グロッシュラー、コロシアムにて。
(これじゃあ、誰が敵だか味方だがわからないな)コハク、心の声。
決闘に割り込んだことで、コハク対ジン&ファーデンという構図になった。
ファーデンを剣で牽制しつつ、増殖した植物に挑む・・・ジンは多くの草木に守られていて、近付くこともできないのだ。
しかもそこから矢を放ってくるのだからタチが悪い。
神の力で作り出された大弓と矢。
自我を失っても、ジンの狙いは正確で。
片目がほとんど見えない状態では、死角から放たれているのと同じ・・・避けにくい。
矢をかわしたところで、今度はファーデンが拳を打ち込んでくるのだ。
カウンター攻撃を仕掛けようとすると、ジンの援護射撃に邪魔される。
思うように戦えない状態だ。
地面にはコハクを射抜こうとしたジンの矢が何本も刺さっていた。
「ジンく〜ん?これでも僕、君のお義父さんなんだけど?」
少しは気を遣って・・・くれないのはわかっているが、言ってみる。
ジンはほぼ全身が鎧に覆われ、立派な甲冑の騎士となっていた。つまり、自我は0に等しい。
(勝つためとはいえ、トパーズも義弟に酷いことするなぁ)
トパーズの外道っぷりを非難するが、たぶんそれは・・・遺伝だ。
「・・・それじゃあ、こっちも本気でやらせてもらおうかな」
コハクの目つきが変わる寸前。
「すまん!遅くなった!」
「・・・え?シトリン?」
熾天使シトリンの登場だ。
改造などしなくてもジンは強い!という抗議にはじまり、改造を解除する方法をトパーズから聞き出すのに一晩かかったという。
「ジンは私に任せろ!!」
シトリンは愛用の大鎌を構え。
「まずは草刈りだな」
シトリンの参戦により、ようやく1対1の戦いになった。
コハクは大剣を地面に突き立て待機させ。
トパーズと喧嘩をする時のように、ゴキゴキ・・・拳を鳴らした。
コハクの拳はすぐにファーデンの動きを捕らえたが・・・
(打たれ強いな)
何度殴り倒しても立ち上がってくるタフさに戦闘狂の真髄を見る。
「痛くないの?」と、コハクが聞くと。
「これぞ快感」と、ファーデン。
痛みを感じた時ほど、戦っていることを実感できる。そしてまた、他者に与える痛みも快感なのだと語る。
「貴様も同じ、殺し屋の目だ。わかるだろう?戦いこそが至上の快感なのだ」
それを聞いたコハクは苦笑しながら言った。
「僕はもう、戦いで得る快感は卒業したんだ」
そこで決着はついた。
コハクが、待機させていた剣を手に取ったのだ。
抜刀し、ファーデンを斬るまで一瞬だった。
・・・と言っても、斬ったのはファーデンの前髪だ。
きっちり眉の上で揃えてある。
今まで隠れていた両目がぱっちりと白昼の下に晒されていた。
それは“力”を誇示するのと同時にファーデンの戦意を喪失させる意図があった。
「・・・・・・」
断髪。戦場でこんな目に遭ったのは初めてで、ファーデンは言葉を失い。
「君の前髪が元の長さに戻ったらまたお相手するよ」
コハクにそう言われ、今回は潔く負けを認めた。
巻物状になった工場への地図を投げ渡すファーデン。
「何者だ・・・貴様」
「君が“狂戦士”なら、僕は“愛妻家”かな」
愛しい妻のことしか考えてないから、と、胸を張るコハク。
クハハ!!なぜかそれがファーデンにウケる。
次会うのを楽しみにしていると言い残し、ファーデンは去っていった。
(さて、シトリン達はどうしてるかな)
一段落したコハクは、神の使徒との戦いを買って出たシトリンの応援に向かった。
「やってる、やってる」
シトリンの“草刈り”は見事なものだった。
余計な緑を刈り取り、道を作り、ジンの真正面を確保し。
「ジン、覚悟!!」
至近距離で一度名前を呼んだ後、大鎌を捨て、ジンの顔を両手で挟み込み。
なんと、キスをした。大胆かつ濃厚なキスを。
「ん・・・シト・・・リン?」
愛する者のキスは、どういう場面でも効力を持っている。
シトリンのキスは、ジンの鎧を消し飛ばし、無秩序な植物の繁殖を止めた。
それから・・・
「ヌクぞ!ジン!!」
「は?シトリン!?」
お前を救うにはこれしかない!と。押し倒したジンに馬乗りになり、いきなりズボンを下ろすシトリン。
解除の方法として、トパーズに妙なことを吹き込まれたようだ。
勿論それはトパーズの嘘だが、シトリンは信じ込んでいて。
ジンのペニスを掴んで舐め上げた。
「んっ・・・!!シト・・・リ・・・」
「戦いのご褒美、か」苦笑いで眺めるコハク。
(トパーズにも義弟を思いやる気持ちはあるらしい)
「まあ、こっちはこっちでハッピーエンドかな」
一方、留守番組は・・・
ジストの逃げ場所は敷地内の公園と決まっている。
今も昔も変わらず大好きなブランコに腰掛け。
「オレ・・・ホントにもうダメだ」
思い詰めた顔で頭を抱えるジスト。
母親の体を求めた・・・未遂でも罪は重い。
「ヒスイは母ちゃんなのに・・・なんであんなに小さくて、可愛くて、いい匂いがするんだよぉ・・・」
苦しい。性の欲望とはこんなにも身を焦がすものなのか。
(スピネルが止めてくれなかったら・・・あのままヒスイを・・・)
「う・・・」
考えると自己嫌悪で吐きそうになる。その時。
「ジストっ!!」
シンプルなミニのワンピースを着たヒスイが現れた。
「!?ヒスイっ!!」
まさかヒスイが追ってくるとは思っていなかったので、ジストは驚き、ブランコから立ち上がった。
「来ちゃだめだ!!」
声を張り上げ、ヒスイを止める。
ヒスイを前に、また何をしでかすかわからない。
・・・というのに。
ジストの言葉を無視して、ヒスイが近付いてくる。
逃げようにも、足が動かない。
体はまだヒスイを欲しているのだ。
「だめ・・・オレに触らないで・・・」
必死にそうお願いしているにも関わらず。
ヒスイはジストに手を伸ばし、その火照った頬に触れた。
「っ・・・やめ・・・オレ、ちんちん勃っちゃうよ・・・ぅ」
言っているそばから勃起・・・恥ずかしくて泣きたくなる。
そんなジストを。
ヒスイは両手でぎゅっと抱きしめた。
「ヒ・・・スイ?何やって・・・」
「さよならなんていうから・・・いなくなっちゃうんじゃないかって、心配したよ」
「・・・・・・」
ジストが黙ったままでいると。ヒスイが見上げて。
「怒ってないよ?だから一緒に帰ろ?」
「オレのこと・・・怖くないの?無理矢理しちゃうかもしれないのに」
「怖くないよ。だってジストは私の子供だもん」
ジストよりずっと背が低いので、抱きしめるというより抱きついているようにしか見えないが。
ヒスイはジストの胸に顔を埋め、小さな声で言った。
「・・・トパーズにはこうやってしてあげられなかったから」
「ヒスイ・・・」
ふわっ・・・風に乗って香るヒスイ。
(いい匂いだ・・・)
嗅ぐとエッチしたくなる匂い。
(だけどこれは・・・)
オレを産んで育ててくれた、母ちゃんの匂い。
(だから・・・だめなんだ。オレ、頭悪いけど、そんくらいはわかる。ちゃんと我慢できなきゃ、ヒスイの傍にはいられない)
「帰ろ」と、ヒスイ。
「・・・あっ!オレっ!もうちょい落ち着いてから帰る!」
「そう?」
「うんっ!ほらっ!もうすぐ父ちゃん帰ってくるし!ヒスイは先に戻ってて!」
こうしてヒスイと別れ、ジストは公園に残った。
ふぅ。溜息ひとつ。
それから、屋敷と反対の方向に歩き出す・・・と。
「どこいくの?」
スピネルに声を掛けられた。
「オレ・・・家には帰らない」
離れることが、守ること。
それがジストの結論だった。
「・・・じゃあ、ボクん家くる?」と、スピネル。
我慢の達人がいるよ、と笑う。
「なんか悪ぃ・・・」バツが悪そうに頭を掻くジスト。
産まれてこのかた、スピネルにはお世話になりっぱなしの気がする。
「気にすることないよ」スピネルが言った。
ボク達、兄弟なんだから。
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