赤い屋根の屋敷――玄関前。
結局、皆、ヒスイが気がかりということで。
コスモクロアに集まったメンバーが移動してきた。
・・・が。
全員、足を止める。
屋敷全体に結界が張られているのだ。
「これは、オニキス殿の・・・」
シトリンが表情を険しくする。
「何かあったのかな」と、マーキュリーも表情を曇らせた。
「オニキスって、ああ見えて、実は監禁とか趣味?」
屋敷を仰ぎながら、そう言ったのはアイボリーだ。
するとスピネルが。
「オニキスに限らず、ママは“つかまえておきたい女”なんだと思うよ。ね、兄貴?」
――と、トパーズに話を振った。
「違いない」
トパーズは否定せず、更にこう続けた。
「行くぞ――あの馬鹿が、何かやらかす前にな」
その頃、ヒスイは地下室にいた。
地下室・・・つまり、武器倉庫だ。
「魔法は詠唱時間があるから・・・相手が銃となるとかなり不利ね・・・」
ベビードール姿でブツブツ言いながら、お宝を物色している。
「発動まで時間を稼げる・・・何か・・・」
一人でクラスターと戦うつもりなのだ。
顔色こそあまり良くないが、気はしっかりしていた。
「・・・・・・」
自分が得意なのは、あくまで魔法だ。
「・・・そうね、盾がいいわ。できるだけ軽くて・・・弾を通さない・・・」
ひとり、そう希望を述べたヒスイは、本格的に倉庫を漁り始めた。
しかし、見つからず。焦りが募る。
その時だった。
『小娘――』
厳格な老人風の声がして、振り向くヒスイ。そこには・・・
「お兄ちゃんの・・・剣?」
最古にして最強の、魔剣マジョラム。※近年めっきり出番はない※
布が掛けられているため、直接は見えないが、魔剣がどんなものかは、ヒスイも知っている。
ただ、ヒスイがコハクの魔剣と言葉を交わすのは、これが初めてだった。
マジョラムは、愛想のない口調で、ヒスイに布を取り払うよう促した。
「・・・これでいい?」
マジョラムの人格を端的に表すならば、“気難しい老人”あたりが妥当だろう。
当然、礼など口にする筈もなく。
『小娘、先に言っておく。儂はお主を快く思ってはおらん』
ヒスイが産まれる前は、コハクの魔剣として、存分に力を発揮していたマジョラムだが。
ヒスイが産まれ、成長するにつれ、コハクは殺戮から遠ざかり。
放置される日々が続き・・・その存在すら忘れられていたのだ。
現にこの非常事態でも、置き去りだ。
「そんなの、逆恨みじゃない」
別にあなたに好かれようとは思っていない――と、ヒスイ。
『生意気言いおって。儂の方が奴との付き合いは長いのだぞ』
「ぐ・・・」(確かにそうかもしれないけど・・・)
「一緒にいた時間は私の方が長いわ!あなたはずっとここに居たんでしょ!?」
ヒスイは、ムキになって言い返した。
「私の方が、お兄ちゃんのこと知ってるもんっ!!」
『ならば今、奴がどこにいるか、当ててみよ』
「!!そ・・・それは・・・」
わかるなら、苦労しない。
眉を顰め、一度は俯くヒスイだったが、すぐに顔を上げ。
「あなたには、わかるっていうの?」
『無論、容易い』
「じゃあ、教えて」という、ヒスイの問いを、マジョラムは一蹴。
『言ったであろう。儂はお主を快く思ってはおらん』
コハクの“牙”を折った、憎き女子。
『だが、力を貸してやってもよい。そのかわり――』
『お主の一部を儂に寄越せ』
こちら、オニキスサイド。
「ヒスイ・・・」
心底、溜息が出る。
屋敷の外に逃げられてはなるまいと、咄嗟に結界を張ったものの・・・
屋敷そのものが広く、一部不可解な構造になっていることもあり、探し出すのも、ひと苦労だ。
抱きしめて、離さなければ良かったと、後悔しても遅い。
「・・・・・・」(どこへ行った・・・)
と、そこで。
「オニキス殿!!これは何事だ!?」
シトリンを先頭に、アイボリー、マーキュリー、ジストが駆け込む。
他のメンバーも次々と合流し。ヒスイが姿をくらませたことを知った。
屋敷内を手分けして探すという話になったが、そこで、ジストが一言。
「オレっ!ヒスイんとこ飛んでみるっ!!」
こちら、ヒスイサイド。
『お主の一部を儂に寄越せ』
『爪を剥いでも、目玉を繰り抜いてもよいぞ』
そうマジョラムに言われたヒスイは、「わかった」と頷き。
近くの短剣を手にした。豪華な装飾が施された鞘を抜き、自身に刃を向ける。
そして――
「これで、いいわよね」
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