10年経った。
もう・・・この指先は無効だ。
トパーズがそうヒスイに宣告したのは、三つ子の成人パーティが行われた夜のことだった。
「だめだよ」と、キスを止める指先が嫌いではなかったが・・・トパーズはそれを放棄したのだ。
理由は至極単純。
唇に唇を重ねたいと思う気持ちの方が強かっただけのこと。
とは言っても、宣告されたヒスイの何が変わる訳でもなく。翌日もいつも通りで。
考えあってのことなのか・・・トパーズもまたこれまでと変わらぬ生活を続けていた。
7年ほど経った、ある日。
モルダバイトのアンダーグラウンドともいうべき賭博場にて。
「久しぶりだねぇ・・・元気だったかい」
トパーズを慈愛に満ちた目で見つめ、母性を覗かせるカーネリアン。
その呼び出しに応じたトパーズ。
賑やかな賭博場のスタンドバーで、密会が行われようとしていた。
「さっさと用件を言え」
と、煙草を咥えるトパーズの相変わらず素っ気ない態度に、カーネリアンは肩を竦め。
「まずは飲みなよ。アタシの奢りだからさ」と、グラスに酒を注いだ。
「セレから聞いたよ。アンタ・・・本気なのかい?」
「そのつもりだ」
「アンタまさか・・・ヒスイを試そうってんじゃ・・・」
「・・・・・・」
しばしの沈黙・・・トパーズはグラスを空にした後、言った。
「あの女が欲しい」
強い意志を宿した目で、カーネリアンを見据える。
「わかってんのかい?」
ヒスイを手に入れるということは、今の生活を失うということ。
その覚悟はできているのかと、親心で念を押すカーネリアン。
「それでもだ」と、トパーズは即答した。
カーネリアンは苦笑いを浮かべ。
「しょうがないコだねぇ・・・」
ヒスイを取り巻く男達の均衡が崩れるのは、決して良いこととは言えないが、トパーズの気性を知っているだけに、止めたりはしない。
協力してやりたいとさえ思う。
(ヒスイだって、息子が可愛いだろうしね)
もし、トパーズに本気で求められたら・・・突き離すことができるのか疑問だ。
いずれにしろ、争奪戦になるのは必至で。
「今度は、誰が泣くことになるのかねぇ・・・」
赤い屋根の屋敷。リビング。
トパーズが帰宅すると、ヒスイは昼寝の真っ最中だった。
お腹にタオルケットをのせ、大の字で、スヤスヤと眠っている。
その無防備な寝姿はまるで子供だ。
「・・・・・・」
幸運なことに、天敵コハクの気配はなかった。どうやら出掛けているようだ。
寝入ったヒスイは、ちょっとやそっとでは目を覚まさないので、悪戯のし甲斐がある。
早速・・・むぎゅ!
片手でヒスイの顔を掴み、アヒルのように口を尖らせ。
「クク・・・間抜け面」と、笑うトパーズ。
美人は台無しだが、愛嬌があって、なかなか可愛い。
ヒスイは引き続き熟睡中で、アヒル口からひゅーひゅー寝息を立てている。
「・・・いつ見ても短い足だ」
白く細く・・・短いヒスイの足。
爪先にはサーモンピンクのマニキュアが綺麗に塗られている。
トパーズに片足を持ち上げられても、ヒスイはまだ眠っていた。
「・・・足ぐらい食わせろ」
呟くように言って、ヒスイの踝に口づけるトパーズ・・・それから、ふくらはぎに舌を這わせた。
ぴく。瞼を閉じたまま、微かにヒスイが反応する。
「ん・・・ふ・・・」
ほんのり、頬に赤味がさして。
足に捧げられるキスを嫌がっているようには見えない。
「・・・・・・」
煽られたトパーズが、爪先を噛むと。
「あふぅん・・・」
ヒスイは甘ったるい声で喘ぎ。
「おにいちゅわ~ん」
「・・・・・・」
この一言で、燃え上がった情熱が一気に冷める。
トパーズは、掴んでいたヒスイの足を離した。すると。
ガツン!結構な高さからの踵落としが決まり。
「いたぁっ!!」
さすがのヒスイも飛び起きる。
「な・・・なにっ!?」(なんで踵がこんなに痛いの???)
「え?トパ?ちょっ・・・」
トパーズはさっさとヒスイから離れ。
ヒスイは、怒ったトパーズの背中を見送ることしかできなかった。
(何なの???)
「よっ!今日も玉砕御苦労さん!」
リビングを出てすぐの廊下で。
不機嫌なトパーズに臆することなく声をかけるメノウ。
ニヤニヤと・・・リビングでの出来事を見物していたのだ。
「・・・・・・」
無言で通り過ぎようとするトパーズだったが・・・
「食えば美味いけど、体に悪いモンってあるじゃん?」
すれ違い様に発せられたメノウの言葉に足を止めた。
「・・・返せ、ジジイ」
一体いつスッたのか・・・メノウは、トパーズの煙草の箱を手にしていた。
「これもそうだけどさ」と、煙草を弄りながら話を続ける。
「ヒスイも同じ。コハクにとっちゃ蜜だけど、お前等にとっちゃ毒」
その味が、どんなに蜜に似ていようとも。毒は毒。と、説く。
「オニキスはもう手遅れっていうかさ、毒に慣れてるから死ぬことはないけど。お前はまだ若いし、毒の回りも早い。このままじゃ・・・」
いつか死ぬよ?
「・・・・・・」
「そろそろやめとけば?」と、メノウは冗談っぽく笑って言った。
「ま、俺は基本的に自由恋愛主義だから。これ以上、とやかく言うつもりはないけどさ。どっちも中毒には気をつけろってコト」
と、トパーズに煙草を投げ返す。
「んじゃな」
「・・・笑わせるな」(あの女のどこにそんな毒があるっていうんだ?)
それを確かめたくなって、リビングに戻るトパーズだったが・・・
「・・・・・・」
一足先に、裏口からコハクが帰宅していた。
ヒスイと・・・キスをしている。
この先の展開を考えると、立ち去るべき場面であるが、今日は違う。
これも“毒”を知るためと、トパーズはその場に留まった。
「いい子にしてた?」
「うんっ!」※ただ寝てただけ
「それじゃあ、ご褒美あげようね」
こうして何十年もヒスイを甘やかし続けているコハク。
留守番をしていたヒスイへのお土産は、棒状のプレッツェル菓子。
うち4/5はチョコレートでコーティングされている。
一本を二人で食べようね。と、コハク。
一方の端を口に咥え、反対の端から食べるようヒスイに言った。
ぽりぽりぽり・・・端から食べていって、ちゅっ。
ヒスイの唇が、コハクの唇に到着する。
(あ・・・お兄ちゃんにキスしちゃった)
何だか少し恥ずかしい。ヒスイは頬を染めた。
(よしっ!うまくいった!!)
コハクは心の中でガッツポーズ。
こうなることは計算済み・・・ヒスイからキスをさせる裏技が成功したのだ。
ぽりぽりぽり・・・ちゅっ。
ほりぽりぽり・・・ちゅっ。
そうやって何本か食し、キスを重ね。
ちゅっ。ちゅっ。いつしか本気のキスへ。おやつからセックスになだれ込む。
「ん・・・んむ・・・」
深く舌を絡ませながら、ヒスイを絨毯に寝かせ。
「ヒスイのおっぱいにもキスしていい?」
レースアップのキャミソールを捲り上げ、乳首に唇を寄せるコハク。
「ん・・・」
ヒスイの返事と同時に、ちゅうっ。強く吸いついた。
舌先を乳輪に這わせ。尖った乳首を巻き取るように舐め回す。
「は・・・ぁん・・・おにい・・・」
一方で、ズボンのチャックを下ろし、早々に勃起ペニスを披露した。
「あ・・・」
コハクのペニスを見るなり、ヒスイはうっとりとした顔で、性の条件反射。
恥じらいながらも、自ら両脚を開き、ペニスに膣口を向けた。ところが。
「まだだよ」と、コハク。
ペニスは見せるだけ。まだ使う気はない。
「触って、ヒスイ」
「ん・・・」
命じられるがままに、慣れない手つきで、コハクの竿をそっと撫でる。
(おにいちゃんの・・・)
逞しく、愛しい肉棒を手にして、心も体もキュンとなり。
「ん・・・ッ・・・」
膣がどうにも落ちつかない。
早く味わいたくて、その口からじゅるじゅると愛涎を垂らし始めた。
「はぁ・・・あ・・・」
見て、触って、興奮するヒスイに。
「コレはヒスイのものだよ」と、コハクが言い聞かせる。
「ふぁ・・・おにいちゃ・・・」
手のひらにペニスの持つ熱が伝わってくる。
(すごく・・・あつい・・・)
血液がそこに集中しているのがわかる。
ごく・・・吸血鬼の喉が鳴った。
二重の意味で美味しそうだ。
下の口でも上の口でもいいから、与えて欲しい。そう切望した矢先。
「そんなにおいしそうに見える?」
コハクに見抜かれ、かぁぁっ・・・赤面するヒスイ。
「こっちの口からたくさん涎が出てる」
コハクはヒスイの両脚を掴んで広げ、中心を覗き込んだ。
「みちゃ・・・や・・・ぁ・・・」
触って確かめるまでもなく、かなり卑猥な濡れ具合。
「僕もだけど」
コハクもまた、亀頭が濡れていた。
互いに求め合っている証拠・・・だが。
「コレはね、こんな使い方もできるんだよ?」と、コハクは自身のペニスを掴み、濡れた亀頭でヒスイの乳首をつついた。
「あ・・・ッ!!ん、んん・・・」
その度に先走り汁が付着して。ヒスイの乳首は次第にぬるぬるしてきた。
「うッ・・・んッ!!おにいちゃ・・・あッ」
つんつん、にゅるにゅる、亀頭に乳繰られる様は何ともいやらしく。
「おにいちゃんの・・・えっち」思わず口走る。すると。
「くす・・・えっちな僕は嫌い?」
「っ・・・!!」
真っ赤な顔でプルプルと頭を振るヒスイ。
「きらいじゃ・・・ない」(えっちじゃなきゃ・・・おにいちゃんじゃないもん)
「それは良かった」と、コハクは笑いながら腰を引き。
ヒスイの股間にペニスを戻した。そして・・・
「んぅ・・・ッ!!おにいちゃ・・・!!ふはぁ・・・んッ!!」
くぷ・・・ぬぷぷぷぷ・・・っ。
濡れた膣肉にゆっくりと潜り込んでくるペニス。
「あ・・・あぁぁぁんッ!!」
膣奥に亀頭の存在を感じる・・・ついに結合を果たしたのだ。
「うッ・・・んあッ・・・!!あッ・・・!ああッ!!」
コハクがほんの少しペニスを動かしただけで、膣口がきちゅきちゅと鳴って。
僅かな隙間から、どろっ・・・愛液が出た。
「っは・・・!!おにいちゃ・・・!!あぁぁ・・・ッ!!」
両脚をコハクの腰に巻き付け、ぺちょぺちょ、愛液まみれの性器をヒスイの方から擦り寄せ。
「おにいちゃ・・・おにいちゃぁ・・・」
「よしよし」
ヒスイが何を欲しているかなど、考えなくてもわかる。
「すぐにイかせてあげるからね~・・・」と。
コハクは、ヒスイの額にキスをして。
ズンッ・・・膣奥に重い一打を決めた。
「あう・・・ッ!!」ヒスイが仰け反る。
それから、絶頂を呼ぶ連打を受け・・・
「あッ!ああッ!!!ひぅ・・・んッ!!」
悲鳴にも似た喘ぎ。
「あッあ!!!あッ!あッあッ・・・!!」
激しくペニスを挿し込まれ、腰骨が砕けそうになる。
それこそが、快感で。
「あ・・・あぁぁ・・・おにい・・・ちゃ・・・」
つつがなく達するヒスイ。
(あ・・・)
じわぁ・・・精液が滲み込んでくると。
じわぁ・・・安心の涙が出て。
(なんか・・・えっちすればするほど、お兄ちゃんのこと好きになってる気がする)
きっと、まだまだ好きになる。好きに・・・
「・・・・・・」
(こんな恥ずかしいこと、お兄ちゃんに言えるわけないけど・・・っ!!)
ボンッ!顔面で照れ爆発。赤味が耳まで広がる。
「ヒスイ?大丈夫?」
「ひぁ・・・っ!!」
コハクに頬を撫でられて、ますます赤くなる。と、その時。
「あれ・・・?」
(煙草の匂い・・・トパーズ?)
「・・・・・・」こちら、トパーズ。
(あいつはとっくに気付いてるだろうが)
コハクのことはどうでもいい。
“見た”ことをヒスイに知らせるために、わざと煙草に火を付けた。
「・・・・・・」
想像を遥かに上回る不快感。
あらゆる負の感情が混ざり合う。
コハクに抱かれているヒスイの、幸せそうな顔といったら。
イラッとして、ムラッとする。
(ジジイの言うように・・・)
この想いが毒だとしたら。
毒に慣れるのと、毒で死ぬのと、どっちが先だ?
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