「二人ともここにいたんだね」
「「スピネル!!」」
ジストと同じく27歳のスピネルはすっかり大人びて。
もう女装はしていない。男性スーツ姿だ。
一見この学校の教師に見えるが・・・
「プールに落ちたって聞いたから心配したよ。怪我とかしなかった?」
プルプル!ジストとヒスイが揃って頭を左右に振った。
スピネルは笑みを浮かべ。
「無事ならいいんだ。邪魔してごめんね。二人の服乾かしておくから」と、扉を閉めた。
「あれ?なんでスピネルがここに?」と、ヒスイ。
「ごめんっ!言うの忘れてたっ!」ジストが両手を合わせた。
スピネルの大学卒業後の進路であるが・・・
城勤めを勧める姉シトリンと、学校勤めを勧める兄トパーズの間で奪い合いの末。
トパーズと同じ女子校で文系の教師として勤務していたが、少し前に転任してきたのだという。
「この学校で3年生の副担任やってるんだ」
「え・・・そうなの?」驚きが重なる。
1年にジスト、2年にアクア、3年の副担任にスピネルとは。
よく揃ったものだと思う。
3限目の途中から授業に参加し、あっと言う間に昼休み。
(高校生活って・・・結構忙しいのね)
今のところヒスイの仕事ははかどっていない。
昼になったらなったで、ジストは女子から告白の呼び出しを受け。
「ヒスイ、ちょっと待っててっ!戻ったら昼メシ一緒に・・・あれっ?ヒスイ??」
ヒスイはそそくさと教室を出て、校舎裏へ向かっていた。
人気のない穴場を見つけたのだ。途中、職員室の前を通ると、スピネルを訪ねてきたらしき女生徒が固まっていて。
「・・・・・・」
息子達のモテることモテること。
(スピネルも彼女つくらないもんね。本命とはどうなってるんだろ??)
「・・・ジストもスピネルも大きくなっちゃって。アクアもだけど、何あのおっぱい」
子供達の成長は、嬉しいような、寂しいような。
「・・・さて、っと。お兄ちゃんのお弁当食べよ」
ヒスイの場合、学園生活はこれしか楽しみがない。
植え込みに囲まれた芝生の上で、ひとり弁当を広げ・・・
「お兄ちゃん、ごちそうさま」
愛夫弁当を残さず食べたあと、眼鏡をかけて、植え込みから顔を出すヒスイ。
生徒達が往来しているのが見える・・・昼休みは他のクラスの悪魔を探すのに丁度良いのだ。
レンズ越しに悪魔を見ると、頭上に種族名が表示される。
その悪魔が何年何組の誰かは、ヒスイが調べなければならないが。
40〜50人に一人。それくらいの割合で見つけることができた。
(割と同族が多いみたいなのよね・・・)
人間との混血悪魔。中でも半吸血鬼が多いように思われる。
実はこれは重大な発見なのだが、この時は知る由もなく。
「ふぁ〜っ・・・」
ヒスイ、大欠伸。
「なんかねむい・・・」
眼鏡を外し、ケースにしまう。この時点で、睡眠>任務だ。
5分だけ・・・と、目をつぶるが、ヒスイが5分で起きられる筈もなく。そのまま10分、20分と過ぎ・・・昼休みの半ばに差し掛かった頃。
「ヒスイっ・・・!」
ジストにより発見された。ヒスイはまだ、眠っている。
「やっと見つけた・・・」
ジストは、ヒスイを探し回って汗だくだった。
昼休みに告白されるのは珍しいことではないが、告白された帰りにまた告白され・・・なかなかヒスイの後を追うことができなかったのだ。
(ヒスイって目離すとすぐどっかいっちゃうし。ひとりにしとくと危ないし)
「そういうとこが可愛いんだけど・・・」
呟いて、ヒスイの寝顔を覗き込む。
(あ・・・口開いて寝てる)
無防備な寝顔にドキッ。ときめきが性欲を刺激する。
(っ・・・やば・・・!!)
先程の触れ合いを思い出し、むくむくとペニスが膨れた。
「ダメだって・・・ここ学校・・・」
自身の下半身に言い聞かせるが、今にもはち切れそうだ。
(ここんとこヌイてなかったから・・・)
精子が・・・種が、出たがっている。
ヒスイに植え付けることはできないが、せめてその近くに蒔きたい・・・男の本能が疼く。
「っ・・・」
幸運にも近くに人の気配はなく・・・勃起ペニスを引き出すジスト。
片手で乱暴にシゴく。目の前にヒスイがいれば、どう弄っても射精できる。
(溜まってんの出せば・・・)
落ちついてヒスイと向き合えるはず。その一心で、激しくペニスを擦り上げ・・・
「ん・・・ッ!!」
ヒスイを汚さないよう、先端を手で覆いながら。
ビュルッ!!久しぶりの射精。
「は・・・ぁ・・・」
見るからに濃い精液が、ボタボタと芝生に落ちた。
「はぁ・・・っ・・・は・・・」
クチュクチュ・・・ヒスイの寝顔を見ながら、最後の一滴まで絞りに絞って。
「すげ・・・手ベトベト・・・」
近くの水道で手を洗い、ヒスイの元へ戻る。
ヒスイはまだ眠ったままだ。
「う・・・ごめん・・・ヒスイ」
スッキリした後はいつも罪悪感に襲われる。
深々とヒスイに頭を下げてから、時計を見ると、予鈴まであと5分あった。
「予鈴鳴ってからでも、走れば間に合うよな」
ギリギリまでヒスイを眠らせてあげたい。
そんな思いから、時間を気にしつつも、ヒスイの隣に寝転がるジスト。ところが。
ZZZZZzzzz・・・
ヒスイにつられて、ジストまで。揃って爆睡だ。
予鈴が鳴っても、本鈴が鳴っても、起きない。
「ママ?ジスト?」
そこに助っ人、スピネルが現れた。
たまたま受け持ちの授業がなかったからだが、渡り廊下を歩いている時に、二人の気配を感じたのだ。
近くの植え込みを覗くと案の定。ヒスイとジストはお昼寝中で。
向かい合わせで丸くなり、それは気持ち良さそうに眠っていた。
(任務中だって聞いたけど、この二人で大丈夫なのかな)と、スピネルは苦笑い。
似た者親子は、同じ失敗をするのだ。
「ジスト、起きて」まずはジストを夢の世界から呼び戻す。
ジストは「あと5分〜」などと寝ボケていたが、授業がとっくに始まっていることをスピネルが告げると、一気に目を覚ました。
「うわ・・・っ!?もうこんな時間っ!?」
授業をサボるつもりはこれっぽっちもなかったのだ。
午後の授業が始まってから、すでに30分が過ぎていた。
今更戻っても悪目立ちするだけだ。
「だめだなぁ・・・オレ。こんなはずじゃなかったのに」
そう言って、両手で髪をくしゃくしゃにするジスト。
「くすっ。女の子にはモテるのにね」
「そんなの・・・スピネルだって・・・」
赤い顔で少し口を尖らせる。その仕草はいくつになっても憎めない。
「それにオレ、ヒスイでしかヌケないし」と、ジストはヒスイの寝顔を見つめて言った。
「ジスト・・・」
恋する横顔。よく知るオニキスのそれと重なる。
これまで幾度となく目にしてきたその横顔は、見ている方が切なくなるときがある。
「・・・・・・」
(同じ日に産まれた、ボクの兄弟)
恋を叶えて、幸せになって欲しいけど。
(ジストは立場的に・・・どう考えても無理だ)
「・・・ジスト」
「んっ?」
「どんなに好きになってもママは・・・」
「うん。わかってる」ジストははっきりとそう答え。
「心配かけてごめん。でもオレ、大丈夫だよ。何か期待してるわけじゃないし」
ヒスイが笑ってくれれば、オレも笑ってられるから。
「・・・そう。ならいいんだ。ママ起こそうか?」
「うん」
「ね・・・ねむい・・・」
息子二人に起こされ、なんとか立ち上がるヒスイだったが・・・
眠気が抜けない。足がもつれる。まるで酔っ払いだ。
数歩進んだところで、大きく転倒。
弁当箱と眼鏡ケースがヒスイの手を離れ飛んでいく。
「ヒスイっ!!大丈夫っ!?」
「眼鏡っ!!割れてないよねっ!!?」
教会から特別に貸し出された仕事道具だ。眠気も吹き飛ぶ。
慌てて眼鏡ケースを拾い、蓋を開けるが・・・
「なんで???眼鏡が・・・ない・・・」
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