「さっきね、アンデット商会の代表取締役ってヒトに会ったの」
長い階段を下りながら、ヒスイは先程の出来事を報告した。
それはアンデット商会の“上”の正体を掴もうとしていたコハク達にとって重要な情報となった。
「エルフが関係しているということか」オニキスが言った。
「辻褄が合いますね」と、コハク。
階段でヒスイが転ばないようエスコートしながら、下方の森に目をやり言った。
「この先はエルフの住処だ」
エルフ族・・・人間に近い生態系ではあるが、人間よりもはるかに寿命が長く、生まれながらに魔力を持っている。
争いを好まない種族としても有名で、人間やその他種族との交流を断っているのだ。
「もちろんすべてのエルフがそうってわけじゃないけどね」と、コハクはヒスイに話して聞かせた。
「余所者はできるだけ目立たぬ様にした方が良さそうだな」
シトリンの言うように、エルフの住処では必然的に隠密行動となる。
スーツ3名、制服2名。
天使、吸血鬼、神や猫又が入り乱れるパーティ・・・明るみに出れば面倒なことになりそうだ。
エルフとの接触はできるだけ避けよう等々、今後についての取り決めを行いながら、5人は更に階段を下っていった。


「ん〜と、次が右で・・・3本目の木を左・・・」
ナビゲートするヒスイの声。
鬱蒼とした森の中、5人の進むべき道は決められていた。
順路を一度でも間違えると、エルフの住処へは辿り着けないのだ。
ヒスイがトパーズから受け取ったのは小さな紙切れだったが、そこにはしっかりとこの森を抜けるための道順が記されていた。
「トパーズか・・・よくここまで調べたものだ」
休日返上の働きに感心するオニキス。
エルフの住処に目を付けたトパーズは、ヒスイに通路を確保させ、後ほど自ら調査に赴くつもりだったらしい。
「メノウ様に弱味でも握られてるんじゃないですか」と、コハクは苦笑した。


5人がエルフの住処に到着した頃にはだいぶ陽が傾いていた。
「キレイなところだね〜」と、ヒスイ。揃ってジストも頷く。
きちんと区画整理された、煉瓦作りの町だった。
そこらじゅうにある花壇にはたくさんの花が植えられており、華やかでメルヘンチックな風景だ。
自然と共に生きる種族と言われるエルフの住処にしては随分と近代的に思える。
それはさておき。
移動用の魔法陣を描くことが本日の最優先事項である。
暗くなる前に、と、ヒスイは適当な場所を見繕い作業に取り掛かった。
階段での打ち合わせで、ヒスイの護衛にはシトリンがつく。
魔法陣が描き上がるまでの時間、コハク、オニキス、ジストは町の偵察に向かった。


町には一本の川が通っていた。
そこには当然橋が架かっており、コハク達は少し離れた場所から橋の上を行き交う人々の様子を探った。
夕暮れ時にも関わらず、町には活気がある。
(エルフの生活もずいぶん変わったなぁ・・・)
口には出さずに黙って眺めるコハク。
「・・・どうだ?」
張り込みから数十分が経過した頃、オニキスがコハクに話を振った。
「そうですねぇ・・・特に変わった様子はありませんが・・・あれかな」
コハクは前を向いたまま「わかる?」と、ジストに話を振った。
すると、視力に自信のあるジストはこう答えた。


「みんな、同じ“石”のついた飾りしてるっ!」


「はい、正解〜」コハクがジストの頭を撫でる。
えへへ・・・ジストは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「・・・あれだな」と、オニキス。
「ええ、あれですね」コハクも相槌を打った。
「それじゃあ、ひとつ手に入れてきます」
「・・・おい」
コハクの背中にオニキスが声をかける。
「何ですか?」
どうやって手に入れるか・・・コハクのしそうなことは大体想像がつく。
「・・・殺すなよ」
「ははは、わかってますよ」


・・・待つこと数分。


石の嵌め込まれた指輪を入手し、コハクはすぐに戻ってきた。
「やっぱりあれです」と、指輪をオニキスに投げ渡す。
コハクとオニキスの間で交わされる“あれ”に、ジストは不思議顔だ。
「・・・そうか。大半のエルフがこの石を身に付けているとなると」
オニキスの言葉にコハクが続く。
「結構な魔力が集まるんじゃないですか。とにかく、ヒスイのところへ戻りましょう」



「あ!お兄ちゃん!」
魔法陣は完成していた。これでいつでもモルダバイトに帰れる。
「それじゃあ、僕等はこれで」
「ああ」
アクアを預けてきているので、これ以上長居はできなかった。
コハク、ヒスイ、ジストが一足先に帰路に就く。
オニキスとシトリンはここに残り、“あれ”の調査を続行するという。
「あ、じゃあ血飲んどく?」
別れ際、オニキスを見上げ、ヒスイが言った。
「・・・ああ」
制服姿のヒスイから血を吸うのは、いささか抵抗があるが。
連日の暑さでオニキスも喉が渇いていた。
「はい」
好きなだけ飲んで、と。髪を耳にかけ、首筋を見せるヒスイ。
「・・・・・・」
何気ない仕草にも色気を感じてしまうのは愛するが故・・・
「・・・ならば、こちらへ」
ヒスイはあまり気にしていないようだが、オニキスにとって“吸血”はキスやセックスと同じで、人には見られたくないものだった。
魔法陣から少し離れた木の下へヒスイを連れてゆき、オニキスはその細い首筋に噛み付いた。
(ヒスイ・・・)
愛しいヒスイの血を啜りながら、銀の髪に指を絡める・・・
それは、別れを惜しむ無意識の行為だった。
「・・・・・・」
(アレ、完全に欲情してるよね・・・)
面白くないのはコハクだ。
オニキスからさっさとヒスイを奪い返したい。
しかしこればかりは邪魔のできない時間であり、ささやかな嫉妬が芽吹く。
(・・・帰ったらえっちしよう。うん)


そして、ここでも。


「ジスト?帰るよ?」
魔法陣の前でヒスイが呼んだ。
「・・・・・・ん?あれっ???」
そう長い時間ではないはずだが、ジストは立ったまま、意識を失くしていた。
「え?オレ・・・」
(何してたんだっけ?)
風下でヒスイの血の匂いを嗅いでいた。
(いい匂いだな〜・・・)と思ってから、今までどうしていたのかわからない。
「大丈夫?すごくぼんやりしてたけど」と、ヒスイが下から覗き込む。
ジストは慌てて両手を振った。
「あ、うんっ!平気!平気!」
(オレ、なんか疲れてんのかな・・・)
それぞれの思いを胸に帰宅。




その夜。夫婦の寝室にて。

壁際のベッドに一糸纏わぬヒスイを運ぶコハク・・・同じく一糸纏わぬ姿で。
壁に枕を立て掛け、そこにヒスイを寄り掛からせる。
それから、コハク自身の手で両脚を開かせた。
お風呂上がり・・・女性器からも石鹸の匂いがする。
「いつ見ても・・・ヒスイのココは綺麗だね」
真正面から覗き込み。
早くもヌルリとした光沢が見える場所に右手を伸ばした。
「・・・あんっ!」
まずはヒスイの蜜を指で掬って舐める。
「うん。いい味だ」
瓶詰めにしてハチミツと並べて置きたいくらいだよ、と、微笑み。
右手を再び陰部に戻し、柔らかな肉の合わせ目を何度か中指で撫で上げた後、いつものようにヒスイの中へ送り込んだ・・・が。
「あっ・・・んっ?」
戸惑ったヒスイの声。
一気に滑り込んでくると思っていた指が、第一関節で止まっているのだ。
「くすっ・・・まだ入るのに、って顔してる」
かぁぁ〜っ・・・コハクに見透かされ、真っ赤になるヒスイ。
「今はこれで我慢してね。あとでもっと気持ちいいことしてあげるから」


・・・今夜もまたコハクに策があるらしい。


「んぁ・・・おにぃ・・・」
膣口を指の腹でくすぐられ、愛液とともに、奥の方からムズムズとしたものが込み上げてくる。
「あっ・・・うぅん・・・っ・・・う・・・んぅ」
そこに刺激が欲しくなるのは性の摂理で。
「おに・・・ちゃぁ・・・」
ヒスイは、せがむような甘えた声を出した。
コハクを見ると、優しげな笑顔の下、ペニスはしっかりと勃っていて。
先が濡れている・・・我慢しているのはコハクも一緒なのだと思うと嬉しくなった。
心も体も、相思相愛だ。
ヒスイは奥を疼かせたまま、コハクの挿入を待った。


「よしよし、じゃあ・・・」


ヒスイの欲しいものをあげよう、と。
壁を背にしていた体をそっとベッドに寝かせ。
仰向けになったヒスイの両脚・・・膝の裏あたりを掴んで持ち上げ、前に押す。
「んんっ・・・!!」
入口が上を向いたところで、ペニスをくぐらせ、ヒスイの中に深く沈めた。
「あっ・・・あぁん・・・」
太く、硬く、何とも気持ちのいい、コハクの塊。
「ん〜・・・ぁ・・・はぁ・・・っ」
熱い吐息を洩らし、ヒスイが感じ始める・・・と、すぐ。
「あ・・・んんっ!?」
再びヒスイが戸惑いの声を上げた。
コハクがペニスを引き上げてしまったのだ。
「おにぃ・・・ちゃ・・・?」
悲しそうな表情で見上げるヒスイの唇にキスをするコハク。
「もうちょっとがんばろうね」


「んっ・・・おにいっ・・・」


ヒスイの反応を見ながら再挿入・・・欲望のまま奥までいってしまわないよう、腰の動きに注意を払う。
半分入れては、引き戻し。
くちゅくちゅと愛液を白く泡立てながら、コハクはソフトな挿入を繰り返した。
「あっ・・・あ・・・はぁ・・・ん」
ヒスイの悩ましげな息遣い。
「はぁ・・・あ・・・っ・・・はぁ・・・っ」
浅いところばかり擦られていると、先程の挿入感が恋しくなる。
コハクの塊をもう一度味わいたい。


・・・そう思うように仕向けられていた。


自分ではどうにもできない場所が疼いて。
疼いて・・・どうにも堪え難い。
「あっ・・・んっ・・・んっ・・・」
(もうすこし・・・もうすこしなのに・・・)
ヒスイがもどかしい快感から逃れるように、手前の摩擦に意識を集中させ、そこから絶頂へ向かおうとすると。


「まだイッちゃだめだよ?」


コハクがペニスを抜いてしまうのだ。
ぎりぎりまで追い込んで、あとはおあずけ。
イキそうになっても、イカせてもらえない。
意図的に快感をコントロールされていた。
「う〜・・・おにいちゃ〜・・・」
ハードな焦らしプレイを敢行されていることに気付いても、為す術なく。
ヒスイにできることといえば、淫らに股間を濡らし続けることぐらいだ。
「うぅ・・・ん・・・」
ペニスの快感をよく知っている体だからこそ、求めてしまう。
欲しい。欲しい。欲しい。けれど。
一心にそう願ってしまうのが・・・恥ずかしい。
「あぅ・・・ぁ・・・」
ヒスイの目尻に羞恥の涙が浮かぶ。


「ああ・・・こんなにえっちな顔して」


コハクは、欲情しきったヒスイの顔を優しく撫でた。
(オニキスに吸われたのこのへんかな・・・)
ヒスイの首筋はやたらと他の男に食われるので、今夜は念入りにマーキング。
「んっ!あっ・・・はぁっ・・・」
熱い口づけをしながら、手のひらでヒスイの割れ目をまさぐる・・・と。
べったり、愛液がくっついて。
嬉しく思いながらも、少し意地悪に言ってみる。
「・・・ヒスイのココは本当によく濡れるね」
ところが、ここから思わぬ逆襲を受けることになるのだった。


「・・・だよ」
息も絶え絶えに、ヒスイが言った。
「ん?」
「おにいちゃんのこと・・・すき・・・だからだよ」
「・・・え?」



“好きだから”



好きだから。好きだから。好きだから。
コハクの脳内でエコーがかかる。
「ヒスイ、今の・・・もう一回言って」
「や!」
ぷいっ!ヒスイが顔を背けた。
(かっ・・・可愛いぃぃぃ〜!!!)
セックスでは圧倒的優位に立つコハクでも、こういうシチュエーションには・・・弱い。
(ああ・・・意地悪してごめんね!!)
嫉妬を孕んだ焦らしモードから、ラブラブ全開モードへ。
すっかり心を入れ替え。
「ヒスイ・・・脚開いて」
「ん・・・」
ゆっくりと丁寧な挿入。
「あ・・・ぁ・・・」
ヒスイは悦びの涙を溢れさせ。
「ぁ・・・あぁっ・・・あぁぁっ!!」
ペニスの進行とともに、声を大きくした。
「ここにも・・・いっぱいキスさせて・・・ね」
子宮口にペニスの先を押し付け、押し上げ。
「んぐ・・・っ!!あ・・・ぁ・・・」
コハクは腰を引くことなく。
ペニスによる濃厚キスが続いた。


「好きだよ・・・ヒスイ」


囁きながら、亀頭を激しく擦りつけるコハク。
そして間もなく・・・
「うっ・・・あぁんっ!!」
焦らされたがゆえの、超快感がヒスイに訪れた。
「あっ・・・あ!あ!あっ!!」
狂ったように髪を振り乱すヒスイ。
コハクは下から腕を回し、肩を抱いて、頬を擦り寄せた。
「一緒にイこうね」
「あっ・・・!!おにぃっ・・・!」
コハクと深く結び付き、安心感、幸福感、そして絶頂感がヒスイにどっと押し寄せた。
そのままぷっつり・・・意識が途切れ。
コハクの射精を確かめることができなかった。


ヒスイは・・・失神してしまったのだ。



「ん・・・」
しばらくしてヒスイは意識を取り戻した。
あの後どうなったのか・・・ちゃんとネグリジェを着ている。
(久しぶりに失神しちゃった・・・)
思い出すと恥ずかしいことづくし・・・だが。
(それにしても、お腹空いた・・・)
同時に空腹感に見舞われる。
「お兄ちゃん、どこ行ったんだろ」
ヒスイは部屋を見回した・・・すると、タイミング良くドアが開き。
「ヒスイ、お腹空かない?」
コハクが戻ってきた。その手には・・・
「あ!マカロン!!」
ヒスイは目を輝かせ、ベッドから飛び降りた。
「甘いもの食べたかったの!」
大喜びでコハクの傍に寄る。
「今日のご褒美」と、コハクはヒスイの頭を撫でた。
「体、大丈夫?」「全然平気っ!」
失神えっちも何のその、ヒスイの視線はマカロンに釘付けだ。
お皿には色とりどりの手作りマカロンがのっていた。
マカロンとは、メレンゲの焼き菓子だ。
外はカリカリ中はフワフワ。甘いクリームがサンドしてある。
バニラ、ショコラ、ヘーゼルナッツ、イチゴ・・・味も豊富だ。


しかし、時刻は深夜。


甘いものを食べるのに適した時間とは言えなかった。
(美容に悪いから、お菓子は夜食にしないんだけど)
そう、いつもなら食べさせない・・・が。
「色々あったから、疲れたでしょ?」と、コハク。※色々=主にえっち


疲れた時は、甘いモノ。


「今夜は特別ね」
「うんっ!!」





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