返事は意外なほどあっさり返ってきた。


「いいぜ」


「え?」その言葉にタンジェは驚き、ただでさえ丸い目を益々丸くした。
「いいん・・・ですの?」
「逃げられちゃ困るからな。どこまでもつかわかんないけど、ま、アシスタント代ぐらいは気持ち良くしてやるよ」
「サルファー・・・」
嬉しいような、悲しいような。
打算が見え隠れするセックスに、タンジェの声が小さくなる。
「そうですわね・・・アシスタントですものね」
「けどそれってお前の“価値”だろ」
顔がいい、頭がいい、そういうものと一緒で、査定に含まれる、と、サルファー。


「僕にとってお前は価値があるんだよ。離れるなんて許さないからな」


「サ・・・サルファー・・・」
愛の言葉と言えるのか微妙だが・・・タンジェの乙女心は充分ときめいた。
一方サルファーはムードもへったくれもなく。
「じゃ、やるか」と。いつもの引き出しから二個、コンドームを取り出して。
ズボンを下ろし、勃起したペニスに二枚重ねてつけた。
早漏対策。ペニスを長持ちさせる方法をサルファーは知っていたのだ。
「そのへんつかまれよ」
「ええ」
恥じらいながら、テーブルに両手をつき、腰を曲げるタンジェ。
「あ・・・」
サルファーの手でショーツを下ろされ・・・濡れる。


前戯に時間をかけないのがサルファー流だが、ペニスの前に一応指を入れ。
タンジェの膣内が柔らかくほぐれるまでその指を動かした。
「は・・・くッ・・・」
(サルファーの指が・・・わたくしの中に入ってますわ・・・)
自分の指よりずっといい。
「あァッ・・・サル・・・ファ・・・ハァ・・・ン・・・ハァンッ・・・」
タンジェは、挿入されたその指に夢中になって弄られた。そして。


「こんなもんだろ」


タンジェが催促するまでもなく。
二重のゴム付きペニスがタンジェの膣穴に与えられた。
「アッ!?」
慣らされた後に加えられた摩擦はすぐに快感を呼び。
興奮したタンジェはガリガリとテーブルを引っ掻いた。
「くッ・・・うッ・・・ハァ・・・ァン!!」
ユサユサと前後に揺れる体。
サルファーのペニスに突かれていることを実感できる時間がしばし流れ。
「あぐッ・・・うッ・・・サ・・・ルファ・・・」
膣内に発生した摩擦熱に、タンジェは泣いて悦んだ。


「いいのか?これ」


絶え間なく突き込みながら、サルファーが尋ねる。
「アッ・・・いいッ!!いいですわ・・・ッ!!」
ブシュッ!!ブシュッ!!ビチャッ!!
いつもより多く飛び散る愛液。
「いい・・・いいぃぃッ!!ひぃ・・・ッ!!」
いつもより淫乱な喘ぎと、悦びの涙。
(ちょっと中いじってやっただけなのに)
こんなに違うものなのかと、男側からすれば不思議だ。
「・・・おもしろいな、女って」サルファーはそう呟いてから。


「そろそろイクからな」
「あッ・・・わたくしも・・・ッ!!」




その頃、エクソシスト正員寮門前では。

「・・・・・・」
まちぼうけの女がひとり。ヒスイだ。
コハクは・・・まだ来ない。と、そこに。
「ヒスイっ!!お待たせっ!!」
「ジスト!?わ・・・」
ジストは、再会の抱擁からそのまま両腕でヒスイを包み込んだ。
「風よけっ!父ちゃん来るまでこうしてればあったかいよ」
「あ・・・りがと」息子の優しさに照れて俯くヒスイ。
いつの間にか抱える方から抱えられる方になってしまった。
「・・・ホントに来るなんて思わなかったよ」
「何言ってんだよっ!ヒスイをひとりにしておけるわけないだろっ!誘拐されたらどうすんのっ!?」
「誘拐とか、そういう歳でもないんだけど・・・」
「違うよっ!ヒスイが可愛いから心配・・・あっ!ごめんっ!」
「?」なぜそこで“ごめん”なのか・・・
それは、男目線で物言っているからだが、指輪のおかげでだいぶ精神的にも安定していた。
匂いが移るほどの間、ヒスイを腕に抱いて。
ペニスを含む全身が時折固まることもあったが、ヒスイには気付かれずに済んだ。


それから・・・1時間待っても、2時間待っても、コハクは現れず。


ついに、夜明けだ。
「朝だね・・・」
「うん、朝だ・・・」
ヒスイもジストも目の下にクマができている。
「でもほらっ!仕事がすっげー忙しかったとかでさっ!あっ!それとも、待ち合わせ場所間違っちゃったとかっ!」
涙ぐましいフォローを入れるジスト。
「・・・・・・」
ヒスイは口を噤んだまま。
絶対来ると信じていたが、これ以上は待てない。
今日からカルセドニーの元で働かなくてはならないのだ。


「・・・お兄ちゃんのバカっ!」




アンデット商会、グロッシュラー支店にて。
ヒスイ、社員一日目。
カルセドニーの仕事を手伝うというだけあって、配属先は社長室。肩書きは秘書だ。
「素晴らしい飲みっぷりですね」
ここでもまた、カルセドニーが拍手する。
昨晩一睡もしていないヒスイは、眠くて眠くて仕方がなかった。
従って、コーヒーがぶ飲み。眠気ざましのカフェイン摂取に努める。
しかも・・・
「おかわりどうです?」
社長が秘書にコーヒーを淹れるという逆転の構図だ。
「今日は4時から予定が入っているはずですが、どうでしょう、ヒスイさん」
社長のスケジュールを管理するのも秘書の仕事だが、カルセドニーの方から確認を受ける始末で。
「そ・・・ね・・・」(ね、ねむくて死にそう・・・)
スケジュール帳の文字がぼんやりと霞んで見える。コーヒーの効果はまだ現れていない。
「・・・んぁ?マナー教室???」
一瞬意識が飛んで、また戻る。ヒスイは手帳の文字を何とか読み上げた。
「そうです、マナーは大切ですよ」
10歳の自分が社会でやっていくには勉強が必要、カルセドニーはそう語った。
「なんでそこまでして社長なんてしてるの?」
ヒスイは欠伸を堪え、何気なく質問した。


すると、カルセドニーは・・・


「・・・今からちょうど10年前、ダークエルフの里にひとりの子供が産まれました」
まるで他人のことを語るかのような口調で。
「父親は里の若き長。母親は魔女。双方とも強い魔力を持っていた。ところが、産まれた子供は魔力を全く持っていなかったのです。外見はエルフそのものだというのに」
「・・・・・・」
黙って聞き入るヒスイ。この時ばかりは眠気を忘れていた。
「不憫に思った両親は、せめてもと、あらゆる魔術の知識を子供に与え、慈しんだ」
カルセドニーの昔話が続く。
「いつしかその子供は、自分と同じ魔力を持たない者達のために何かしたいと考えるようになった」
それが、魔法アイテムの開発で。両親も協力を惜しまなかったという。
「アンデット商会は、父亡き後、母と二人で始めた小さな店でした」
「意外だわ」と、ヒスイ。
わずか数年足らずでここまで規模が拡大するとはにわかに信じ難かった。
「それがここまで成長したのはなぜだと思います?」


魔力を欲する者が多いから、です。


「だからこの商売は繁盛している。中でも不老不死は最高の“商品”です」
「え?商・・・品?」
「需要があれば供給する。それが商売というものですから」
「・・・・・・」
不老不死が商品扱いとは・・・聞いていてあまり気持ちの良いものではなかった。
ヒスイは眉を寄せ、「どうしてグロッシュラーと手を組んだの?」と尋ねた。
「我が社の実力を試す良い機会だと思ったからです」
「・・・・・・」
グロッシュラーの王が不老不死に興味を持っているのは有名な話だ。
需要と供給という関係を築くには格好の相手で。
ヒスイも納得せざるを得なかった。更に。
「グロッシュラーはモルダバイトと敵対しているでしょう?」と、カルセドニー。
モルダバイトは異種族との交配率が高く、魔力を持つ者が多く産まれる国でもある。
そこに目を付けられたのだ。
「魔力を持つ者に対し、魔力を持たない我々が決して劣っていないことを証明するのです」
「・・・・・・」(何ソレ)
馬鹿馬鹿しいと思ったが、ヒスイはそれを口には出さなかった。
前王妃として、モルダバイトの国力は知っているつもりだ。
腐った死体の軍団などに負けはしないことも。


「もうじきです・・・もうじきなのですよ!!」


カルセドニーは語り口を熱くして。
「竜さえ手に入れば・・・!!」
「え?竜?」
聞き捨てならないキーワード。竜の関与は大きく戦況を左右するのだ。
「資材調達部に使える新人が二人ほど入ったと聞いたので、確保をお願いしたのですが・・・」
何の音沙汰もないという。
「資材調達部の・・・使える新人?あっ!!」
すぐにコハクとオニキスの顔が浮かんだ。
「ヒスイさん???」
ヒスイの只ならぬ反応に、カルセドニーが驚く。
「そうよっ!!オニキスも一緒なら・・・」
心の声が届くかもしれない。
ヒスイは早速精神を集中させ、オニキスを呼んだ。そして。



「・・・ええっ!?竜に食べられた!?」






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