同日、夕方。コハクを探す男が二人。

一人目の男は、ジンカイトだ。
グロッシュラー戦に向け水面下が忙しなくなる中、「余計な悩みはさっさと取り除いてやった方がこれからの戦いに集中できる」と、例の件でシトリンにせっつかれたのだ。
そこでまず、コハクに相談しようと考えた。
サルファー本人に直接・・・と、いかないところがジンらしい。
(毎回コハクさんを頼ってる気もするけど・・・)
手土産を持って、屋敷玄関に立つ。そこで二人目の男の登場だ。


「あっ!ジンのおっちゃん!」


勢いよく玄関の扉を開けたジスト。
晩ごはんの時間だというのに、コハクが帰宅しないので、探しに出ようとしたところだった。
「ヒスイがじいちゃんとこにいるって言うから、ソコかと思って」
ソコと言っても、ドコかわからないが、神の子の能力を使えば容易く突きとめられる。
「ジンのおっちゃんも父ちゃんに用事?」
「サルファーくんのことでコハクさんに相談があったんだけど・・・」
ジストの人懐こい態度に思わず口を滑らせるジン。
「え?サルファー?」
「あ・・・っと、その・・・タンジェがちょっと悩んでるみたいで・・・」
余計なことを話し過ぎたと、ジンが自覚した時にはもう遅く。
「オレっ!タンジェんとこ行ってみるよ!」
ジストを巻き込み、事態は思わぬ方向へ。
「でも・・・若い子同士の方がかえっていいかもな」ジストを見送り、呟くジン。
「なにせ“おっちゃん”だし」と、苦笑する。
思春期真っ只中のジスト達とは、世代が違うのだ。
“おっちゃん”を否定する気もなければ、悪い気もしない。


十数年前に人間をやめ、肉体はいつまでも若いままだが。


(ちゃんと年とってるんだな〜・・・オレ達)と、逆に嬉しくなったりして。
ジンは、遠くなるジストの背中にエールを贈った。


「頼んだぞ〜。若者」




早速、モルダバイト城にて。

騎士団を任されたタンジェは、率先して武器の手入れをしていた。
しかし、その表情は晴れない。
戦いに向けての不安より、恋愛に於ける不満で、だ。
シュガーランドでは、ジストの件で苛立っているサルファーを宥めるつもりでセックスをした・・・だが、自分の心と体はモヤモヤしっ放しだった。


「何か悩んでんの?サルファーのこと」


「きゃ・・・!!」
背後からいきなりジストに声をかけられ、慌てるタンジェ。
出会った当時は、タンジェとどっこいどっこいだった背丈も、今ではすっかり大きくなり。
「ジストさま・・・」
振り向きざま、タンジェが見上げる。
「あいつハッキリ言わないとわかんないよ?」
サルファーとは十六年の付き合いであるジストからアドバイス。
「思ってることがあるなら、ちゃんと言った方がいい」と、繰り返し念を押す。
「気難しいとこあるけど、筋は通すヤツだからさ!」
その姿は、サルファーを弁護しているようにも見えて。
ふふっ、タンジェの笑いを誘った。
「ジストさまは、サルファーのこと、よくわかってらっしゃるのね」
「うんっ!だってオレ達」


兄弟だからっ!




エクソシスト正員寮。門前。

そこが夜デートの待ち合わせ場所で。
珍しくおしゃれをしたヒスイが先に到着し、コハクを待っていた。
デートを意識してか、ソワソワしている。

ところが。

(お兄ちゃん・・・まだかな・・・)
約束の時間から1時間経ってもコハクは姿を見せず、それから更に30分・・・
立ち疲れたヒスイはしゃがみこんだ。
「何かあったのかな・・・」
日も暮れ、徐々に肌寒い風が吹き始め、体を丸めるヒスイ。
そこに偶然・・・


「何やってんだよ」


表情も口調もキツいサルファーが上からヒスイを見下していた。
かれこれ2時間近くコハクを待っているのだとヒスイが話すと。
「は、いい気味だ」
ついに捨てられたんじゃねーと、憎々しく笑うサルファー。
明らかにヒスイの不幸を喜んでいる。当然ヒスイはムッとして。
「そういうサルファーだって、タンジェに捨てられても知らないからっ!」
「はぁ?何で僕が捨てられなきゃなんないんだよ」
「私、見たもん!シュガーランドでえっちしてるとこっ!」
立ちあがるヒスイ。例の件に口出しするつもりはなかったのだが、勢いにのってしまった。
対するサルファーは全く動じず。
「ふん。それが何だよ。お前だって父さんとヤッたんだろ」
「そっ・・・それとこれとは話が別なのっ!!」
口喧嘩では毎回サルファーが優勢なのだ。
「とにかくっ!手抜きのえっちばっかりしてたら、タンジェが可哀想でしょっ!」
「可哀想?あいつが自分で言うならともかく、お前に言われる筋合いないね」
「ぐ・・・」
確かにそれも一理ある・・・劣勢に追い込まれたヒスイだったが、そこで一呼吸し。


「“自分のもの”だから、何したっていいって思ってる?」


「結局甘えてるんでしょ。タンジェに我慢ばっかりさせて、自分は好き勝手して。それでもタンジェは自分から離れないって」
「・・・ホントに嫌な女だな、お前って。頭悪そうな顔してるくせに」
たまに核心を突いてくる。
ヒスイの言うことを素直に認める気にはなれないが、タンジェに対し、何をしたっていいと思っていたのも事実で。
「・・・・・・」少し黙る、と。
「たまには優しくしてあげれば?」と、トドメを刺される。
言われっ放しも悔しいので、サルファーはこう言い返した。
「そういうお前も、もっと父さんに尽くせよ。寝っころがって、脚開いてるだけなんて芸がない」
「な・・・っ!なによっ!!」
息子に指摘され、大打撃を受けるヒスイ。否定できないところが辛い。
(そりゃタンジェに比べれば・・・)
自分でほぐして誘うなどという芸当は持ち合わせていない。
「・・・・・・」
(私ももう少し・・・そうね・・・口でしたりとか、した方がいいかも・・・うん、口で・・・口でしよう)


そして・・・これがのちにコハクを困らせるエロ事件へと発展する――


ヒスイとサルファーの犬猿親子。
ああ言えばこう言うで、互いに気付かされながら、やっぱり喧嘩別れをし。
ヒスイはまた門の前でひとりコハクを待った。
それから10分としないうちに・・・
「ヒスイっ!!」
神の子の特技でヒスイの元へと瞬間移動したジスト。
「父ちゃんは?」
「・・・デートの約束したんだけど、来ないの」
「ヒスイ、父ちゃんのこと、どんくらい待ったの?」
「2時間半」
「わっ!そんなにっ!?」
一度家に戻ろう、と、ヒスイの手を引くジスト。
「やだ。待ってる」と、ヒスイが踏ん張る。
「ほらっ!手だってこんなに冷たくなってるよっ!?」
「でも待ってる。お兄ちゃんがデートすっぽかすわけないもん」
こんな感じで。ジストが何を言ってもヒスイはその場を動こうとはせず。
「ジストは帰って。アクアのことよろしくね」と。心配顔のジストを突き離す。
「オレも一緒に待つよっ!」ヒスイの両肩を掴んで、ジストが言った。


「ちょっとだけ待っててっ!アクアのこと兄ちゃんに頼んでくるから!」




一方、エクソシスト正員寮、サルファー宅では。

「お前さ、言いたいことあんならハッキリ言えよ」
「えっ・・・」
自分から話を切り出す前に、サルファーから言われてしまい、またまた慌てるタンジェ。
ジストの励ましもあり、正直に話してみようという気になっていたところで出鼻を挫かれてしまった。
「そういわれましても・・・」
本来口ごもるような性格ではないが、さすがにエッチな話はしづらい。
「わ・・・たくしは、サルファーのこと好きですのよ」
「当たり前だろ。だから何だよ」と、サルファー。
「・・・・・・」告白も虚しく。
“ハッキリ”言わなくては伝わらないというのは、このことなのかと思う。
ここまできたら言うしかないと、タンジェは大きく息を吸って。


「イッ・・・イカせてくださいませんこと!?」






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