狂戦士と噂される男、ファーデン。
その風貌は意外だった。
(思ったより全然ゴツくない)ジン、心の声。
筋肉モリモリのマッチョな男かと思いきや、弟のジルと雰囲気が似ている。
ジルに+10歳したような外見・・・髪の色も同じだ。
ただ・・・前髪が異様に長く、こちらからは両目とも見えない状態だった。
何とも得体の知れない感じだ。
戦闘狂と言われるだけあり、決闘を前にして、口元には笑みが浮かんでいた。
その男に対し、いきなりではあるがジンが発言した。
「なんでオレを指名したのか教えて欲しい」
すると。
「不老不死と呼ばれる男をこの手で殺してみたかっただけのことよ」
「・・・・・・」
(やっぱりそういうオチなのか・・・)
第1王子ファーデンは戦いに明け暮れていて、王政に無関心のため、他国の情勢に疎い・・・そう第5王子のジルから聞き、もしやと思ったのだ。
「それって前王なんだけど・・・」ジンは言った。
自分は民間からの婿養子で、何の変哲もない人間云々・・・
これで闘いが回避できるならと、恥も外聞も捨てて素性を明かすジン。
「だから、はっきり言うと王違いで・・・」
「・・・・・・」
露骨に興味を削がれた顔のファーデン・・・両目が隠れているとはいえ、全身からガッカリ感が漂っていた。
ファーデンはしばしの沈黙の後、「それでもモルダバイトの王には違いない」と言い。
ついでに殺しておく・・・そんなムードだった。
そう都合良く、戦闘回避とはいかないようだ。
(はぁ・・・)
全く乗り気ではないが。
(ここまできたらやるしかないよな・・・)
かくして二人の闘いが始まった。
「ジン君と狂戦士、か」
呟くのは、観戦者のコハクだ。
「・・・命を奪ったことがない者と、命を奪うことに躊躇いのない者が戦えばどうなるかは大体わかる」
圧倒的な実力差がない限り、前者は後者に勝てない。
(つまり・・・ジン君は勝てない)
「・・・と思ってたんだけどね」
上空で苦笑い。
(トパーズが力を貸してるな。ちょっとありえないことになってる)
ヤケクソ気味にジンが蒔いた種が、次々に発芽し、異常繁殖していた。
精霊の力量を超えた・・・明らかに神の力が作用している。
荒廃したコロシアムは瞬く間に緑に飲まれ、植物を武器として戦うジンに有利な地形と化した。
方々から伸びた蔦が蛇のように動き、ファーデンを狙う。
対するファーデンは上着を脱ぎ捨て、拳を構えた。
(拳闘士?)
「へぇ・・・面白いな」
己の肉体を極限まで鍛え上げ、武器とする。
ファーデンの武器は手刀だった。
それで物が切れるのだから驚きだ。
向かってくる蔦を鮮やかに斬り捨てる姿は、もはや人間を軽く超えるレベルで。
類稀なる怪力なのだろう。
妙な進化を遂げ肥大した植物をいとも簡単に引きちぎる・・・それも、楽しそうに。
「あれなら、ひとひねりで人間を殺せる」
(狂戦士の名は伊達じゃないな)と、感心するコハク。
だが、それどころではなかった。
ジンが・・・ジンでなくなってきたのだ。
いつの間にか身に纏っていた木製の鎧は、金属に匹敵する硬度で。
攻撃を受ける度、守備範囲が広がり、自動的に防御力が上がるシステムになっていた。
ただし。体が鎧で覆われれば覆われるほど、自我を失うという副作用があった。
目の前の敵を滅するためだけに戦う、心なき神の使徒として徐々に変化してゆくのだ。
ジンは、その症状がかなり進行していた。
植物の常軌を逸した成長速度・・・それぞれが獰猛な獣さながらに、意志を持って動き出していた。
(この調子だと、勝つのはジン君だろうけど・・・)
「殺しちゃうだろうなぁ・・・」
もはやそこにジンの意志はないのだ。
加減などできるはずもない。
(一般人のジン君に、殺しはちょっとキツそうだし)
と、すれば。
ジンの暴走を止め、ファーデンを倒す。
「片目がよく見えないから、同時に二人は相手にしたくないけど・・・仕方ないか」
(何があろうと3時までに帰るぞ!!)
さもなくば、可愛いヒスイがスイーツに飢えてしまう。
(待っててね!!ヒスイ!!)
一方その頃、赤い屋根の屋敷では。
「はぁーっ・・・」
柄にもない溜息・・・ジストのものだ。
なんとかしなきゃ!と、思っても、ヒスイを避けることぐらいしか手立てがなく。
(じいちゃんに相談したいけど・・・)
生憎、メノウは家にいない。
「とにかくヒスイに近付かないようにして・・・」
・・・と、言った傍から。
「うわっ!!」
キッチンで牛乳を飲んだ帰り、リビングでヒスイに遭遇してしまった。
(さっきまでいなかったのに・・・)
ちゃっかり、いる。
しかも、コハクを送り出したヒスイは今日もシャツ一枚で。
恐ろしいことに、下着未着用。
ジストにとってかなり酷な格好で絨毯に寝転がっていた。
「っ・・・やばっ・・・」
早くも下半身が辛い。性欲をコントロールできないのだ。
これ以上ヒスイを見ないよう目をつぶり、リビングを走り抜けようとするが・・・
ソファーに激突し、転ぶ。
そこでジストの意識は途切れ。
起き上った時には・・・別のジストになっていた。
恍惚とヒスイを見つめるジスト。
「ホントに小さいや・・・すげー可愛い・・・」
息子らしからぬ言葉を、自覚がないまま口にする。
ジストは、仰向けで熟睡しているヒスイの上で四つん這いになり。
ヒスイの耳の後ろあたりに顔を寄せ、匂いを深く吸い込んだ。
「いい匂い・・・」
クンクン・・・犬のように嗅いで。それから。
「ヒスイは・・・意地悪だ」
瞳を伏せ、ジストが呟く。
「こんなに美味しそうな匂いさせといて、知らんぷりしてる」
本格的にヒスイの上へと乗り掛かり、首筋を舐めて。
「誘ってるのは・・・そっちだろ」
「!?」(ジスト!?)
耳元の囁きに、ヒスイが目を覚ます・・・と同時に。
「え・・・ちょっ・・・」
両手で脚を広げられ。
(な・・・なに??)
事態がイマイチ把握できないヒスイ。
(何なの・・・この襲われてるっぽい体勢・・・)
襲われているのだ。
(夢???)
夢ではない。
(からかってるとか??)
ジストは超本気だ。
(あ!もしかして、えっちの練習!?)
それはそれで問題である。
この状況を何とか前向きに解釈しようとするヒスイだったが・・・
「あっ・・・ちょっ・・・!!」
素股にジーンズ越しの勃起を押し付けられ。
「んんっ・・・!!」
中に入れてと言わんばかりに、グリグリ、乱暴に擦りつけられる。
「いっ・・・いた・・・」
「は・・・ぁ・・・ヒス・・・」
欲情の息を吐き、ヒスイの両脚を掴んだまま、首筋にキスを重ねるジスト。
(あれ?ジストって、息子よね??)
今まで一度もこんな雰囲気になったことはない。※ジストの妄想除く。
息子の求愛行為に、ヒスイは混乱したまま。抵抗することさえ忘れ。
(なんでこうなるの?)
・・・と、その時だった。
「ジスト!」
リビングに響くスピネルの声。
「!?あ・・・」
ジストは我に返り、ヒスイから両手を離した。
「ごめ・・・ん・・・オレ・・・っ・・・」
ぽろぽろ・・・言ったと同時に大粒の涙をこぼす。
それを見られまいと顔を背け。
「さよならっ・・・!!」
ヒスイに別れを告げ、ジストはリビングを飛び出した。
「ジスト!?まっ・・・」
「ママ」
後を追おうとするヒスイをスピネルが呼び止める。
「大丈夫?」
するとヒスイは強く頷き。
「ジスト・・・泣いてた。こんなことしたかったわけじゃないと思う」と、言った。
スピネルは、それを聞いて安心したという風に笑って。
「後を追うなら・・・」
ちゃんと服を着てからじゃないと、またジストを困らせちゃうよ?
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