新月前日。モルダバイト城。
そこには戦いに参加する主要メンバーが集合していた。
シトリン、ジン、オニキス、ヒスイ、コハク、ジスト、サルファー、タンジェ、スピネル、ジル、フェンネル、カーネリアン、セレナイト他・・・
これが最後の打ち合わせとなる。
決戦の場所はモルダバイト未開発地区。そこで無数の転送魔法陣が発見された。
事前に潰すことも可能だが、グロッシュラー側に身を置くメノウが“魔女の遺言”に従っているのだとしたら、これは避けられない戦いなのだと、皆が理解していた。
「ジンと二人で話し合ったんだが・・・」と、オニキス。
現王、前王である二人は、国民を想うがゆえの大胆な提案をした。
「国民を眠らせる・・・だと?」
驚嘆する、シトリン。
パニックを防ぐというのが主な目的であるが、新月の戦いを国民に悟らせない・・・前代未聞の隠蔽戦争にしようというのだ。
オニキスは冷静な口調で話を続けた。
「ああ、戦いの場となる未開発地区周辺一帯に限るが・・・」
「それでもかなりの範囲だろ?」と、サルファー。隣でスピネルも頷く。
「魔法で眠らせるつもりなら、相当な魔力を消費することになるよね?」
一族で一、二を争う魔力を持つ、メノウとトパーズが不在の今、誰がそんな大魔法を行使するのかという話になる。
「そのことなんだけどね」と、ジン。
「植物性の睡眠誘発成分を粉末状にしたものを使おうと思うんだ。それだったら魔力を消費することもないし・・・」
“眠りの粉”の準備はできている。
「上空から撒くのが、最も効率がいい」
オニキスはジンから話を引き継ぎ言った。
「コハク、お前に頼みたい」
「でもそんじゃ、戦力が・・・」口を挟んだのはカーネリアンだ。
総合的な戦闘力でいったら、コハクの右に出る者はいない。
主戦力が抜ける穴は大きかった。
そこで総帥セレナイトが。
「空を飛べる者は他にもいる。うちから何名か出そう」
「いや、気持ちは有り難いが・・・敵が裏をかいてくるとも限らん」
他の場所に敵が送り込まれた場合を考えると、一か所に戦力を集めるのは得策ではない。
かといって、グロッシュラー軍に対し、圧倒的に人数が劣っている状態・・・
ある程度戦力をまとめるのも必須で。そう分散させられないのが現状だ。
「コハクをフリーにすれば、どんな状況にも対応できる」
仮に他から攻め込まれても、単独で撃破可能。
それだけの能力を備えている、と、コハクを見るオニキスだったが・・・
「・・・おい、話を聞け」
当のコハクは、ヒスイをしっかりと腕に抱き、イチャイチャ・・・
「猫耳フードなんてどうかな?」
新月の戦いで着る服や髪型について、ヒスイにお伺いをたてている。
「おい・・・」
「色は白。下着と揃えて・・・」
「おい、話を・・・」
「聞いてますよ?僕は構いませんけど?」
「ったく、しょうがない奴だねぇ」と、笑うのはカーネリアンだ。
「アンタはさ、その気になりゃ世界だってひっくり返せるだろうから、国同士の小競り合いなんかに興味ないかもしれないけど、しっかり頼むよ?」
するとコハクは苦笑いで、興味がないなんてことはない、と答え。
「僕等もモルダバイトの住人ですからね」
その頃・・・
メノウは理事長室にいた。
「よっ!」「ジジイか」
トパーズの短い休憩時間に合わせてやってきたのだ。
こちらも最後の打ち合わせとなる。
「グロッシュラー側の首尾は万全」と、トパーズに報告するメノウ。
明日の夜が待ち遠しいと語る。その姿はどこか楽しげで。
“魔女の遺言”など気にも留めていないように見える。
「お前にさ、頼みたいことあるんだよな」
メノウはトパーズの返答を待たずに話を続けた。
「モルダバイト側の動きを予測すると、だ。シトリンが単独で突っ込んでくる」
戦の被害が広がる前に、総指揮官を潰しにくるだろ、と。
メノウの推理は、おおよそ当たっている。
シトリンは、グロッシュラーの王を標的としているのだ。
「止められる?」
シトリンの相手として、メノウはトパーズを指名した。
「容易い」と、トパーズは答えた。が、無論ただでは動かない。
「条件がある」
「ん、言ってみ?次は何が欲しい?」
度々、ヒスイグッズが取引に使われてきたのだ。
メノウもそれなりの準備はしていた。
ところが、トパーズが出した条件は・・・
「今夜、帰ってくるな」
「あー・・・それって、ヒスイと二人きりで一晩過ごすってことだよな」
トパーズが何もしない訳がない。それはわかっているが・・・
「んー・・・ま、いっか。やりすぎんなよ?」
それから8時間後・・・
こちら、眼鏡スーツ姿のトパーズ。
相変わらず仕事の山で。予定より帰りが遅れてしまった。
今夜はヒスイと二人きりの夜だというのに。途中から雨が降り出して。
散々・・・かと思いきや。
「クク・・・丁度いい」
トパーズは企みあり気に笑い、雨の中、傘も差さずに歩いた。
アンデット商会の社宅に到着する頃には、水も滴るイイ男の一丁上がりである。
「あ、おかえり〜。わ!すごい濡れてるよ!?」
取引された“今夜”を知らないヒスイが駆け寄る。
「早くお風呂はいっ・・・え!?ちょっ・・・」
ただいまも言わずに、濡れた体でヒスイを抱きしめるトパーズ・・・ヒスイにも同じように雨水を滲み込ませ、「お前もだ」と、道連れにしてバスルームへと向かう。
「何言ってるの!?一緒に入れるわけないじゃない」
羽交い締めで引き摺られながら、ヒスイが言うと。
トパーズはこう切り返した。
「“親子”でフロに入って何が悪い?」
「え・・・?」(親・・・子?)
トパーズの口から出た言葉は、ヒスイにとっては不意打ちで。
「あ・・・うん」嬉しくも、困惑。
いつも親子関係を否定されてばかりだというのに、今夜に限ってそう言うのだ。
無論、トパーズの手段を選ばない作戦なのだが。
その歪んだ口元に、ヒスイは気付ぬまま、洗面所兼脱衣所に連れ込まれてしまった。
「そ・・・うよね。親子だし」と、ヒスイ。
確かに父親のメノウとは、何度も入浴している。
娘のシトリンとも、先日一緒に入浴したばかりだ。
(シトリンが良くて、トパーズがダメっていうのは不公平よね??双子なんだし・・・)
段々と、断る方が不自然に思えてくる。
「いいよ。一緒に入ろ」
そう言って、ヒスイは潔く湿った服を脱いだ・・・が。
全裸になってからも、トパーズに背を向けていた。
「・・・・・・」
自分が脱ぐ分にはいいが、背後でトパーズも脱いでいると思うとなぜか落ち着かない。
過去の苦い思い出を忘れた訳ではないのだ。
(理論的には間違ってないと思うんだけど・・・変ね)
イケナイ事をしているような気がする。
バサッ!バサッ!ランドリーボックスに迷いなく投げ込まれる服。
その度に、ビクッとするヒスイ。
(やっぱりなんか・・・おかしいような・・・)
妙なプレッシャーを感じる・・・と、そこに浮かぶ名案。
(そうよっ!こんな時こそ水着じゃない!?)
トパーズに背を向けたまま、カニ歩きするヒスイ。しかし。
「どこへ行く」
トパーズに呼び止められ、またビクッとする。
「みっ・・・水着きてこようと思って・・・あっ!トパーズの分もちゃんと用意するから・・・」
ヒスイはあさっての方向を見て言った。
「水着でフロに入れ、と?今日も馬鹿だな、お前は」
ヒスイ的には名案だったのだが、トパーズに一蹴されてしまった。
そして・・・
「こっちを見ろ」
トパーズの声が鋭く響く。
「・・・・・・」
ヒスイは相変わらずトパーズに背を向けたままじっとしていた。
その様子を見て、意地悪な笑みを浮かべるトパーズ。
「見るのが怖いか?理由はなんだ?」と、背後からヒスイを追い詰める。
「言えないなら、かわりに言ってやる。お前は、オレの体が今どうなってるか、わかってる」
振り向いて、勃起したペニスを目にするのが怖いのだろうと指摘した。
「べつにそんな・・・」
とは言ったものの。図星だった。
勃起ペニス・・・つまり体を求められているということで。
それを見るということは、愛の告白を受けるに等しいのだ。
「オレは父上のように甘くはない」
「やっ・・・なに・・・」
来い、と。トパーズはヒスイの腕を引き、バスルームへ押し込んだ。
そこで、正面から向き合う。
「っ・・・!!」
トパーズのペニスは反り返っていて。
ヒスイはすぐに顔を背けた。が、トパーズに顎を掴まれ、無理矢理前を向かされる・・・
「お前にしか勃たないと言った筈だ。しっかり見とけ」
「ひぁ・・・」
そのまま、バスルームの壁に背中を押しつけられるヒスイ。
両手で頬を包まれ・・・というより挟まれ。
そこに、ちゅっ。とキス。
ちゅっ。ちゅっ。角度を変えたキスが続く。
「ト・・・トパ・・・ちょ・・・」
頬に始まり、鼻先、額、瞼・・・意図的に唇を避けてキスをしてくるのだ。
ヒスイは怒るに怒れず。
「ねぇ・・・なんか・・・お風呂でこういうことするの・・・変じゃない???」と、空気の読めない発言をした。
「・・・大人しくしてろ。今夜はこれで勘弁してやる」
トパーズはそう言いながら、ヒスイの目元にキスをして。
「・・・が、いつか挿れるぞ」
「え?挿れ・・・?」
一時、何を言われたのか理解できなかったが、この状況ではさすがにヒスイも気付き、慌てて言った。
「だめっ!!」
「だめじゃない。挿れる」
何度諌めても、トパーズは引かず。
「だめだってばぁ・・・っ!!」
牙を剥いて怒り出したヒスイの頬に、再び唇を寄せた。
「ん・・・ッ!!」
ちゅっ。ちゅっ。と、キスをしては。
ヒスイに言い聞かせるように、耳元で挿入を囁くトパーズ。
「挿れて・・・擦って・・・オレのをたっぷり中に出してやる。覚悟しとけ」と。
強気な囁きと、熱のこもったキスを繰り返した。
「・・・っぁ・・・!!」
言葉で犯される、体。
触れられてもいないのに、膣口がチクンと痛む。
「やだ・・・やめ・・・」
“お兄ちゃん”と、コハクを呼ぶ寸前だ。
「・・・・・・」
一方トパーズも苦しかった。
どんなことがあっても、一線を越えない理性を保ち続けなければならないのだ。
(あと4年だ・・・)
そうやって自身を宥めても、キスの合間に、度々ヒスイの陰部へ視線が落ちる。
ヒスイの粘膜に、触れたい。
グチャグチャになるまで指でいじって。
喘がせて。腰を振らせて。
ペニスを欲しがらせたい――
けれど、現実はそうもいかず。
今は・・・諦めるしかない。
粘膜の代わりに、ヒスイの髪に指を絡ませ、首筋に口付けて。
「あとは・・・本番にとっておく」
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