空が紺色に覆われる時間。
コランダムは昼と夜の気温差が激しい国だった。
少し開いた窓から入る風がひんやりと冷たい。
くしゅんっ!
自分のくしゃみで目を覚ましたヒスイ。
「あっ!もうこんな時間!!」
フェンネルを手に、慌ててベッドから飛び降り走る・・・その先で。
ドンッ!
「わぷっ!!あ、お兄ちゃん!!」
思いっきりコハクにぶつかった。
「ヒスイ、迎えにきたよ」
優しげな笑顔でヒスイを腕に抱くコハク・・・同時にベッドが目に入った。
(ちょうどいいな)
考えるのは当然、えっちの続きだ。
「あのね、お兄ちゃんにお願いがあるんだけ・・・ど?」
「うん」
返事をしながら、ひょいとヒスイを抱き上げ、えっち再開の場へ急ぐ。
「お兄ちゃん?話、聞いてる?」
「聞いてるよ」
ベッドに腰掛け、コハクはにこやかに微笑んで言った。
「いくらでも協力するよ。この後・・・ね」
お姫様だっこでヒスイを膝にのせ、ワンピースのスカートを捲る。
レースのショーツに指を入れ、恥丘を経てヒスイの陰部に触れた。
そこは先程ペニスで擦った場所で。
再びその気にさせるのは容易だった。
「お・・・にぃちゃん、まっ・・・」
「今度はちゃんと最後まで・・・ね」
「あっ・・・!」
まるで弦楽器でも弾くように、股間でコハクの指が動く。
応えて、奏でる、愛のメロディー。
布の下で、鳴り響く。
「ほら、もうこんなにくちゅくちゅしてるよ?」
「そう・・・なんだけどっ!んっ!!」
コハクの意地悪な指先が強引にヒスイの内部へ侵入し、本格的に活動を開始した。
「うぅ・・・ん!!おにぃ・・・」
中心部へ強い刺激を受け、堪らずヒスイの腰が反り、両脚が浮く。その時。
「あ・・・」
コトン・・・コロコロ・・・
自発的にヒスイの手を離れ、フェンネルがベッド下に隠れた。
「な・・・」
(ナニ変なトコに気回してるのよっ!!)
気を遣われて。かえってそれが恥ずかしい。
「っ・・・!!」
歯を食いしばり、ヒスイが待ったをかけた。
濡れた粘膜を夢中で弄るコハクの手に自分の手を重ね、懸命に訴える。
「あとで・・・まとめて・・・じゃ・・・だめ?」
「うん?」
(まとめてえっち?)
まとめて、というのもおかしな表現だが、ヒスイらしい。
「くすっ・・・いいよ」
コハクは聞き入れ、ヒスイの蜜壺から指を抜いた。
「僕は何をすればいいのかな?」
「はぁ、はぁ、絵を描いて欲しいの」
下半身の疼きが治まらないまま、ヒスイが話す。
フェンネル自身が理想とする姿を描き出し、それを元に変身トレーニングをするという。
良い具合に筆記用具も揃っていたので、早速一枚・・・
ベッド下から拾い上げたフェンネルと打ち合わせの末、絵は30分程で完成した。
「ヒスイ、描けたよ」
ところがヒスイは。
うとうと・・・待っている間に眠気が再発し、床の上で膝を抱え、うたた寝の真っ最中。
「今日は暑かったからなぁ・・・」
吸血鬼であるヒスイの疲労は相当なものだと、コハクも理解していた。
「ヒスイ、おいで〜」
コハクが屈んで背中を向けると、むにゃむにゃ・・・寝惚けたヒスイがおぶさった。
「ちゃんとベッドで寝ようね」
店主と取引をしたのだ。
ウィゼとの関係を追及しない代わりに、無料で宿を提供するという。
新しくできたばかりの港前ホテル。今夜はそこで宿泊予定だ。
今日は一度もヒスイの中に出していない。
コハクもまた下半身に熱を残したままだったが、穏やかな口調で。
「今日はおあずけだね」
続きは・・・また明日。
翌日。港近くの空き地にて。メンバー全員揃ってのフリータイム。
「世界を進歩させるのは、短い時を生きる“人間”だ」と、トパーズ。
「いい事言うじゃん」隣にはメノウもいる。
コランダムでの大きな収穫。
それは、人間ならではの交通手段のひとつである乗り物だった。
車輪が二つ、サドルとハンドル・・・
「なにそれ?」と、ヒスイ。
「自転車だ」素っ気なくトパーズが答えた。
理数系の男、トパーズはこの町が気に入った様子で。
昨日観光の際に、見つけてきたのだそうだ。
何台かモルダバイトに持ち帰るという。
初めての自転車に、子供達・・・主にジストが大はしゃぎ。
「見て見て!兄ちゃんっ!」
銀髪をなびかせ、初乗りの自転車で軽快に走る。
「あっ!ヒスイっ!!わっ!!」
ヒスイの前を通過すると、意識がそちらに集中し、ジストは派手に転倒した。
「大丈夫?」ヒスイが上から覗き込む。
「全然平気だよっ!!ヒスイも乗ってみる?」
「うんっ!!」ジストの誘いに大きく頷くヒスイ。
「乗り方はオレが教えるよっ!!」と、ジストは大はりきり。だが・・・
「馬鹿め。無理に決まってる」
トパーズがせせら笑いで二人を見下した。
「なんでよっ!」
「なんでだよっ!」
ヒスイとジストのコンビが食ってかかる。対して、トパーズは一言。
「お前じゃ足が届かない」
「・・・・・・」黙り込むヒスイ。
確かに自力でサドルを跨げない・・・屈辱だ。更に。
「は〜い、ヒスイはコッチね」
いきなりコハクに抱っこされ、補助輪付きの子供用自転車に乗せられた。
ちびっ子ヒスイでも、これならば地面にしっかりと両足が届く。
「お兄ちゃんっ!!子供扱いしないで!!」
「まぁ、まぁ、騙されたと思って、漕いでごらん?」
「・・・・・・」
ヒスイが怒った顔でペダルを踏む。と・・・
「わ・・・ぁ・・・すごい」
ゆっくりと、自転車が動き出した。
「ちゃんとヒスイ用も用意してあったんでしょ?」
トパーズの隣に立ち、コハクが言った。
「・・・・・・」
可愛いからって、苛めちゃ駄目だよ?と、無言のトパーズを肘で突いてからかってみたり。
ヒスイと自転車が走る方向に顔を動かしながら、コハクは今日もトパーズの神経を逆撫でした。
はぁ〜っ・・・お馴染みの、溜息。
わざとトパーズを煽るようなコハクの言動に呆れるオニキス。
「まったくあいつは・・・」
「やらせとけよ。構いたいだけなんだから」と、メノウ。
「そうなのか?」
「そうなんじゃん?あいつもホラ、歪んでるから」
あれがコハク流の、親の愛であると説く。
「タチは悪いけどさ、無関心よかずっといいだろ?」
「そうだな」
オニキスも納得し、両腕を組んで笑った。
こちら、運転中のヒスイ。
「ちょっと見た目はカッコ悪いけど、いいじゃない」
歩くよりもずっと早く、風を切って走る自転車。
補助輪の回る音が少々耳に付くが、驚くべきスピードだ。
景色がどんどん過ぎてゆく。
「すごいわ!コレ!」
ヒスイが感動に浸っていると・・・
シャァァァ!!
一台の暴走自転車に呆気なく追い抜かれた。
運転手は、娘のアクアだ。
「・・・・・・」
同じ子供用でも、補助輪ナシ。
しかも立ち漕ぎ・・・優れた運動神経で完璧に乗りこなしていた。
「こんなのカンタンじゃ〜ん」アクアに鼻で笑われ。
ヒスイの闘争心に火が付いた。
「何よっ!私だってすぐ乗れるようになるんだからぁっ!!」
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