「クク・・・」
この、邪悪めいた笑い声・・・トパーズだ。
「ずいぶんな歓迎ぶりだな」
「あ・・・えっと・・・その・・・」
(どうしよ・・・お兄ちゃん以外から血吸っちゃった・・・)
我慢が裏目に出てしまった。“お仕置き追加”が脳裏をよぎる。
「どうだ、悪くないだろう?オレの血も」
親指でヒスイの唇をなぞるトパーズ。
吸いかけの血が滲み、紅のようにヒスイの唇を染めた。
「ごめん、お兄ちゃんと間違えちゃった」と、ヒスイ。
「そんなことはわかってる」トパーズが鼻で笑う。
わかっていて・・・あえて、コハクのフリをしたのだ。
「献血してやった。感謝しろ」
むにーっと、ヒスイの頬を引っ張る。よく、伸びる。
「ふへー・・・ひかふへほ」
ヒスイは何か喋っているようだ。トパーズが手を離すと。
「なんでトパーズがここにいるの?」
心ない一言が炸裂する。
「・・・・・・」
何故ここにいるか・・・ヒスイを探しに来たからに決まっている。
ヒスイにとっては偶然でも、トパーズにとっては必然の出会いなのだ。
「・・・来い」
「え、ちょ・・・」
トパーズに手を引かれ、路地から連れ出されるヒスイ。
「ここで待っててって、お兄ちゃ・・・」
抗議の途中でトパーズが振り向き。
「口、開けろ」
「?」
命令通り口を開けると、そこに大粒の赤玉が放り込まれた。
「何これ・・・血の飴???」
「正解、だ」
ヒスイの餌付け用に・・・まだ試作のものだが、血液を原料としたキャンディである。
渇きの応急処置にはもってこいだ。
「・・・・・・」(結構おいしいかも・・・)
飴を舌で転がし、ヒスイはご満悦。すっかり大人しくなり、トパーズに引き摺られていった。
この島の管理者でもあるトパーズは、すべての家の鍵を所有していた。
一番近くの新築住宅の鍵を開け、ヒスイを連れ込む。
「トパーズ??何?どうしたの???」
「・・・・・・」
ヒスイの体から、精液の匂いがする。
トパーズはそのままヒスイをバスルームに連れていき、そこへ放り込んだ。
「まずはその体を洗ってこい。話はそれからだ」
「何なの???ま、いっか」
相次ぐセックスで、ずいぶん汗をかいていたので、ここへきての入浴タイムは嬉しかった。
シャワーの蛇口を捻ると、ちゃんとお湯が出てきた。なかなか快適だ。
「ついでにパンツ洗っとこ。お兄ちゃんが手入れたりするから、ベタベタになっちゃったし・・・」
せっせとパンツを洗濯するヒスイ。
「早くあの路地に戻らなきゃ、お兄ちゃんとすれ違いになっちゃう」
それから・・・バスルームを出てすぐの廊下で。
「早く乾かないかな〜・・・」
窓から手を出し、パタパタ、洗いたてのパンツに風を通す。
無人の街は、とても静かで。気が抜ける。
「はぁ・・・お兄ちゃん・・・」
シャワーでリセットされた体・・・こうしていると乱交の時間が嘘のようだ。
パタパタ、パタパタ、パンツを旗のようにして。
(やっぱり、本物のお兄ちゃんとえっちしたかったな・・・)
こちら、トパーズ。
「・・・・・・」
ヒスイにシャワーを浴びさせたはいいが、なかなか戻ってこない。
待ち兼ねたトパーズがバスルームに踏み込むべく動く・・・お馴染みの展開。すると。
「あ」
バスルーム前の廊下で、ヒスイがパンツを振り回していた。
「・・・・・・」
いちいち追及するのも面倒なので、ここは一旦スルーで。
「来い」と、トパーズは部屋の扉を開け、入室を指示した。
「あ、うん」
ヒスイは半渇きのパンツを制服のポケットにしまい、部屋の中へ。
「・・・・・・」(どういう神経してる・・・この女)
フッた男の前で、平然とノーパン。
動く度、スカートの裾からチラチラ生尻が覗く・・・当然、勃起する。
欲情させるだけさせて、知らんぷり。
男を舐めているとしか思えない。
「・・・・・・」
こんな風に。ヒスイとは感情が全く噛み合わない。
だからこそ、その溝を体で埋めてしまいたくなる。
親子でも、男と女である限り、凸と凹・・・組み合わせることができるのだ。
ヒスイは窓辺に寄り、外を見ていた。
コハクのことを気に掛けているのが一目瞭然だ。
「・・・・・・」
隙だらけのヒスイを捕らえるのは簡単で。
トパーズは、ヒスイの腰からお腹にかけて腕を回し、ぐいっと抱き寄せた。
「わ!?ちょっ・・・」
カーテンに掴まり、慌てるヒスイ。
割れ目にトパーズの勃起がフィットしたのだ。
「ひぁ・・・っ」
ビクン!反射的に腰が反る。
「ちょっ・・・あたってるってばぁっ!!」
当たっているというより、嵌っているに近い。
「わざとそうしてる」と、開き直るトパーズ。
ヒスイの腰を抱きかかえ、マーキングでもするかのように擦りつける。
「やっ・・・あ・・・!!」
逃げようとするヒスイの二の腕を掴み、引き寄せ、更にぐりぐりぐり・・・
「や・・・やめ・・・んくっ・・・!!」
力を入れ過ぎたのか、ヒスイの股間が軋む。
「あッあー・・・おにぃ・・・」
喘ぎ、涙するヒスイ。そこでトパーズが。
「・・・いいか、オレの前で丸出しにしたら、前も後ろも犯されると思え」
そう言って、手を離した。ヒスイは一目散に逃げ、い〜っ!!と牙で威嚇。
それから。
ヒスイは部屋の隅でパンツを穿き、戻ってきた。
「ちゃんと穿いたよ!これでいいんでしょ!」
両手を腰にあて、トパーズの前に立つ。
「・・・・・・」
親子だからなのか、どんな事をしても、ヒスイは怖がらずに寄ってくる。
トパーズは表情を変えず、堂々とスカートを捲って確認した。
「よし」
「でしょ?」
パンツを穿いただけなのに、ヒスイは何故か得意気で。
もっと褒めてと謂わんばかりだ。
「それで?話って何?」と、トパーズを見上げる。
「お前を追ってきた」
トパーズはヒスイの目を見てハッキリ言った。
ヒスイに遠回しな物言いは通用しない。ストレートに攻めるに限る。
「何か忘れ物でもしたっけ?私」と、ヒスイ。
「お前の、じゃない。オレの忘れ物だ」
ヒスイのボケをクールに切り返すトパーズ。
「もう一度、賭けをしに来た」
そう言って、トパーズがヒスイに見せたのは一枚のコイン・・・の表側。
草の冠を載せた青年の横顔が彫刻されている。
「投げたコインが裏か表か当てる。簡単なゲームだ。お前が賭けに勝ったら・・・」
「10年、身の安全を保障してやる」
「え?身の安全???」
ヒスイの問いかけには答えず、コインを投げる。
左手の甲に落ちてきたところを右手で隠し。
「・・・選べ」
ヒスイは人差し指を顎にあて、少し考えてから。
「ん〜と・・・う」
「オレは“裏”だ」
ヒスイの発言を遮るトパーズ。
「じゃあ、“表”でいい」と、ヒスイ。
トパーズが右手を退けると・・・
「あ、表・・・なんだかよくわからないけど、私の勝ちってこと?」
「・・・・・・」
表しかないコインだ。始めから結果はわかっていた。
10年の誓いを立てるための、口実にすぎないのだ。
この瞬間から、檻に入ったようなもので。ヒスイを自由に愛せない。
「・・・・・・」(我ながら、馬鹿げてる)
理性の枷と鎖で繋ぎ、牙を隠して、男を殺す・・・
ヒスイの、傍にいるために。
(・・・だが、オレだけじゃない)
オニキスもジストも、そうやってヒスイを愛する道を選んだ。そして。
当のヒスイは・・・いつの間にか、ソファーで寝ていた。
両脚を投げ出し、今にもずり落ちそうだ。
「・・・・・・」(この女・・・)
シリアスでいるのが、アホらしくなる。
悔しい事に、その寝顔は愛しいばかりで。
ヒスイに愛されるには、どうすればいいか考える。
「・・・・・・」
愛されるには・・・愛し続けること。それが絶対条件だ。
トパーズは再びコインを高く投げ、右手でキャッチした。
「・・・・・・」
あと何回、このコインを使うことになるわからない。
それでも・・・愛し続ける。愛されたいから。
「・・・早くオレに惚れろ、馬鹿め」
ヒスイの鼻先を指で押す。美少女のブタ顔は見応えがあった。
「・・・こうなったら、とことん愛してやる。覚悟しとけ」
ヒスイの前髪を掻き分け、額にキスをする。
唇にするキスだけが愛を伝える訳じゃない、と。今は、そう思うしかない。
2度目の10年宣言をした、この日。
(オレは・・・)
報われないなら、報われないなりの・・・意地と愛し方を知った。
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