欲情の度合いは、月の満ち欠けや、その日の体調、精神状態によって異なる。
(えっちしちゃだめっ!!)と、ヒスイは心にブレーキをかけていた。
かえってそれが反動となり、淫らな症状が体に現れていた。
「ん・・・はぁ・・・」
「ヒスイ・・・」
とくん、とくん、ヒスイの興奮に伴って心臓が高鳴る。
いつもは外側から感じる鼓動が、内側から響いてくる。
ヒスイと心臓を共有するオニキスの体だからこその特権だった。
(ああ・・・ヒスイ)
今日も愛しくて愛しくてしょうがない・・・のだが。
(ここは冷静に・・・ヒスイだけが気持ち良くなるように・・・)
日陰のない広場から急いで離れ、近くの木陰へと避難する。
そこは緑が生い茂った場所で、先には泉がある。
広場に比べれば、幾分か涼しかった。
「う・・・うぅん・・・」
昨夜同様、欲情の熱にうなされるヒスイ。
(学校、休みたくないだろうなぁ)
コハクは月曜日のことを考えた。
このまま何もしなければ、熱を出して寝込む可能性が高い。
無理をせず、いっそそれでもと思いもしたが・・・
(トパーズと約束したっていうし)
ヒスイは約束を破らない。
(約束したんなら、ヒスイは熱が出たって学校に行くだろう)
それはそれで可哀想だと思う。
(でも、他の男の手でイカされるのも可哀想だ・・・う〜ん)
「・・・これしかないか」


本日のえっち、決定。


息が乱れているヒスイの体を倒し、両脚を開かせる。
「だめ・・・だよ・・・おにいちゃん・・・オニキスだも・・・ん」
夕べと同じように女性器を診察しようと下着に手を伸ばすが、ヒスイは見せるのを嫌がり、頭を左右に振った。
「濡れてるよ・・・とにかく脱いで」
と、言いながら、コハクが脱がせる。
「・・・・・・」
ヒスイの朱色に濡れ輝く淫裂はいつ見ても愛らしく、強烈に男を刺激する。
(我慢だ!我慢するんだ!!)
平静を保つため、コハクも何度か頭を振り、それから。
「やっ・・・!!」
ヒスイの手首を掴んで、股間の窪みまで誘導した。
レコード盤に針を置くように、そこから奏でられる音を待つ・・・が。
ぺちょっ、指先に愛液がくっつく音がしたきり、ヒスイの指は動かなかった。
「っ・・・!!」
両目をつぶり、顔を真っ赤にしている。
「ヒスイ、聞いて」
コハクが優しく頬を撫で、言った。
「ひとりえっちだと思うと、抵抗があるかもしれないけど」


「ひとりじゃないよ、僕に見せて」


「う・・・うぅ・・・っ」
いつもなら、両脚を開いているだけで、コハクの指や舌が気持ち良くしてくれる。
今日は違うのだとわかっていても、自慰プレイはほとんどしたことがなく、ヒスイは自分で自分のものに触れることに慣れていなかった。
「はぁっ・・・はぁ、はぁ・・・」
期待の眼差しに応えようと、懸命に指を動かすも、なかなか自力でイクことができない。
「あっ・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」
美しく磨かれた桜色の爪に、淡く濁った愛液が絡み付き、何本もの糸を引く。
「・・・水飴みたいだね」
ヒスイの指先が練った愛液はとても美味しそうで。
口に含みたくなる。が、今日は見ていることしかできないのだ。
「・・・・・・」
我慢の汗が伝う。愛しいヒスイを目の前にして、これほど焦らされたことはないような気がする。


「お・・・おにいちゃ・・・」


正面から両脚を押し開かれたまま、中心を弄り始めて大分経つ。
「はぁっ、はぁっ、あ・・・」
指先にたっぷりと愛液を纏いながらも、ひとりではどうしても一線を越えられず、半端な快感に疲弊していくヒスイ。
「・・・・・・」
(何だかすごく可哀想になってきた・・・)
見兼ねたコハクはついに。
オニキスの手でヒスイの手を包み込み、言った。
「人差し指を出してごらん」
「ん・・・」
ヒスイは素直に従った。
「大丈夫だよ。ヒスイの体は、ちゃんとイキ方を知ってるから」
「おにぃ・・・ちゃん・・・」
潤んだ瞳でヒスイが見上げる。コハクは笑顔で頷き。
「目をつぶって、僕のこと考えてくれる?」
「うん・・・」
「ゆっくり、ゆっくり・・・」
ヒスイの手を動かし、皮膚と粘膜の境界線をなぞらせる。
そこは見るからにヌルヌルとして、愛しい男を欲しがり続けていた。
「あ・・・っ・・・」
「必要なのは強い刺激じゃなくて、怖がらずに快感を受け入れること、ね?」
オニキスの声ではあるが、コハクはヒスイに優しくそう言い聞かせた。
「悪いことをしてるわけじゃないんだ。イッていいんだよ」
「あ・・・あんっ・・・」
重なった手から、コハクの熱が伝わってくる。
その熱はヒスイの膣奥まで届き、真の快感を呼び起こす・・・


「んっ・・・あぁっ・・・ん!」


やっとヒスイの口から本気の喘ぎが漏れた。
「ジンジンして、中をツンとしたくなったら、少し指に力を入れて」
「ん・・・おにいちゃ・・・」
自分の指ではあるが、コハクに導かれるまま。
「・・・入れるよ?」
「あっ・・・」
柔らかな肉筒に細い指が入ってくる。
「ああっ・・・」
草の上でヒスイの腰が浮き、喉が反った。
「綺麗だよ・・・ヒスイ。体が元に戻ったら、僕にも中をいっぱい触らせてね」
嬉し恥ずかしいコハクの言葉に後押しされ、一気に中が締まる。
「・・・・・・んっ!あ!!」
ヒスイに待望の絶頂が訪れたのだ。
「よく頑張ったね」
根元まで埋まった指を引き抜いてやり、コハクが褒めると、ヒスイはすぐに起き上がった。
「おにいちゃぁん・・・」
ぎゅっ・・・コハクに抱きつく。そして。
「うぇっ・・・」
(ああ、泣いちゃった・・・)
昨夜に次ぐ失敗・・・ちくちく心が痛む。
「ごめんね、ヒスイ・・・」
ヒスイは完全に欲情していた。
(快感は確かにあっただろう。でも、心がついてきていたかどうか・・・)
わかってはいたことだが。
ひとりえっちはヒスイに不向きなのだ。
(後ろの穴に入れられるより、嫌なのかもしれないなぁ)
罪悪感に襲われるコハク。同時に怒りも込み上げてきた。
(僕が僕なら、こんな思いさせるもんか!!)



「ここで休んでて、ヒスイ」
にこやかにそう言い残し、泉へ向かう。
ヒスイのパンツを洗うためだった。
今秋の新作、茶色とピンクのレースをあしらったロマンチックデザインで、ヒスイがとても気に入っているのだ。
(この天気ならすぐに乾くな)
日差しは一段と強くなっていた。
もはや悠長に修業などと言ってはいられない。
ヒスイにパンツを穿かせ、家まで送ったら、アンデット商会へ殴り込みに行くつもりだった。
(回りくどいオニキスのやり方に付き合ってられるか!!)
泉の縁でひとり、憤慨。その時。
「!!?」
刃が空を斬る。
背後からの襲撃を、コハクは紙一重でかわした。


「会いたかったぜ、セラフィムさんよぉ」


「君は・・・」
アンデット商会営業部長、ウィゼライト。
「ちょっくら遊んでくれよ・・・なぁ」
べろり。愛用のナイフを大胆に舐め、動く。
「っ・・・!!」
ウィゼの攻撃をコハクは持参していた剣で受けた。
その一撃はナイフとは思えないほど重く。
(まあ・・・魔剣だからね)
女の身軽さを生かし、武器を使った攻撃と足技を組み合わせて使ってくるウィゼ。
反撃のタイミングを掴みにくい動きだった。
(だけど・・・今日は殺気がない。時間稼ぎか・・・)
「・・・ひょっとして、メノウ様も来てる?」
外見はオニキスである自分に対し、ウィゼが“セラフィム”と呼称した時点である程度内情を知っていると判断した。
試しにメノウの名を出してみる。
「ご名答」と、ウィゼはニヤリ。
「・・・・・・」
(来ているとすれば、ヒスイのところだ)
メノウが娘のヒスイに危害を加えることはないだろう、が。
(変なこと吹き込まれてなきゃいいけど・・・ヒスイは思考が極端だからなぁ・・・)
「・・・っと」
僅かな隙に、ウィゼのナイフが腕を掠めた。
「行かせねえよ」
休日にも関わらず、ウィゼは足止め役としての職務を全うするつもりらしい。
(まずはこっちを何とかしないと)




木漏れ日の下。
ふぁぁぁっ・・・ひと泣きしたヒスイは大欠伸で。
(今度は魔法使い過ぎないように気をつけよ)
懲りずに修業を続ける気でいた。
ひとりえっちのショックからはすでに立ち直っている。
「でも・・・」
(何だかすごく・・・眠い・・・)
草の上に膝を抱えて座り、うつらうつら・・・すると間もなく。


「よっ!ヒスイ」


「お、お父さんっ!?」
急に声をかけられ、驚く。
しかもその相手がメノウだったので眠気も吹き飛んだ。
「ど・・・」
どうしてここに?昨晩の件も含め、質問したいことが色々あったのだが。
「ちょっとさ、頼まれてくんない?」
いきなりメノウにそう切り出され。
「うん、いいよ」
質問の前に、快諾。
「じゃあさ、この呪文使えるようにしといてくれる?」
ヒスイはメノウから一枚のレポート用紙を受け取った。
そこには術の構成や性質、使用条件、発動言語、他魔法理論がびっちりと書かれていた。
目を通したヒスイは「難しい呪文だね。途中で間違えそう」と、コメントしたが・・・
「できるよ。俺の娘だもん」
天才魔道士である父親にそう言われ、照れ笑い・・・ノーパンなのは忘れている。
「あれ?トパーズも一緒なの?」
「へぇ、何でそう思うの?」
「だってこれ、途中からトパーズの字になってるよ?」
ヒスイはレポート用紙の文字からトパーズの存在を察したのだ。
天然ボケで年中騙されているヒスイ。
(たまに冴えるトコはサンゴ譲りかもな)
娘に妻の姿を重ね、自然と笑顔になるメノウ。
「な、ヒスイ」
「ん〜?」
「コレやるわ」
「?なにコレ」


「コハクとオニキスの入れ替わりを解く鍵」


「・・・え?」
ヒスイの表情が強張る。
(お父さんが犯人だったの!?)
コハクからもオニキスからもそんな話は一切聞いていない。
「コハクでもオニキスでもいいから、ここに差し込んでさ・・・」
メノウは自身の体で鍵穴の位置を示してから。
「あいつらもっと利用してやるつもりだったんだけど」
男達の“入れ替わり”で一番被害を受けているのは愛娘のヒスイだった。
野菜を挿入されたり、自慰をさせられたり。
吸血する度、特異プレイではいたたまれない。
「娘には甘いんだよね、俺」
「おとうさ・・・」
ますます質問が増え、ヒスイが口を開くも。
「んじゃ、またな」
メノウは一方的に別れを告げ、近くにあらかじめ用意していた魔法陣の上に乗り、軽く手を振った。その時だった。
「!!」
ヒスイの視線が一点に集中する。
「お父さん・・・何でアンデット商会のバッジ・・・」
無回答のまま、メノウはパッと姿を消し。
「ちょ・・・お父さんっ!!?」



「ヒスイっ!」
コハクが戻ると、ヒスイはすっかり熱が冷めた顔で立ち尽くしていた。
「お父さん・・・アンデット商会のバッジしてた。なんでだろ」
「この前ね・・・」沈んだ口調でヒスイが話を続けた。
「お父さんに、うんと長生きしてね、って言ったの」
「・・・うん」
「お母さんの生まれ変わりに出会えるくらい、って」
「・・・・・・」
「“人間”は100年くらいしか生きられないってわかってるのに・・・お父さんだけは違うんじゃないかって・・・そう思いたくて」
「・・・メノウ様は何て?」
「無理に決まってるって笑ってたけど、お父さん・・・どんな気持ちだったのかな」
唇を噛み、ヒスイが深く俯いた。
不老不死の研究をメインとしているアンデット商会。
そこにメノウが在籍する理由。
「もしかして・・・」
「大丈夫、それはないよ」コハクは即座に否定し、高々とヒスイを抱き上げた。
「わ・・・お兄ちゃんっ!?」
「それじゃあ、昔話をしよう」
「昔話?」
「うん、聞いてくれる?」



メノウ様と僕がエクソシストになった時の話。





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