(おっぱいが・・・いっぱい)

ヒスイ、心の声。
30分という短い時間だが、シトリンの他、タンジェ、カーネリアンも名乗りをあげたため、女4人での入浴となった。
女湯・・・王妃専用の浴室はさすがに広く、女4人でも全く支障はない、が。
「・・・・・・」
湯船の中、ヒスイを除く3人は見事な巨乳・・・アダルトボディだ。
(いつも思うんだけど・・・何で私だけペッタンコなんだろ・・・お父さん似だから???)
母サンゴの巨乳の遺伝子はどこへやら。
シトリンやタンジェにはしっかりと受け継がれているというのに。
(変よね・・・)
ついさっきまでコハクの愛撫を受けていた貧乳を見下ろし、ヒスイが首を傾げていると。
そこにカーネリアンの手が伸びて。
「え・・・?」
急に抱き寄せられたヒスイは目をぱちくり。
「女同士も悪くないだろ。たまにはアタシとも遊んでおくれよ」
と、ヒスイをからかうカーネリアン。
「ちょ・・・わ・・・」
大人の女の柔らかな抱擁。
コハクやオニキスやトパーズに抱きしめられるのとは違う。
ジストに抱きつかれるのとも違う。
男にしか免疫のないヒスイは完全に困惑・・・
「そうだぞ!母上!アイツとヤッてばかりじゃなくてだな・・・」
ザブザブと湯を分け、シトリンが近付く。
「ヤッ!?お母様、お言葉が悪いですわよ」
タンジェが咎めるのも聞かず、シトリンは気合い充分に言った。
「私が体を洗ってやるぞ!母上!」
さあ!さあ!と、迫る巨乳・・・もとい、シトリン。
「いっ・・・いいよ、自分で洗うからっ!!」
そう言って、逃げようとするヒスイだったが・・・
「あら、遠慮はいりませんことよ、アマデウス」
前方には巨乳・・・もとい、タンジェが待ち構えていた。
「大丈夫だってばっ!!自分で洗え・・・わっ!?」
「こっち来な!髪洗ってやるから」
カーネリアンに横から引っ張られ、もはや逃げ道はなく。
残り25分。シトリンはヒスイを覗き込み言った。
「母上、時間がないんだ。頼む、大人しくしてくれ」
「シトリン・・・」
コハク似の美しさにドキッとしてしまうヒスイ。
(お兄ちゃんと同じ顔で言われたら・・・)
嫌とは言えず。ヒスイはテレテレになり、結局巨乳3人組の意のままになってしまった。


「そういえば、お父様は大丈夫ですの?」


湯上り後、タンジェの発言。
モルダバイトの運命を賭けた決闘のことを言っているのだ。
「わたくしが代わりに出向いても宜しいですわよ?」
さすが元軍人、狂戦士相手でも怯まず。
「お父様は戦いに不向きですわ」と、シトリンに訴えた。
ところがシトリンは、声をあげて笑い、一言。


「心配いらん。あれでもな、強い男だぞ、ジンは」




(何やってるんだ・・・オレ)

ジン、心の声。
男湯、脱衣所にて。
コハクがシャワーを浴びている、その前でウロウロ・・・アヤシイ行動なのは自覚している。
(でもコハクさんなら、決闘に勝つ裏ワザ的なものをアドバイスしてくれるかもしれない)
ここだけの話。モルダバイトの運命を背負わされ、ジンは気が気でなかった。
“魔女の遺言”という本題に入る前に、少しでも心を軽くしておきたかったのだ。
「ん?」
お待ちかね、コハクの登場・・・だが、湯上りなので当然全裸・・・
「あ!すいませんっ!!」
同じ男とはいえ、顔がシトリンとそっくりなのでドキッとしてしまう。
ジンは慌てて背中を向けた。
「別にいいけど、どうしたの?」
ジンが慌ただしいのは、珍しいことで。
コハクは、着替えながらで良ければ話を聞くと言った。
「ありがとうございます」
ジンは背中を向けたままコハク不在時の出来事を話した。
「・・・オレ絶対死ぬと思うんですけど」
ははは!すぐにコハクの爽快な笑いが返ってきた。
「君は死なない」
「どうしてですか?」
思わず振り向いてしまうジン。
服を着たコハクは濡れた髪のまま愛想良く微笑んで。


「運がいいから」


「・・・・・・」
(運!?運だけで戦えっていうのか!?)
ジンがひたすらツッコミを入れているところに・・・
「それとも、こう言った方がいいかな?」と、コハク。
「君は強い。そこそこに」
「コハクさん・・・」
そこそこ、という微妙なオマケ付きだが、コハクに強さを認められ、根拠のない自信が沸いてくる。
ジンの表情が明るくなった。
「君の武器・・・いや、戦いに於けるパートナーは“植物”だよね」
「はい」


「君らしく戦えば、命を落とすことはないはずだよ」
(勝負に勝てるかどうかは別として・・・ね)


「・・・そろそろ時間だ。行こう」
時間までは5分以上あったが、「男が待つのは当然」と、コハクは忙しなく。
「そうですね」
ジンも早足で後に続いた。



「お兄ちゃんっ!」「ヒスイ」
今日もしっかりと抱き合う二人。
約束の場所で再会し、全員で会議室へ移動・・・全員というのは、土曜日に集まったメンバーだ。
コハクは皆の前に立ち、早速説明を始めた。
「人間は魔力をほとんど持たない種族ですが、稀にメノウ様やオニキスのように強い魔力を持って生まれる者がいる」
強大な魔力を有する人間。
「特に、女性を指して“魔女”と」
ここまでは、誰もが知っている事柄だ。
一同が頷く中、コハクは話を続けた。
「“魔女狩り”などと世間が騒いだ時期もありましたが、魔女は実に巧妙に姿を隠しているので、捕まることはまずありません」
「魔女狩り・・・許せんな。罪なき女達への虐待に他ならん」
両腕を組んだシトリンが呟く。
魔女に纏わる若干の余談を挟みつつ、本題へ。


「“魔女の遺言”とは・・・」


呪いの一種であると、コハクが明かした。
「対象者を絶対的な呪力で従わせることができる。ただし、その代償は魔女自身の命です」
対象者への“命令”がそのまま“遺言”となる。
「“遺言を成就させるための呪い”という訳です。メノウ様は今その呪いにかかっています」
「・・・魔女の遺言を成就しなければならんということか」と、オニキス。続けてコハクに尋ねた。
「仮にできなかったとしたら、どうなる」
「死にます」
「!!」ヒスイをはじめ、女性陣に動揺が広がる。
ヒスイに身を寄せ、肩を抱き、再びコハクが口を開いた。
「遺言の内容は他者に明かせない。メノウ様が何をしようとしているのか、メノウ様の口から聞くことはできません」
「こちらが下手に動けばメノウ殿の邪魔をすることになりかねん・・・か」
コハクは、オニキスの言葉に軽く相槌を打ってから、スピネルの隣に立っているジルを見た。
グロッシュラーの王子であるジルがここにいる理由はジンから聞いている。
「今後についてなんですが・・・彼の行動がグロッシュラー側に知られていたということは、モルダバイトにスパイが紛れ込んでいる可能性が高い。組織的な行動は控え、表向きは日常生活を続けましょう」
そうなると必然的に動けるメンバーは限られてくる。
子供達と、ヒスイ、カーネリアンは学校へ。
エクソシスト総帥セレナイトは自らこう申し出た。
「任務中に魔女と接触があったのかもしれない。それは私が調べよう」
「よろしくお願いします」
コハクはセレを見送り、それからオニキスに言った。
「メノウ様がアンデット商会にいること・・・それがたぶん“魔女の遺言”と関係している」
当初の予定通り潜入捜査をする必要がある、と。
「そうだな」
珍しく意見がまとまり、この場は解散となった・・・が。
その後で。コハクがオニキスにこっそりと耳打ちした。
「もしメノウ様が“社員契約書”を持ってあなたの前に現れたら・・・サインを」
「・・・ああ、わかった」




そして・・・月曜日。

それぞれが、いつも通り・・・とはいかず。
教壇下ではちょっとした事件が起こっていた。
カーネリアン&ヒスイの臨時教師組。
(こら!寝るんじゃないよ!!)
カーネリアン、心の叫び。
ブレーンであるヒスイがなんと居眠りをしている。
それはそれは愛くるしい寝顔だが・・・
(授業中だよ!!)
ツッコミがバッチリ決まったところで、効果なし。
(起きな!起きとくれ!!)
ハイヒールの爪先でヒスイを突くも、口がムニャムニャと動くばかりで、目を覚ます気配はない。
「・・・・・・」
質問の回答を書くべく黒板に向かうが、わかるはずもなく、チョークを持つ手は止まったままだ。
女教師カーネリアン、絶対絶命のピンチ・・・と、思いきや。
「先生、ボクが解いてもいいですか?」
手を挙げたのはスピネルだった。
カーネリアンがチョークを渡すと、スピネルはスラスラと黒板に回答を記した。
(助かったよ)
スピネルの肩を軽く叩き、感謝の意を告げるカーネリアン。
スピネルは柔らかく微笑んで、席へと戻った。
こうして無事に授業が終わり、休み時間。


「ごめんなさいっ!!」


深々とヒスイが頭を下げた。
対するは、カーネリアン。隣にはスピネルもいる。
「まあ、いいさ。眠気覚ましにコーヒーでも飲んできな」
コーヒーは理事長室に行けばいくらでも飲める。
「うん」
ヒスイは素直に頷き、再度謝罪の言葉を述べてから理事長室へ向かった。
パタパタと軽い足音、弾む髪・・・ヒスイの後ろ姿を笑顔で見守るカーネリアン。
「くすくす・・・ママのこと、好き?」スピネルが尋ねた。
するとカーネリアンは「もちろんだよ」と、笑って、こう続けた。
「恋愛して、結婚して、子供産んで・・・」


アタシが叶えられなかった夢は全部、あのコが叶えてくれる。


「最高の妹分さ。見てるだけでこっちまで幸せになるよ」
「・・・まだ遅くないと思うけど」
スピネルは小さくそう呟いた。
「何か言ったかい?」
「ううん、何も」



・・・理事長室。

「えっと、コーヒーは・・・」
たまたまスピネルのいるクラスだったから良かったものの、次はそうはいかない。
(絶対寝ないようにしなきゃ!!)
浴びるほどコーヒーを飲む覚悟で戸棚を開けるヒスイ。その時だった。
ぎゅむっ!!背後からの捕獲抱擁。
「トパーズ!?」ヒスイが驚きの声を上げた。
メノウと行動を共にしていると思われるトパーズ・・・
土日は家に帰ってこなかったのだ。
「・・・・・・」
「トパーズ?どう・・・んっ・・・!!」
いきなり耳を噛まれ。
「っ・・・!!」
抵抗する間もなく、トパーズの器用な舌先に中をくすぐられる。
「あっ・・・や・・・やめ・・・」
熱い息が時折奥へ吹き込まれ・・・もはやセックスの前戯と変わらない。
「やぁっ・・・!!おにぃ・・・」
真っ赤になったヒスイの口から、コハクの名が出かかったところで。


「・・・え?」


右手に小さな紙切れを握らされた。
どうやらそれは地図らしく。
トパーズはヒスイの耳元に唇を当て、声を流し込むようにして言った。
「・・・ジストを連れて、そこへ行け」
「でも・・・」
教壇下が空っぽになってしまう、と、ヒスイが渋る。
そこで・・・トパーズの邪悪な笑い。
「問題ない。そこには代理をブチ込んだ」
「え?代理??」



こちら、教壇下。

窮屈そうに収まっているのは・・・赤毛の青年、ジンカイト。
モルダバイトの王として週末に決闘を控えているというのに。
突然現れたトパーズに拉致され、この狭い空間に押し込まれてしまった。
手には・・・スケッチブックとペン。


(ヒスイさんの代理って・・・オレ!?ここでもまたオレなのかーーー!?)





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