「如何にもです」と、男は返事をした。
「どんな鍵でもこれ一本で」
そう言って、ヘアピンをオニキスに見せる。種も仕掛けもない、ごく普通のヘアピンだ。
ポルノショップ店主談では、結構な実績を持っているらしい。
「・・・・・・」
信用できる人物か、オニキスが見定めていると。
そこにヒスイがやってきた。
「誰、このヒト?」
オニキスの隣に立ち、視界を確保するためフードを外す。そして。
「あ、サーカス芸人?」
ぽろっと、第一印象を洩らした。すると男は。
「違いますよ。ウフフ・・・お茶目なマドモアゼルだ」
「じゃあ、何???」
ヒスイは不思議そうな顔で男を見上げ。男は自己紹介を始めた。
オニキスは、その様子を傍目で見つつ・・・
(すべてが本当ならば、願ってもない話だが・・・)
思案の末、口を開いた。
「・・・どんな鍵でも開けられると言ったな」
「ウィ、ムッシュ」男が返事をする。
このやりとりにピンときたヒスイが、男の前でコートを開いた。
「これの鍵を失くしちゃって。開かなくて困ってるんだけど・・・ん?何?オニキス」
両腕でヒスイを懐に引き戻すオニキス・・・男を見据え、言った。


「ならば、鍵の開け方をオレに教えて欲しい」


驚いたのはヒスイだ。
「え?ちょっ・・・オニキスっ!?」
急遽弟子入りが決まったオニキスは男の店へ出向き。
ヒスイはポルノショップに預けられた。
「・・・・・・」(何、この展開・・・)
再びフードを被ると、ぽとっ、中から飴が落ちてきた。
「?」(さっきのヒトが入れてくれたのかな???)
包みを開き、飴を口に放り込むヒスイ。
「オニキス、夕べ鍵開けられなかったの、そんなに悔しかったのかな」



それから・・・半日が過ぎ。やっとオニキスが戻ってきた。
「すまん、遅くなった」
「ふあぁーっ」ヒスイの返事は欠伸だ。
暇つぶしに、と、店主が貸してくれた成人向け雑誌も見飽きてしまっていた。
「もう遅いし、泊っていこうよ」と、ヒスイ。
「止むを得ん」オニキスが頷く。
ポルノショップ上階には、ラブホテルが併設されていた。
バス・トイレ・ベッド・・・一通り揃っているが、簡易な作りで、壁は薄い。
「入ったからには、するしかないよね」意気込むヒスイ。
「・・・まあ、そうだが」
直営店だけあって、部屋の棚には大人のオモチャが豊富に用意されていた。
「・・・使うか?」
オニキスが尋ねると。ヒスイは首を横に振り。
「こういうの、男のヒト好きって聞いたから、オニキスもそうなのかと思ったけど、違うみたいだし」
ポルノショップの商品にオニキスが全く興味を示さなかったことが決定打となり、ヒスイもやっと理解した。
「私、胸ないし。子供みたいな体だってみんなに言われるし。だからこれで補おうと思ったんだけど・・・」
そう、自身のコンプレックスを明かす。
「・・・・・・」
「オニキス?ひぁ・・・」
ヒスイの頬に口づけるオニキス。それから両腕でヒスイを抱きしめ。
「言わんとわからんか?」
「?」
「この体に不満など、ない。そんなものがなくとも、オレには充分魅力的な体だ」
「は・・・恥ずかしいこと・・・いわないでよ・・・」
「言わせているのはそっちだろう」オニキスは抱擁を深くした。
「ヴ〜・・・」照れて、言葉に困るヒスイ。オニキスの胸に赤い顔を埋め。
「鍵、開けてくれる?」
「ああ」

カチャカチャカチャ・・・ピンッ!

ピッキングをマスターしたオニキスは、昨晩とは一転、見事な手捌きだ。
免許皆伝の証として受け取ったヘアピン1本で、いとも簡単に貞操帯を開錠してみせた。



ベッドの上、裸で抱き合う二人。
人肌の感触に、お互い眩暈を覚える。
オニキスは、片手でヒスイの胸を揉みながら、唇を重ね舌を絡ませ合った。
「んっ・・・あ・・・」
乳房を握る手に力を加える度、ヒスイの口から熱い息が漏れる。
「ぁ・・・はぁ・・・」(あったかい・・・)
オニキスの体温に感動するヒスイ。
貞操帯に覆われるより、この手に覆われた方がずっといい。
(もっとさわってほし・・・)
唾液を口の端からこぼしながら思う。
「あ・・・オニ・・・は・・・ぁ」
乳首を吸われ、膣口が濡れる。間もなく、オニキスの手で両脚を開かれ。
割れ目に、精悍な顔が近付いてきた。何をされるか、当然知っている。
オニキスが口を開け、舌を見せた瞬間・・・
「んっ・・・!」
びくっ!ヒスイは早くも震え。
膝を内側に向け、恥じらう素振りを見せる・・・が。
オニキスも、今回は譲らない。
少々強引に顔を埋め、ぎゅぷんっ・・・濡れた肉の合わせ目に舌を潜らせた。
陰唇の間を抜け、膣口を開き、更に深く入り込ませる・・・
「んぁ・・・っ!!」
膣を舐められた瞬間、ヒスイは大きく一回跳ね上がり。
観念して、オニキスの舌を受け入れた。
「あ・・・」
(きょう・・・ふかい・・・)
たっぷりと、舌の根まで入っている。
「ん・・・っ・・・あ・・・はぁはぁ・・・」
力まないよう意識しながら、その舌に膣を委ね。
シーツを掴む手のひらに汗。額にもじんわり汗が浮かぶ。
「あ・・・ふぁ・・・」
(おなかのなか・・・ぜんぶ・・・なめられちゃいそ・・・)
膣壁にオニキスの舌先が触れる。ぬるぬる、撫でられて、気持ちいい。
「あ、あんっ・・・!!」
全身を朱に染め、喘ぐヒスイ・・・だが、ひとつ気がかりがあった。
(わたしはきもちいいけど・・・オニキスはこれでいいのかな・・・)
尽くされて当たり前、とは思っていない。だからこそ、オニキスのペニスの具合が気になって。
「オニ・・・キス・・・」
ヒスイが上体を起こすと、オニキスは一旦舌を抜き。
「どうした?」と、ヒスイの顔を見た。
一方ヒスイは、じっとオニキスの勃起を見て・・・嬉しくなる。
「ヒスイ?」
「ちっとも醜くないよ」ヒスイはそこに手を伸ばし。
「わたし・・・これ好き」湿った先を、ぺとぺと、指で触って。
付着したオニキスの体液を、自分の口に運んだ。
「オニキスの味がする」と言って、無邪気に笑うヒスイ・・・
「・・・・・・」
そんなヒスイに煽られて。もっと愛したくなる。
オニキスは、ヒスイの二の腕を掴み、引き寄せ、キスをした。



後ろからがいい、と、ヒスイが言うので、体位を変え。
四つん這いになったヒスイのお尻を抱え・・・再び膣に舌を入れる。
「!!あ、あぁっ!!オニ・・・キスぅ〜・・・」
前回の分が上乗せされた、濃厚なクンニリングス。
女性器が熟れた果実だとすれば、果肉にかぶりつき、甘い果汁を啜る。そんな舌戯だ。
ぎちゅぎちゅ・・・溺愛される膣から音がした。
「あ、あ、あぁ・・・」
快感に震えて、逃げ腰になるヒスイ。追って、舌を押し込むオニキス。
ヒスイの尻肉を掴んで拡げ、より奥へと舌を伸ばし。膣肉を掘り起こす。
ちゅくちゅく・・・オニキスの顎の先から、愛液が伝う。
「ん・・・っ!!あぁっ!!!」
ヒスイは大声で喘ぎ。髪を振り乱した。
愛されすぎて、膣内はもうふにゃふにゃだ。


「も・・・だめ・・・やぁ・・・っ!!!ひっく・・・うぇっ・・・」


ヒスイが泣き出したので、オニキスは舌を退き。口元を拭った。
「・・・・・・」
(確かに・・・やりすぎたかもしれん・・・)
どこで理性を失ったのか、自分でもわからない。
かなり息が荒れている。ヒスイの体に夢中になるあまり、ろくに呼吸もしていなかったように思う。
「・・・・・・」
ヒスイの処女膜を破ったのは、もうずいぶん前のこと。
それこそ毎晩抱いているというのに、なぜこうも溺れてしまうのか。
(盛りすぎだ)と、自身を諌め。
オニキスは、バックからヒスイの腰を掴み、膣口に亀頭を向けた。
互いに液垂れ・・・濡れたもの同士、惹かれ合って、交わる。


「んぐっ・・・!!」
「っ・・・」


自分の舌でほぐした膣は、いっそう愛おしく。ペニスも漲り、割増する。
「ふぁ・・・っ・・・ん!!おっき・・・」
受け入れ途中で、ヒスイが思わず口走ると。
オニキスは挿入を停止し、ヒスイを気遣った。
「入るか?」
「ん、だいじょ・・・ぶ」
「・・・もう少しだ」
ちゅっ。ヒスイの背中にキスを落とし、片腕を前へと伸ばすオニキス。
股間のクリトリスを手探りし、そこを擦り出した。
「あ・・・っ!あぁぁんっ!!!」
指でヒスイの気を引きながら、挿入再開・・・
いつもより更にきつい膣へ、ずりゅっ、ぐりゅっ、時間をかけてペニスを捻じ込む。
「ふぁん・・・っ!!!」
前と後ろの同時責め。クリトリスの刺激で沸き起こる快感がペニスで弾け。
また新たな快感が生まれ・・・虜になっているうちに無事挿入が済んだ。
結合に多量の愛液が使われたため、ヒスイの太ももはびっしょり濡れていた。


「あ・・・おにく・・・ぜんぶひらいちゃ・・・きもちぃ・・・」


上体を伏せ、ヒスイが呟く。その様がなんともエロティックで。
「・・・・・・」
勘弁してくれ、と、思う。
ヒスイは率直な感想を述べているだけだが、天然の男殺しだ。益々ペニスが太くなる。
「あっ・・・や・・・オニ・・・」
敏感に感じ取り、一段と頬を赤らめるヒスイ。
「少し動かすぞ」オニキスが言って。
ズッ、ズプッ、ズチュッ・・・ヒスイの膣に深い音を響かせた。
「あっ!あんっ!あっあ・・・あぁっ!!!」
膣ヒダがグチュグチュ波打ち、芯から痺れる。
「は・・・ふぁ・・・えっちって・・・なんでこんなにきもちいいのかな・・・すきなひとと・・・する・・・から・・・んっ!!」
「黙っていろ」と、ヒスイの口を手で覆うオニキス。


「これ以上、煽るな」


膨れ上がる、愛しさとペニス。一気に射精感が高まる。
オニキスは腰を前に突き出した。
ヒスイの背中に乗り掛かり、膣奥を圧迫する。
「んく・・・っ!!!」
押して。押して。押し上げて。
「んん〜!!!!」
昇り詰めてゆくヒスイの頬に、横からそっとキスをして。登頂を見守る。
「んっ・・・ん・・・ん」
ぎゅうぅぅぅ!!膣が締まった。今度はペニスが圧迫される番だ。
「く・・・」
眉間に皺を寄せ、軽く唇を噛むオニキス。
陰嚢から送り出された精液が、ヒスイの中で勢い良く噴き上がった。
「あっ・・・うぅん・・・オニ・・・キスぅ・・・」



繋がり合ったまま、体勢を変え、ヒスイと向き合う正常位。
射精が済んでも、気持ちは一向に冷めず。
はぁはぁ・・・乱れた呼吸のまま、キスを続ける。
極濡れした結合部は、深く愛し合った証拠だ。淫らでも、誇らしく。
自身の精液で満たした膣の居心地の良さといったら・・・言葉にできない。
「オニキス?ひぁ・・・」
もうひとつの証拠を残すため、オニキスはヒスイの首筋に吸いついた。
すぐにでも消えてしまいそうな、淡いキスマーク。
ローズの目につくまでもてばいい。外泊の説明はこれで省ける。
オニキスの首に両腕を回し、「こんなにくっついてたら、またしたくなっちゃうよ?」と、笑うヒスイ。
「ふ・・・構わん」オニキスはもう一度ヒスイとキスを交わし。それから、ヒスイの耳元で囁いた。


「お前が望むだけ、何度でも、だ」



ラブホテルで一夜を明かし。翌日、二人はペンデロークを発った。

貸切馬車に乗り込んで、揺られること3時間・・・ヒスイは常時ご機嫌な顔で外の景色を見ていた。
マントの下は、オニキスが選んだ空色のワンピース。
貞操帯の代わりに買って貰った。それがとても、嬉しい。
「元はといえば、鍵をなくした私が悪いんだけど・・・」
オニキスに視線を移し、ヒスイが言った。
「楽しかった、なんて言ったら、怒る?」
「いや」苦笑するオニキス。怒る筈がない。
ポルノショップに行ったり。鍵師に弟子入りしたり。ラブホテルに泊まったり。
充実した1日だったと思う。ヒスイと一緒でなければできない冒険だ。
トラブルメーカーには違いないが、結局そこが愛しくもあるのだ。
(何ということはない)

ヒスイのどんな失敗もカバーできるよう、男を磨くだけのこと。

「あ!見えてきたよ!」
ヒスイが指差す、モルダバイト城。
メイド長ローズが首を長くして待っているに違いない。
「ああ、帰るぞ。城へ」
「うんっ!帰ろっ!」




こうして、鍵紛失事件は終息を迎えた。
真相は誰にも知られぬまま、ヒスイの名誉は守られ。

反面、“オニキスが大人のオモチャにハマった”という噂がメイド達の間で流れたという。


鍵の行方は・・・いまだ謎である。




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