コスモクロア、学園理事長室。

トパーズが泊まることもしばしばあるため、仮眠室諸々、生活に必要なものは一通り設置されている。
そう、トパーズが仕事で自宅に帰らないのは、特に珍しいことではない。
けれども。今やいい大人であるジストが寂しがるくらいだ。
かなりの日数、顔を見せていないと思われる。


「トパーズっ!!」


ヒスイが勢いよく飛び込む・・・と、そこには。
トパーズともうひとり、物理教師のクラスター・・・
ヒスイとは初対面だ。

身長はトパーズとそう変わらない。
奥二重ではあるが、凛々しい顔立ちで、程良い男らしさがあった。
クラスターもまた、トパーズに次ぐイケメン人気教師なのだが、ヒスイにとっては関係のない話で。
美形慣れしているため、目を惹く存在でもなかった。

しかし当然・・・
「・・・誰?」
持ち前の人見知りが発動し、トパーズの後ろに隠れた。
「・・・新任教師のクラスターだ」
「初めまして」
そう挨拶したクラスターもまた、ヒスイの登場に驚いているようだった。
男物のシャツ一枚で・・・裸足では尚更だ。
「トパーズ先生、この方は?」
クラスターは自分からトパーズに尋ねた。
トパーズは、ヒスイを小脇に抱え。
その口が余計なことを言わないよう、しっかり手で覆ってから。
「“妻”だ」
「そうですか、この方がトパーズ先生の・・・」
真剣な顔でヒスイを見つめるクラスター。
「そうだ」と、トパーズが返答する。
それからすぐ、ヒスイを仮眠室へと放り込んだ。
「もう少しで片付く。ここで待ってろ」
「え・・・ちょっ・・・」
バタンッ!扉を閉められ。
「・・・・・・」
ヒスイはムスッとした顔で扉を睨んだ。
家に帰れないほど、何がそんなに忙しいのか・・・気になる。
クラスターのことは全くといっていいほど知らないが、二人きりでいたのも・・・気になる。
(私にできることがあれば・・・手伝うべきよね)
そっと扉を開け、隙間から顔を覗かせるヒスイ。
(あの新人に指導してるの?一体何の?)
・・・と、クラスターを凝視。
するとトパーズが。
「少し席を外す」
クラスターにそう言ったあと、ヒスイの方へ向かってきた。
「!!」(トパーズ!?こっちくる!?)
慌てて顔を引っ込めるヒスイだったが、あえなくトパーズに捕獲され。
ベッド脇まで連れていかれた。
立ったまま、顎・・・というより頬を掴まれ。
角度によってはキスをしているように見えるほど、トパーズが顔を近付ける。
「・・・なんできた」
「なんで・・・って、ジストが心配してたし、私も・・・あ・・・」
会話の最中にシャツのボタンが全て外され、パサリ、脱げ落ちた。
露わになるヒスイの裸体・・・トパーズにとっては魅力あるものだが、今は目もくれず。
「いいか」
真っ直ぐヒスイと視線を交え。
「クラスターの前では、死ぬ気で話を合わせろ」



「あいつを守りたかったら――な」



「え?」
「とにかく今は、ベッドに入って大人しくしてろ」と、トパーズ。
ヒスイのシャツを拾いあげ、没収。
「・・・・・・」(さむい・・・)
ヒスイは仕方なくベッドへ。
「・・・今日は帰る」
そう言い残し、トパーズは仮眠室を出ていった。



「???」
(あいつ・・・ってお兄ちゃんのことよね?)

“守る?”

“話を合わせる?”

(そもそも、どういう関係???)
謎のワードだらけで・・・眠くなる。
4日間、ほとんど寝ていないのだ。強烈な睡魔が襲ってきた。
(あ・・・だめかも・・・)


ZZZZZzzzz・・・



「・・・・・・」
間もなく、トパーズが仮眠室へと戻ってきた。
ヒスイの乱入により、訳ありの仕事を早々に切り上げるしかなくなったのだ。
「・・・・・・」
(ホントにどこででも寝る女だな)
「・・・・・・」
上からヒスイを眺める。
素肌に浮いたキスマークには当然気付いていた。
コハクのシャツを着ていた時点で、エッチ済だ。
いい気がしないのは相変わらずだが・・・

愛しいものは、愛しい。

「・・・・・・」
横向きで眠っているヒスイの肩先に口づけるトパーズ。
それから耳朶を甘噛みして。
「ここで寝てたら――」



「犯すぞ?」



そう囁くも。ヒスイは目を覚まさなかった。
それどころか、幸せそうに笑って。
「むにゃむにゃ・・・おに〜・・・ちゃぁ・・・」
「・・・馬鹿」





こちら、赤い屋根の屋敷裏。コハクとメノウ。

「そういやさっき、ヒスイが出てったよ」
メノウが下から覗き込む。
コハクはまだ貧血状態のようだ。
外傷よりも、回復に時間がかかるのだ。
羽根の枚数を減らしたせいもあるのだが、お互いその件には触れずに。
「感覚もだいぶ鈍くなってる?いつもなら気付くだろ」
「・・・・・・」
「ありゃ、トパーズんとこだな」
「・・・・・・」
「何だかんだで、寵愛してるもんなぁ、トパーズのこと」


男として受け入れることはできなくても。
愛しいものは、愛しい。
血を分けた親子だから、どんなに離れていても繋がっている。


「手強いよなぁ、トパーズは」
「・・・そのくらいわかってますよ」
ここで初めて言葉を返すコハク。
「迎えに行ってきます」
しんどそうに動いた、その時。


「この勝負、貰ったぜ!!」と、アイボリー。


分身のコハクにボロボロにされながら逃げ回った末、偶然見つけた、弱った本体。
ここぞとばかりに、切り込んでくる。
「!?」
不意を突かれながらも、コハクはアイボリーの太刀筋を見切り、降り下りされた竹刀を手で掴んだ・・・が。
それだけで、視界がグラつき、意識が遠のく。
(あれ?これってもしかして・・・僕が負け・・・る?)
ドサリ、アイボリーの目の前で、コハクはついに倒れた。
(ああ・・・ヒスイの脱ぎたてパンツが・・・それより早く迎えに行かないと・・・)






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