一行は、モルダバイト西の砂漠へと帰還した。
氷漬けにされたイフリートは依然そのままだったが、オニキスにより復旧作業が再開された。
「ご機嫌だね、ヒスイ」
腕の中にいるヒスイの顎に指を添え、笑いながら、唇を重ねるコハク。
「お尻、大丈夫?」「ん!」
元気のいいヒスイの返事。
「じゃあそろそろ、えっちな下着で、えっちしようね」
「えっ・・・ちょっ・・・おにいちゃ・・・!?」
手際よくコハクがポケットから種を取り出し、砂地に向けて投げる・・・と。
たちまち草木が生え、水が湧き。
砂漠に、二人のためのオアシスが出現した。
「さ〜、行こうね。ヒスイちゃん」
できたての木陰へと、強引に連れ込む。
そこでは・・・
ヒスイがコハクのシャツを掴み、抵抗している様子だったが。
髪を撫でられながら、ちゅっ。ちゅっ。額や頬、目元にキスを受けて。
「も・・・おにいちゃ・・・てばぁ・・・あ・・・んぅ」
コハクの舌を口に入れ、そのまま体を許していく・・・
その首筋にマーキュリーの噛み跡を残したまま――
「・・・・・・」
「どうだ?気分は」
マーキュリーの隣に立つトパーズ。
二人の視線の先には当然ヒスイがいる。
「・・・・・・」
嫉妬の初期症状を軽く通り越して。焼けつくような感情。
煉獄にいるようだと、マーキュリーが告げる。すると。
クク・・・トパーズは笑って言った。
「安心しろ。煉獄は――」
地獄の一歩手前だ。
「・・・・・・」
(地獄の一歩手前・・・兄さん達より、まだいいってことか)
マーキュリーは瞳を伏せ。
本来の柔和な微笑みを浮かべた。
「だったらこれはお返しします」
そう言ってトパーズに差し出したのは、3階建ての家の鍵だ。
「お父さんや兄さん達は無理でも・・・」
「お母さんひとりぐらいなら、騙せますから」
「口の減らないガキだ」軽く嘲笑して。
「それは預けておく」と、トパーズ。
それから、トパーズにしては珍しく冗談めいた口ぶりで。
「地獄に堕ちたら来い」
「はい」
「兄ちゃん?これで良かったの???」
後ろに控えていたジストが言った。
マーキュリーの男の事情を考慮し、3階建ての一室に、急遽、家具一式揃えたのだが。
「まあいい」
トパーズは咥えた煙草に火をつけ。
「しばらくは空き部屋だ」
「なー、俺思うんだけどさ」と、メノウ。いつの間にか会話に混じっている。
「コスモクロアのあの家、ヒスイを連れ込むために建てたにしちゃ、広すぎんだろ。部屋数も多いし」
「・・・・・・」
「お前のことだから、最初から考えてたんじゃないの?あの家が――」
ヒスイと一緒に暮らせなくなった弟達の避難所になるように。
「そうなのかよ」と、アイボリー。話は一部始終聞いていた。
トパーズは答えなかったが、代わりにメノウが。
「何でだと思う?」
ヒスイが安心して“銀”の子供を産めるように。
「――だろ?めちゃくちゃ愛してんじゃん」
それは、トパーズにしかできない愛し方。
「うるさい、ジジイ」
そう言いながらも、トパーズは否定しなかった。
「俺はずっと屋敷に残るぜ」
移住の誘いすら受けなかったというのに、構わず話を進めるアイボリー。
「“こちら側に、来るな”って、トパーズが言ったんだからな」
「俺はヒスイの一番近くで――」
「フラれ記録No.1を目指す!!」
「トパーズもオニキスもジストも、結構いってそうだけど、すぐに追いついてやるぜ!見てろよ!」
何を言い出すかと思えば。自虐に前向き。
これには兄弟一同笑ってしまう。
苦笑いに大笑い・・・それぞれの口許から白い牙が覗いた。
幻獣界に行っている間に丸一日が過ぎ、次の太陽が昇ってきていた。
(不思議だな・・・あーくんは)マーキュリー、心の声。
笑いの中心にいるアイボリーは、“銀”のはずなのに、“金”のようで。
月の光より、太陽の光が似合うのだ。
「・・・・・・」(ぴったりじゃないか)
アイボリーが“金”で、自分が“銀”。
トパーズから預かった鍵を握り締め、やっぱりこれで良かったのだと思う。
(恋愛確率100%の“銀”なら、あのひとに「好き」と言う手間が省けるし)
楽でいい――と、自嘲。
そしてこちら、ジスト。
(まー、なんで笑ってんだろ???)
そんなマーキュリーの隣に並ぶアイボリーは暢気に欠伸をしている。
見た目も性格も全然違うが、ジストにとっては、どちらも可愛い弟だ。
ジストは、双子の間に立ち、双方の肩を力いっぱい抱き寄せた。
「ジスト?」「ジスト兄さん?」
(ヒスイはオレ達のものにはならないけど――)
愛する喜びも、痛みも、分け合うことができるから。
強く生きような!兄弟!
‖目次へ‖‖前へ‖