モルダバイト歴X年。


王オニキスが、反対派の大臣を説き伏せ、謎の美少女ヒスイとの婚約を発表。
婚礼の儀に備え、活気づく城内・・・その一方で。


「どういうつもり?」と、シンジュを睨むヒスイ。
離れの宮殿にある地下の一室に、閉じ込められていた。
「ヒスイ様、落ち着いて聞いてください」
シンジュが明かしたのは、モルダバイト王家のしきたりのひとつ。
「王妃となる女性は、夜も王に尽くさねばなりません」
つまり、これから・・・
「女性が男性に尽くすうえでの、性戯を覚えていただきます」
「・・・なんでそんなことしなきゃいけないのよ」
「王家の繁栄のためです」シンジュが即答する。
「オニキスを困らせたくはないでしょう。これまで、苦労の掛け通しだったんですから」
相変わらず、仏頂面の辛口だ。
「わ・・・わかったわよ!!やればいいんでしょっ!!」



今いる地下室は、まさにそのために造られたかの内装で。
天蓋付きのベッドや絨毯・・・王家の寝室と同じものが揃えられていた。
予行練習の場としては、最適である。
「それでは ――」と、シンジュが教育内容を説明する。
「口を使ってご奉仕する方法。胸を使ってご奉仕する方法。あとは、基本的な夜のマナーです。破瓜の際、痛がる素振りを見せてはいけないそうですから、対策を講じておきましょう。他にも覚えることは沢山ありますよ。いいですね、ヒスイ様」
「・・・オニキスとエッチするのって、そんなに大変なの???」
「・・・そのようですね」


(まずいわ)←心の声の主は・・・メイド長ローズだ。


地下室=予備の家具が置いてあるだけの倉庫を、覗いていたのだ。
モルダバイト王家のしきたり云々、ヒスイの従者であるシンジュに、あることないこと吹き込んだ張本人であった。
(まさか本気にするなんて・・・2人ともバカじゃないの!?)
変に真面目なところのある主従だ。真剣に取り組むあまり・・・
(そのまま本番になりかねないわ!!)
何にせよ、悪いのは自分だ。メイド長としてあるまじき事件を起こしてしまった。



「オニキス様!!」

婚礼の儀の打ち合わせを済ませ、会議室から出てきたところを捕まえる。
「ローズか。ヒスイはどうしている?」
「シンジュと花嫁修業をしてます」
「そうか」
「・・・夜の、ですが」
「な・・・んだと?」
「申し訳けございません!!実は ――」
初夜で、王の手を煩わせないよう、婚前調教のしきたりがある、と。
「シンジュに話してしまいました」
「・・・なぜそんな嘘をついた」と、オニキス。
勘付いたうえでの問いだ。ローズは正直に恋心を打ち明けた。
「シンジュの気を引きたかったからです」
処罰を受ける覚悟で深々と頭を下げる。
・・・が、顔を上げるようオニキスは言い。
「ヒスイとシンジュはどこにいる?」
「離宮の地下です」
「わかった。すぐに向かう ――」



引き続き、こちら、シンジュとヒスイ。

「まず、実物を見ていただきます」
シンジュは、オニキスと同じ20代半ばへと姿を変え、静かに服を脱いだ。
男性器は、何の反応も示してしない。
シンジュの正体は、光の精霊だ。性欲とは本来無縁なのだ。
「ご心配なく、薬を飲みますので」
それは、男性器を興奮状態にするためのもの。
シンジュは、自身の勃起を教材としてヒスイの目前に晒した。
・・・究極の忠誠心だ。
「形などは若干異なりますが、反応は同じだと思います」
「それで?どうすればいいの?」
「触って、慣れてください」
「うん、わかった」
頷いたヒスイが、シンジュの前で跪き、勃起に手を伸ばした、その時。


「待て ――」


地下室に、低い声が響く。
そこには、目元を仮面で隠した男が立っていた。
「誰???」
目をぱちくりしているヒスイ。
「・・・王室付きの調教師だ」と、男が答える。
証拠として、王の委任状を見せた。
筆跡も印も、間違いなくオニキスのものだ。
それもそのはず・・・自分で書いたのだから。
「・・・・・・」
(とんだ茶番だが・・・これくらいしなければ、シンジュも引くに引けんだろう)
ローズの嘘を暴かず、この場をうまく収めるには・・・と、考えてのことだった。
「・・・わかりました。お任せします」
服を着たシンジュは、ヒスイを残し、地下室から出ていった。
あとはヒスイに事の真相を明かすだけだが・・・


「ちょっとっ!!オニキスはどこ!?」


調教師に扮したオニキスに、すごい剣幕で迫ってくる。
「委任状って何よ!?」


「ヒトに頼むくらいなら、自分でやりなさいよ!!バカぁぁ!!」




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