週末、一家はショッピングへと出掛けた。ワンピースに化けてしまったカーテンを新調するため・・・と、もうひとつ。授業参観に向けての準備だ。
愛妻のヒスイに何を着せるか、コハクにとっては重要な問題なのである。
ここ6日ほど、ヒスイとエッチもできないほど忙しかったので、今日はデート気分で張り切っている。
なにせ、三つ子より手の掛かる双子で。
ハッポースチロールの雪を降らせてみたり。
家中に香水を撒き散らしてみたり。
“う○こ爆弾”と言う名の泥だんごでコハクに戦いを挑んできたり。
家事と仕事と悪戯の後始末で、なかなかヒスイとの時間が作れなかったのだ。
その分、今日は尽くすつもりでいる。
余談だが・・・一度は屋敷に戻ってきたトパーズが、再び屋敷を出ていってしまったのも、双子が仕事と恋路の邪魔をするからだ。
モルダバイト城下、専門店街。オープンしたての洋服屋にて。
「これ、よくねぇ!?」
「お母さんにはこっちの方が・・・」
双子も積極的に洋服選びに参加・・・だが、早くも好みが分かれている。
「ちょっと試着してみるから、待っててね」と、コハク。
それぞれが選んだ服を手に、ヒスイと試着室に入る・・・パタン、薄い扉を閉めた。
(あれ?なんか・・・)ヒスイ、心の声。
コハクと二人で試着室に入るのは、珍しいことではないのだが。
ここのところ双子に振り回されっぱなしだったせいか、二人きりの空間を意識してしまう。
なぜだか妙に照れ臭い。
ドキドキしながら白のニットワンピースに着替え、鏡越しにコハクを見て、さらにドキドキ・・・
「うん、これも似合うね。すごく可愛いよ、ヒスイ」
褒め言葉を貰い、いつも通りにキスをして。
ところが。
(あれ?あれれ???)
軽く唇を重ね合わせただけなのに・・・濡れてしまった。
コハクに、その気があるのかないのか、わからないまま。
とにかく・・・6日間大人しくしていた膣が、そのキスで目覚めてしまったのだ。
「んッ!!」
びくんッ!!覚醒を知らせるように、鏡の前で身体が震え。
(やだ・・・こんなとこで・・・)と、抗う一方で、こめかみが熱くなり、正常な思考が奪われていく・・・
「お・・・にぃちゃ・・・」
ショーツの両端に親指を引っ掛け、下にずらして性器を露出するヒスイ。
立ち位置を変えずに、お尻を突き出すと、待ち時間ゼロでコハクの勃起ペニスが入ってきて。
突発的にセックスが始まった。
「はぅんッ・・・!!」
慌てて口を押さえ、目を細めるヒスイ。
ちゅうちゅう、ちゅぅぅぅぅッ・・・膣が恥ずかしげもなくペニスを吸っている。
そこはもう本能に乗っ取られ、目的を果たすまで活動が止むことはない。
「んッんッ・・・」
セックスに慣れていない男だったら、堪らず射精してしまうほど、吸って、吸って、吸いまくって。
このまま、陰毛まで膣に吸い込んでしまいそうな勢いだ。
「はぁはぁはぁ・・・あ・・・ん」
手の甲を唇に押し当て、必死に声を殺すが、官能の息が漏れ、鏡が曇る。
「は・・・あはんッ・・・」
こうしてペニスを取り込んでいることが、すでに快感であるが・・・
「ヒスイ」
名前を呼ばれて振り向き、キスをすると、ペニスを咥えた穴の周りがキュンとなって。
その快感に涙する。
「んぅ〜・・・おにぃ〜・・・」
「ごめんね、6日もおあずけにして」
寂しかった?と、コハクが耳元で笑い。
「今、思い出させてあげる」
そう言って、ピストンを開始した。
「あぅッ!!んー!!!!」
膣襞がこぞって愛されたがって、次から次へとコハクのペニスに身を捧げ。
プチプチプチッ!ブチュブチュブチュッ!!ひき潰されて、快感の汁が弾け飛ぶ。
「ふ・・・ぁ・・・」
それがどんなに気持ちよくても、ここは試着室で。喘ぐに喘げない。
「あ・・・はぁはぁ・・・ん・・・」
我慢に我慢を重ねている内に、腹膜が痺れてきて・・・ヒスイの舌がだらんと垂れた。
イッたも同然の、快感末期症状だ。
その舌を、コハクが指で優しく口の中へと戻し。頬にキス。
「ちゃんと最後までイこうね」と、ヒスイの尻肉をぐぐっと左右に開き。
見通しを良くしてから。ピストンのスピードを上げた。
「!!!!」
それは矢の如く。ヒスイの中を貫通し、膣奥へと突き刺さった。
「っあ・・・はぁ・・・んッ!!!」
言うなれば、ハートの矢。天使の放つものだけに、効果は抜群で。
にちゅッ!にちゅッ!にゅッ!にゅッ!と。
いやらしく股間を射抜かれれば射抜かれるほど、コハクに夢中になっていく。
「お・・・にぃ・・・ちゃ・・・すき・・・だい・・・すき・・・」
ヒスイは、鏡に映るコハクに手を伸ばしながら達して。
「あ!あぁぁ〜・・・」(おにいちゃんの・・・おっきくなっ・・・)
射精の脈動が、より深い快感を呼び、精液を熱湯と錯覚させる。
「あッ!あッ!」発射のリズムに合わせて、思わず声が出てしまう。
歌うように、美しく喉を反らせて。踊るように、お尻を振るヒスイ。
ここがどこかはもう・・・忘れてしまった。
「あッ!あッ!あッ!あんッ!あ〜・・・!!!」
灼熱の精液を浴び、子宮が溶け落ちそうだ。
「あ・・・ああぁんッ・・・」
ヒスイは、コハクが射精を終えるまで、絶えず身悶えていた――
「はーい、お待たせ」
コハクが試着室の扉を開けると、双子が並んで待っていて。
ヒスイを見るなり・・・驚いた。
「ヒスイ!?どーした!?顔真っ赤じゃんか!!」と、アイボリー。
「お母さん、息切れしてるけど・・・試着ってそんなに大変なんですか?」と、マーキュリー。
「う・・・うん・・・まぁ・・・」ヒスイは言葉を濁し、俯いた。
やましさから、子供達と目を合わせられないのだ。
(は・・・恥ずかしいぃぃぃ!!!)
エッチをするつもりで、コハクと試着室に入った訳ではなかった。
(それがなんであんなことになったの???)
自分でもよくわからない。が、くすっとコハクが影で微笑む。
(成程・・・ね)
6日間辛抱して、試してみた甲斐があったと思う。
(ヒスイの我慢の限界は“6日”ってとこかな)
それを過ぎると、自ら快感を求めてくる。今日みたいに。
(うんうん、そんなヒスイも可愛いなぁ・・・)
・・・と、その時。店内で偶然の出会いが。
「オーケン先生!!」と、双子が駆け寄る。
オーケンとは、担任の名である。
彼は、ラリマーとルチルの息子で、外見年齢は20代前半。髪の色も瞳の色も父親譲りだ。
ホストのバイトをしていただけあって、かなり垢抜けていて、リング型のピアスが3つ・・・はっきり言って、小学校の教員には見えない。
「あー、ども」と、オーケン。
コハクに向け、頭を下げた。生徒の保護者に対するものより深く、義を重んじて。
「コハクさんは敬えって、親父に口煩く言われてんすよー」
それを聞いてコハクは笑い。
「いやいや、こちらは息子がお世話になっている身だし」
改めて、挨拶をした。
「あー、そだ。来週授業参観なんすけどー」
「勿論、行きます」と、コハク。
授業の内容は、家族についての作文の発表会と聞いている。故に。
「今から楽しみにしてるんですよ」
そして・・・授業参観、当日。
ヒスイのスタイルは、瞳の色と合わせたエメラルドグリーンのワンピース。
ノースリーブだが、レースのハイネックにリボンが付いていて、キュートに上品だ。
少しヒールのある靴で、母親の気合いを見せている。
コハクが選び抜いただけあって、とてもよく似合っていた。
一方コハクも、さりげなくスーツを着崩して。美形が際立っている。
二人手を繋いで教室の扉をくぐると、いつものことながら、周囲がざわつく。
「おおぃ!!ヒスイぃ!!コハクぅ!!」
アイボリーが両腕を振り回し、夫婦がそれに答える。
マーキュリーは控えめに振り返っただけだったが、それでも両親の存在を確認すると嬉しそうにしていた。
「えー、今日は授業参観ということでー」
黒板の前に立つオーケンは、保護者の目を意識してか、地味めのポロシャツ姿だ。無論ピアスなどしていない。
クラスの生徒は20人で、全員が順番に作文を発表することになっている。
座席はあいうえお順。従って・・・
「はい、じゃー、アイボリーくん」
「ういっす!!」
一番手のアイボリーは元気良く立ち上がり。良く通る声で作文を読み上げた。
タイトルはベタに『ぼくのおとうさん』だ。
「ぼくのお父さんは・・・」と切り出し、そして一言。
「極道です!!」
「・・・うん?」(極道???)
笑顔のまま固まるコハク。アイボリーは誇らしげに話を続けた。
「背中にすごい刺青があって!毎日刃物を振り回しています!」
「!!」「!!」
コハクとヒスイだけでなく、教室全体が緊迫する。
刃物を振り回す〜というのは、包丁で料理をしている〜の意だが、紛らわしい表現が誤解を招き。
刺青に至っては真実のため、弁解できない。
次の瞬間、コハクは我が子を拉致した。
保護者の群れから飛び出し、机の間を抜け、原稿用紙を持ったアイボリーを抱え上げる・・・
「どうもすいません。うちの子に構わず、授業続けてください」
はははははは!!謎のヒーローのような笑い声を残し、アイボリーと共に教室を去るコハク。
すると、必然的に。
逃げ遅れた、極道の妻、ヒスイに視線が集まる。
「ち・・・ちが・・・」
(お兄ちゃんはヤクザじゃないもんっ!!)
そう言いたくても、極度の緊張で言葉が出ない。全身が紅潮し、立ち眩みすら覚える。
その時だった。
「今のは冗談です」
マーキュリーが立ち上がり、ヒスイに変わって注目を集めた。
クラスで一番背が高く、甘いマスクのマーキュリー・・・保護者だけでなく、女子の視線も釘付けだ。
「弟は・・・ひょうきん者で」
少し考えた末にそう言って。
「教室の雰囲気を明るくしようとして、あんな事を言ったんだと思います」
結果的にスベった、ということになるが。悪戯の尻拭いなら、これで充分だ。
「お騒がせしてすみませんでした」と、マーキュリーは丁寧に頭を下げた。
弟アイボリーが謝れない性分のせいで、兄マーキュリーは謝り慣れているのだ。
(まーくん!!なんて言い訳上手なのっ!!)
口下手なヒスイは、心の中で拍手喝采だ。
こうして、授業参観の危機は乗り越えた・・・が。
数年後。
双子は、最大にして最後ともいうべき、途方もない悪戯をしでかすのだった。
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