躊躇うというのに、バイブを入れられてなるものか・・・
そんなことを考えながら、にゅくにゅく、ヒスイの膣口を撫で回すオニキス。
「あっ・・・あっ・・・あぁっ!!!」
ヒスイの腰が、揺れて、震える。
次第に、壁に寄り掛かっていることさえままならなくなり、ずるずると床に滑り落ちた。
「っあっ・・・あぁ〜・・・」
真っ白な肌にうっすら汗が滲む。その姿はとても美しかった。
「・・・・・・」
ヒスイの上に乗り、下着に手をかけるオニキス。
今度は膣口を舌で愛撫するつもりで、引き下ろしながら顔を埋める・・・が。
「や・・・っ・・・」
力いっぱい髪を掴まれ。ヒスイの抵抗を受ける。
「そこ・・・も・・・ぐちゃぐちゃだも・・・かお、よごれちゃうよ」と、ヒスイ。
「構いはしない」と、濡れた膣口に舌を伸ばすオニキスだったが・・・
「・・・わかった」
ヒスイの気持ちを汲んで、今回は控える。
オニキスはスーツのベルトを外し、勃起ペニスを出した。


「いいのか?」
「ん・・・」


陰唇を親指で拡げ、ヒスイの膣口に自身の亀頭を寄せる。
そこはしっとりとやわらかく、そして、密やかに息づいていた。
オニキスは、ヒスイの膣にゆっくりとペニスを飲み込ませていった。
ずくずくずく・・・膣肉が順調に開き、そのすべてがペニスで埋まる。
「んっ・・・んぐっ・・・あっ!!!あぁあっ!!」
膣内で発熱するペニス。骨盤が溶けてなくなりそうな、飛び抜けた快感に見舞われ、ヒスイは大声で喘いだ。
「・・・・・・」
ここからが、まさに男のみせどころで。
(・・・仕方があるまい)
ヒスイを調教するような真似はできればしたくなかった。しかし。
(昨日といい、今日といい・・・)
ヒスイに芽生えた、大人のオモチャへの興味を早目に断ち切っておく必要がある。と、オニキスは考え。
「・・・ヒスイ」
「う・・・ん?」
「よく見ておけ」
根元まで挿入したペニスを膣から抜き出し、ヒスイに見せた。


「これが・・・お前の中にいつも入っているものだ」


赤黒く、太く長く、反り返った先は湿り。幹には血管が浮き出ている。
「っ・・・!!!」
顔を真っ赤にしてヒスイが見ている中で、その太ももを掴んで引き上げ、再び膣口に亀頭を押し込むオニキス。
「醜いものだが・・・生憎これしか持ち合わせていない」
そう言って、残りを一気にヒスイの中へと沈めた。


「!!っぁ・・・あぁっ!!!」


ズプンッ・・・!!ペニスが落ちてくる。
「あうん・・・っ!!!」
膣底への衝撃で、ヒスイの体が跳ねあがった。
「あ・・ふぁ・・・あぁんっ!!」
オニキスは、ヒスイのお尻を持ち上げ、ぐぐっ・・・自らも腰を突き出し。
亀頭で子宮口を押し上げながら、強く擦り合わせた。
「ひっ・・・うぁ・・・あぁっ・・・!!!」
重なった股間から、ポタポタと愛液が落ちる。
ヒスイは涙目でぶるぶる震え、絶頂へと向かった。
「あっあー・・・!!あっあっあっ・・・あっ・・・あ、あぁ・・・っふ・・・」
昇り詰めたヒスイの膣口が締まる。と、そこで。


「・・・これでは足りんか」


オニキスが言った。
続けて、ヒスイの膝の裏に手を入れ、前へと押し上げ。
浮かせた腰に乗りかかるようにして、イキたての膣に何度もペニスを落とし込んだ。
「!!いっ・・・!ひぁっ・・・!あっあっ・・・!あ・・・あぁんっ!!!」
ヒスイは再び喘ぎ出し。
「あ・・・っ・・・」
オニキスの射精を受けながら、ふるふる、頭を振った。
「オニキスの・・・だけで・・・い・・・も・・・おなかいっぱい・・・」
「ヒスイ・・・」
その言葉を聞いて、ひと安心するオニキス。
「あ・・・オニ・・・」
右腕を床につき、左手でヒスイの肩をしっかり掴んで。熱い唇を重ねる。
「ん・・・」
ヒスイもオニキスの肩に手を掛け。
ちゅっ。ちゅっ。セックスのあとの愛情確認。


・・・その時。扉が叩かれた。


オニキスの側近シンジュの声で。
「オニキス、そろそろ出発しないと間に合いませんよ」と、急かされる。
「・・・・・・」(そうだった)
視察の仕事が残っていたのを思い出す。
「・・・すまん」
ヒスイにもう一度キスをしてから、ペニスを抜いて。
オニキスは立ち上り、ベルトを締めた。かなり忙しない。
「いいよ、時間ないんでしょ」肩で息をしながら、ヒスイが笑った。
「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
弛んだネクタイを締め直しながら、早足で廊下を歩くオニキス。
(・・・何をやっているんだ、オレは)自身に呆れる。
(真昼間からヒスイを抱くとは・・・)しかも本気を出してしまった。
「・・・ありえん」



猛烈に反省するオニキスだったが・・・話は翌日に続く。



「オニキス!見て見て!」
「・・・・・・」(なぜそうなる・・・)
調教、失敗。昨日、あれだけ体に言い聞かせた筈なのに。ヒスイは懲りていなかった。
「じゃ〜ん!」得意になってお披露目したのは、ぴっかぴっかの・・・貞操帯。
バイブは諦めたようだが、メイド達に次なるオモチャを勧められ・・・今に至る。
「ここに穴が開いててね、ちゃんとおしっこできるんだよ!」と、ヒスイは嬉しそうにしている。
「・・・・・・」
ピンクゴールドを基調としたステンレス製で、確かにデザインはキュートだ。
サイズも小柄なヒスイにぴったり・・・恐らくオーダーメイドの品だ。
「・・・・・・」
「でね、ここの鍵をオニキスにあげたら喜ぶかなって・・・あれ???」
「・・・・・・」
待っても、鍵が出てこない。
ヒスイは室内をうろうろし始めた。しゃがんで絨毯を捲ってみたり。背伸びして壺を覗いてみたり。
この行動は間違いなく・・・紛失物の捜索だ。
「・・・・・・」(この女は・・・)
どうしてこう次々と問題を起こすのか。
オニキスは額に手をあて、深い溜息とともに言った。


「鍵を・・・なくしたか」
「うん・・・そうみたい」




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