・・・と、ほぼ同時に迷路を抜けて現れたのは。
「オニキス!!」
「ヒスイか」
身を寄せ合う二人。周囲にはやたらと甘い香りが立ち込めている。
高い壁で囲われているため、シュガーランド内部の様子はよくわからないが、大きな観覧車が見えた。
しかし今はそれよりも。
「お前・・・」
垂れ耳犬コスプレ姿のヒスイに言葉を失うオニキス。
なぜそんなことになったのか理由を尋ねると、トパーズの名が挙げられ。
神のアダルトグッズであることが判明する。
「・・・・・・」(親子だな)
コハクもトパーズも、持ち前の高い能力を発揮する方向性がおかしい。
本人達は否定するが、似た者親子である。
「ねぇ、オニキス」と、ヒスイ。
近辺に誰もいないことを確認してから、オニキスにお尻を向け。
「この尻尾、抜いてくれない?」
自分で引っ張ったくらいではビクともしないのだ。
痛みもなく、重さも感じないが、異物感はある。
背に腹はかえられない状況だった。
「思いっきり引っ張ってみて」
ヒスイは近くの木に両手で掴まり、抜かれる体勢を整えた。
「大丈夫なのか?その・・・」
その先は声に出しにくい。
神のアイテムに正攻法が通用するのか疑問に思いながらも。
「・・・痛かったら言ってくれ」
「ん!」
オニキスはヒスイのお尻に左手を添え、右手で尻尾を引っ張った。
ぐっ・・・ぐいっ・・・
「んっ・・・ん・・・」
声を殺し、俯くヒスイ。尻尾は、抜けそうで抜けない。
「んっ!!あ・・・!」
引っ張る度、その根元で、乾き切っていないローションの音がくちくちと鳴り・・・卑猥だ。
「・・・・・・」
オニキスも内心かなり困っていた。
ある意味、吸血後の欲情を我慢するより辛い。
「あっ・・・うぅぅんっ!!」
よほどキツいのか、ヒスイが頭を振って。
「・・・・・・」
(こういう事を普通男に頼むか?)
ヒスイが普通じゃないことはわかっているが・・・男として完全に度外視されている気がして虚しくなる。
一方ヒスイは。
「っ・・・あ・・・はぁ」
(な、なんか、さっきから変なところに擦れて・・・)
アナル挿入はどちらかといえば苦手で、性感帯というほどでもない筈なのに。
コハクのペニスを思い出してしまう。
(おにぃ・・・ちゃん)
途端に恋しくなって。
「ん・・・おにぃ・・・」
堪らず口走った、その瞬間。
「あ・・・」
とろっ・・・愛液らしきものが内腿を伝い。
まさかこんなことになるとはヒスイも思っていなかったのだ。
さすがにこれは恥ずかしく、ヒスイは顔を真っ赤にして。
「ごめっ・・・!!も、いいっ!!」
「・・・・・・」
無言のまま、尻尾から手を離すオニキス。だが。
「オニキス?」
「・・・じっとしていろ。このままでは困るだろう」
ヒスイの内腿に顔を寄せ、愛液の流れを堰き止めるべく、素肌にそっと舌をあてがった。
「っぁ!!」
コハクのものではない感触に驚き、ヒスイの体がいつも以上に大きく震える。
「なに・・・す・・・」
その時だった。
シュガーランドの正門から、見覚えのある二人組が出てきた。
「クソッタレ!!毎日毎日ヘマばっかしやがって!!見ろ!おかげでこのザマだ!!」とウィゼ。
「糞は垂れておらぬ。良いではないか。我は気に入った」と、テルル。
アンデット商会の営業部長とダメ社員の二人は、どうやらスタッフとして駆り出されたらしく。
シュガーランドの趣旨に合わせたものなのか、メルヘンでやたらとピラピラした制服を着ている。
警戒したオニキスは行為を中断し、ヒスイの前へ出た。
「よーう。不老不死の王とヒスイちゃん」
ニヤニヤと含みのある表情で、ウィゼは戦意がないことを告げた。
「今日は“お客様”だ。サービスしてやるぜ?っても、社長の伝言を伝えるだけだけどな」
同じ頃・・・
「おいおい・・・早すぎんだろ〜・・・」と、メノウ。
場所は、赤い屋根の屋敷。メノウの部屋だ。
その視線はコハク&ジストに向いている。
「これで借りは返しましたよ」
青龍の鱗、百虎の爪、朱雀の羽根、玄武の甲羅の破片。
取引材料を机に並べるコハク・・・完徹で四神狩りを行ったのだ。
「父ちゃん・・・オレ、眠い・・・」
徹夜に弱いジストはフラフラ・・・睡眠不足は大敵なのだ。
「少し眠るといいよ」
「ん〜・・・」
「お疲れ様」と、コハクが頭を撫でるとすぐ、近くのベッドに倒れ込み。
「じいちゃ・・・ベッドかし・・・て・・・」
瞬時に寝入ったジスト。スースーと深い寝息をたてている。
「さて、それじゃあ・・・」
ジストが眠れば、親の顔は必要なく。
欲望のままヒスイを求め、身を翻すコハク。
向かうは当然、シュガーランドだ。
「メノウ様、ジストのこと、お願いしますね」
「まかせとけって」
そしてこちら、シュガーランド。
入口広場一面にカラフルな金平糖が敷かれ。
飴細工のオブジェがたくさん並んでいる。
噴水は巨大な綿あめ製造機となっていて、本来水が溢れる場所には、綿あめがふわふわと浮いている。
園内はまるでお菓子の国だ。
一段と甘い香りに包まれながらヒスイが言った。
「つかまえてみろ、なんて。まるで鬼ごっこね」
このシュガーランドのどこかにいる社長を探し出すこと。
それがパーティの主旨らしい。
園内のものは何でも食べていい、と。案内パンフレットも貰った。
「・・・ヒスイ」
「ん?」
「すまん。少々・・・やりすぎた」
ヴィゼ達の登場でうやむやになってしまったが、ヒスイの愛液を口にしたことを謝罪するオニキス。
「あ・・・」
思い出した途端、赤面するヒスイ。
「あの・・・えっと・・・」
「うん」なのか「ううん」なのか、身から出た錆なので、何とも言えず。
答えに詰まって・・・照れ笑い。
それを見たオニキスも笑う。
「なかなかいいムードではないか」
影からオニキスとヒスイを見守るシトリン。
三番目に到着し、二人より少し遅れて入場ゲートを通過したところだった。
オニキスをリーダーにグループで行動していたのだが、何らかの仕掛けにより気付けばバラバラ。
ここは即合流すべきところだが・・・
シトリンは、ヒスイと二人きりになる機会の少ないオニキスを気遣い、声をかけずにいたのだ。
と、そこに。
不測の四番手が到着した。
「やあ」
「!!なっ・・・なぜお前がここに・・・」
そっくりな顔が二つ並ぶ。
シトリンと・・・コハクだ。
「ヒスイとデートしに」と、コハク。
その視線はもうヒスイに釘付けだ。
「あれ?」(なんか耳と尻尾が・・・)
ヒスイの格好が、気になる。傍に寄って確かめたい。ところが。
「ま、待て!!」
邪魔者を行かせてなるものかと、シトリンはコハクの腕を掴み。
迷路を抜けるのが早すぎると抗議した。
「迷路?ああ、あれね」
コハクはにこやかに笑い。
「いちいち付き合うこともないと思って、空から来たんだ」
「・・・・・・」(そうか・・・飛べば良かったな)
翼を持っていることを自分でも忘れていた。
「優しい子だね、君は」
コハクはそう言いながら、シトリンの頭に手を乗せ。
「もっと二人きりにしてあげたい?」
「そ・・・それは・・・」
コハクに言い当てられ、しどろもどろになるシトリン。
「でもごめんね。そういう訳にはいかないんだ」
隙を突き、コハクはシトリンの腕から逃れ。
「あ!こら待て!!行くな!!」
「ヒスイ」
「あっ!!お兄ちゃん!!」
こうしてコハクは、オニキスからヒスイを奪還した。
・・・のだが。
「・・・・・・」
(やっぱり・・・犬になってる・・・)
誰の仕業かは、聞くまでもない。
(トパーズ・・・よくもやってくれたな)
最近大人しくしていたかと思えば、ちょっと目を離すとこの始末だ。
「おにいちゃん?」甘えたそうに、見上げるヒスイ。
(これはこれで可愛いけど・・・)
・・・僕は猫派だ!!
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