3階建ての家。トパーズ。
「・・・・・・」
ヒスイを帰した後、きっちり仕事は終わらせた。
失恋しようが仕事は待ったなしだ。あれこれ考えている暇はない。
空が明るく白んでくる頃。
気分転換のつもりで家を出て、咥え煙草で波止場まで歩く。
ヒスイがいない・・・喪失感を味わいながら、ひとり海風に吹かれ。
波止場に着くと、そこには、オニキス・カーネリアン・メノウがいた。
夜明けに際し、様子を見にきたのだ。
「・・・・・・」
トパーズは表情こそ変えないものの、さすがに少し驚いたようだった。
「よっ!元気?」
まずメノウが寄ってくる。
「・・・元気そうに見えるか?これが」
「ん〜でもさ、そんなに落ち込んでるようにも見えない。こうなること、覚悟してたんだろ?」
さらっとそうメノウが言うと。
トパーズは「うるさい、ジジイ」と吐き捨て。
「何しにきた」
「つれないこと言うなよな〜。慰めにきたんだろ」
「余計なお世話だ」そっぽを向くトパーズ。その時。
「トパーズ」
トパーズの名を口にしながら、オニキスが動く。
「話はメノウ殿から聞いた。お前にも苦労をかけてしまったな」
颯爽とした足取りでトパーズの前まで歩き。
「・・・気は済んだか」
「はい」
「そうか」
オニキスは、トパーズを見つめ。
「お前を子供扱いする訳ではないが・・・少し、触れてもいいか」
そう言って、トパーズの髪から頬にかけて軽く撫でた。
「どうすれば・・・」
“どうすればヒスイをオレのものにできるか”
「オレも考えたことがある」と、オニキス。続けて・・・
「考えたが、わからなかった」
「・・・・・・」
自分と全く同じ想いをオニキスが口にしたので、トパーズは顔を上げ、オニキスを見た。
オニキスは苦笑いで。
「オレも含めてだが・・・」と、前置きしてから言った。
「ヒスイを“もの”のように扱ってしまいがちだ。だが、ヒスイにも心があって、意志があって、自分の居場所は自分で決めている」
「・・・・・・」
「それを変えるのは、容易ではないぞ?」
静かな口調で諭すオニキス。対するトパーズの表情は・・・揺るがない。
すると、オニキスは頷き。
「それでもまだ、お前が諦めないと言うのなら・・・」
競うか。どこまで、愛せるか。
「・・・・・・」
トパーズは無言の肯定をした。
「馬鹿な子だねぇ・・・」
そう呟くカーネリアンは、熱い涙を流しながら、横からトパーズを抱きしめ。
「何だって協力してやるからさ。アタシに相談しとくれよ」と、両腕に力を込めた。それから。
「さ!今日は飲むよ!!」飲み会決行だ。
トパーズの肩を抱き、笑うカーネリアン。
「見な。この顔ぶれ。ダメな大人ばっかりだよ」
諦めの悪い大人が2名。
亡くした男、もしくは女が忘れられない大人が2名。
計4名。いずれも新しい恋愛をする気が全くないという・・・
「あはは!うまいこと言うじゃん!」メノウ、大ウケ。
「違いない」と、オニキスも笑う。それぞれ、自覚はあるのだ。
こうして、ダメな大人同士、パーッと飲もうということになり。
「俺達ダメな大人さ〜♪」メノウが妙な歌まで歌い出す。
行きつけの居酒屋に向かう途中・・・
「ところでこの島どうしたんだい?」
カーネリアンがトパーズに質問した。
この海域に本来島など存在しないのだ。
トパーズは煙草に火をつけながら。
「古代から移動させた。どのみち消滅する島だ。問題ない」
そこでメノウが。
「まだ開拓が済んでなくてさぁ」
残り1/3ほどある未開拓地区は、過去に絶滅したはずの猛獣がウヨウヨしているという。
「・・・・・・」足を止めるトパーズ。
帰り道をヒスイに教えていなかったことに気付く。
わざと・・・ではない。ただ単に言い忘れただけだが・・・
(あのバカのことだ・・・)
今頃、猛獣区域に迷い込んでいるに違いない、と、思う。
トパーズは、急用を思い出したと言って、体の向きを変えた。それから。
「お前に借りたいものがある」と、カーネリアンの肩に手を置き耳打ちする。
「・・・今、持ってるか?」
「ちょっと待ちな」
カーネリアンは財布を漁り、一枚のコインを取り出すと、それをトパーズに握らせた。
「やるよ。アタシはもう使わないからね」
トパーズは来た道を引き返していった。
「何あれ?」と、メノウ。
「イカサマ用のコインだよ。裏も表も同じになってんのさ」と、カーネリアンが答える。
「あの子、何に使う気だろうねぇ・・・」
案の定。猛獣区域では。
「帰れ・・・って言われたって・・・帰れないよ」
3階建ての家から出たヒスイは、いくらも歩かないうちに、呆然と立ち尽くす事態へと陥っていた。
「ここ・・・どこ???」(さっきまで街だったよね???)
整備された無人の街を、勘を頼りに進んだら・・・この始末だ。
街から一変、鬱蒼としたジャングルへと。
「ええと・・・何て言うんだっけ、こういうの。遭難?そうそう、遭難!」
自分が置かれている状況にしっくりきたのはいいが・・・
「どうやって帰ればいいんだろ?」
ここがどこか。どうやって帰るのか。トパーズから何も聞いていない。
首を傾げるヒスイ。そんな中。
バキバキバキ・・・木が倒れる音がした。
(何?今の音・・・)
ヒスイが注意を向けた・・・次の瞬間。
「・・・え?」
バッチリと目が合った、それは・・・
(きょ・・・恐竜っ!!?)
図鑑で見たことがある。ティラノサウルスだ。とてつもなく獰猛な肉食獣である。
間もなくヒスイは“食糧”と認識され。
「きゃぁぁぁぁ!!!」(なんでこうなるのよっ!!!)
ティラノサウルスに追いかけられる。
(このままじゃ・・・食べられちゃう・・・っ!!)
逃げ足を止め、ヒスイは魔法のステッキを構えた。戦おうというのだ。
「えいっ!!」
ヒスイが一声発すると、ステッキからハートのビームが出た。
淡い水色をしている。それがティラノサウルスの足に命中し。
パキパキパキ・・・氷が張った。
体の一部を凍結させることにより、ティラノサウルスの動きを止めたのだ。
ピンチからは脱したが、ヒスイは早くも息が切れている。
「はぁ・・・はぁ・・・何なの・・・これ・・・」
いきなりサバイバルだ。
そしてお次は・・・頭上から攻撃を受ける。
「わ・・・っ・・・!!」(今度はプテラノドン!!?)
飛空タイプの恐竜だ。ヒスイは制服のベストを掴まれ、一気に上空へと引き上げられた。
飛行には慣れているものの、コハクに抱えられて・・・とは訳が違う。
「ちょっ・・・離しなさいよ・・・っ!!!」
両脚をじたばたさせて抵抗するヒスイ。だが、プテラノドンには通じない。
「絶対生きて帰るんだからぁぁぁぁ!!!!」
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