(しかし何故だ?何故ヒスイがここにいる・・・)

正直、夢だと思いたい。
思いたいが、視界はどんどんクリアになって。
意識が夢現から確かな現実へと引き戻される。
(・・・言い訳できんな)そう悟る、オニキス。
ヒスイの上に乗り、バスローブを開いて、勃起ペニスを向けているのだ。
現実と気付いたところで、すぐにペニスが鎮まる訳もなく・・・
そもそも、夢であれ現実であれ、ヒスイを抱こうとした事に変わりはない。
そうしたいという気持ちも偽れなかった。


つまり・・・どうしようもない。


「ん・・・ぅ」
オニキスの下で、ヒスイは寝苦しそうに体を動かし、そして。
「オニ・・・キス?何・・・してるの?」
「・・・見ての通りだ」
オニキスは体勢を変えずに言った。
開き直った訳ではないが、今更取り繕っても仕方がない。
間違いなく嫌われると思った。ところが。
「ヒスイ・・・?」
ヒスイの様子が、おかしい。
頬を赤らめ、とろんとした表情をしている。
その姿は欲情にも似ているが・・・
(熱があるな)
これは現実と認識したうえで、ヒスイに触れると異様に体が熱い。
「オニキス・・・」
ヒスイが再び口を開いた。
どうした?と、オニキスがヒスイの口元に耳を寄せる。
「わた・・・し・・・」



・・・吐きそう。



「ヒスイ・・・!」
「え!?ママ!?どうしたの?」
同室のスピネルも目を覚まし、駆け寄る。
「ヒスイ、しっかりしろ」
オニキスがヒスイの体を抱き起こした瞬間。
ゲホ・・・ッ!!ヒスイは大量の血を吐いて、意識を失った。
「ヒスイ!!」「ママ!?」



それから30分後・・・

「バカだねぇ・・・この子は」と、しみじみ呟くカーネリアン。
同じ半吸血鬼として、ヒスイの介抱にあたったのだ。
依然、熱は高いままだが、ヒスイの容態は今のところ落ち着いている。
「それでどうなんだ、ヒスイは」
オニキスとスピネルがベッドのヒスイを覗き込む。
「そんなに心配しなさんなって」
カーネリアンは男二人に向け笑い。


「ただの食あたりだよ」


「食あたり・・・だと?一体何に・・・」
「動物の血を飲んだのさ。猫だか鼠だか知らないけどね」
カーネリアンが言うには・・・愛する者の血が極上のワインだとすれば、動物の血は腐った水のようなものらしい。
「この子、初めてだったんじゃないのかねぇ・・・」
カーネリアンは眠る妹分の頬を撫で。
「なんで動物の血なんか・・・」と、軽く溜息をついた。
渇きのあまり、ヒスイは同室のカーネリアンが眠ったあと部屋を抜け出し、動物の血を啜ったのだ。
その帰りに部屋を間違え、オニキスのベッドに潜り込んだという訳だ。
ヒスイは基本的にコハクの血しか飲まない。
オニキスの血は非常用で、まさにこんな時のためにあるというのに。
「・・・・・・」
オニキスの眉間に再び皺が寄る。
(なぜオレに言わなかった・・・)


“恥ずかしいのはお互い様だ”


(オレが・・・あんなことをしたせいか)
ヒスイに血を飲ませ、無理矢理欲情させた。
そしてまた、自分も血を飲んで、欲情する様を見せてしまった。
ヒスイが動物の血を飲むに至った理由はすぐにわかった。
(コハク以外の男に欲情する事を恐れたのだろうが・・・)
「・・・・・・」
こうなるともう、溜息しか出ない。



愛しくて愛しくて仕方がないのに、傍に置いたら置いたで手に余る、女。



「どうする?」と、オニキスに尋ねたのはスピネルだ。
「ママ、随分血を吐いたから・・・」
今は眠っていても、じき目を覚まし、渇きを訴えるのは必至で。
ヒスイの体質を考慮し、誰が血を与えるか決めておかなければならなかった。
事後処理も含めて・・・だ。
「ボクがやろうか?」スピネルが言った。
オニキスを気遣っての発言・・・だが。
「・・・・・・」「・・・・・・」
オニキス、カーネリアン、双方ぎょっとする。
吸血行為の末、欲情したヒスイの相手をどうやってするというのか。
「10年も一緒にいたんだよ?ママのことは大体・・・」
「・・・子供は心配しなくていい」と、スピネルの言葉を遮るオニキス。
「そうだよ、アタシ等大人に任せときな」カーネリアンも頷く。と、そこに。


「お・・・にいちゃ・・・のど・・・かわい・・・」


弱々しいヒスイの声が割って入った。
眠りながらにして、早くも渇きを訴えるヒスイ。
何度も何度もコハクを呼ぶが、生憎ここにコハクはいない。
「何ならアタシが・・・」と、カーネリアンもオニキスを気遣うが。
「・・・・・・」(仕方があるまい)
非常食としての役割を果たすべく、オニキスは二人に部屋から出るよう言った。



「・・・飲め」
手首を噛み切り、出血する傷口をヒスイの口元に持っていくと、その匂いに反応して、ヒスイはすぐ吸い付いた。
大抵の傷は一瞬で治癒するが、眷属の定めか、主であるヒスイの唾液に触れている間は傷口が塞がらない。
また、ヒスイにつけられた傷は治りが遅いという特徴があった。
虚ろな瞳のまま、傷口に舌を這わせるヒスイ・・・更に傷口を広げるように、舌先を使って・・・いつものヒスイはこんな吸い方などしない。
渇きが理性を失わせているのだ。
「う・・・ん」
その渇きが徐々に満たされ、ヒスイの意識も段々と夢現から現実へと戻ってきた。
今、口にしているものがコハクではなくオニキスの血であることを認識できるほどまで回復した。
しかし、後には欲情の発作が待っていて。


「あ・・・っ・・・うぅぅ・・・んっ・・・」


ホーンブレンドの影響か、かつてない欲情ぶりだった。
「んふぅ・・・」
熱に熱が重なり、体が焼けるように熱い。
女性器が覚醒し、うずうずと、濡れ出す。
「はぁ・・・ぁ」
セックスが、したい。
とにかくそこに刺激が欲しいのだ。
「う・・・おにいちゃ・・・ぁ」
いつも自分をイカせてくれる男の名を呼ぶが、当然返事はなく。
「ん・・・っ!!」
体を動かした拍子に、どくん・・・っ、膣内から一段と濃厚な愛液が押し出され、淫らに太ももを濡らした。
「は・・・ぁ、はぁ、はぁ」
朦朧としながらも、ヒスイは、何かコハクの代わりになるものはないか、目で探した。
一番近くにオニキスの顔が見えたが、“お兄ちゃんの代わり”にオニキスは含まれない。


一方、そのオニキスは・・・静かにヒスイを見守っていた。
「・・・・・・」
こうなることはわかっていたのだ。覚悟はできている。
自分の手でイカせてやりたいが、そうもいかず。
オニキスは冷静に室内を見渡した・・・するとあるものが目に留まり。
(・・・あれを使うか)
「ヒスイ、立てるか」
そう声をかけながら、ヒスイをベッドから連れ出す。
「う・・・ぅぅ・・・ん」
ヒスイのバスローブは見事にはだけ、オニキスは理性との戦いを強いられた。
「・・・・・・」
ヒスイからはいつにも増して芳しい香りがして。
深く吸い込むのは危険な気がした。思考が停止してしまいそうだ。
「もう少しだ」
足元がフラつくヒスイを誘導した先は・・・
壁際に設置されている、二人用のテーブルセット・・・の、テーブルの方だ。
木製のテーブルはそれなりの高さがあり、四角形なので・・・角がある。
「・・・少し捲るぞ」
オニキスはそう言って、後ろからヒスイのバスローブの裾を捲り、腰骨に手を添えて。
ヒスイの陰部を天板の角に押しつけた。
「あっ!!んんっ・・・!!」
ビクンッ!ヒスイの体が大きく震えた。
「あ・・・あぁ・・・」
クリトリスが角にあたっているのだ。
「んん・・・っ!!」
愛するコハクとは程遠いが、刺激には違いなく。
「あっ!あっ!あ・・・あっ!あっ・・・おにぃ・・・!!」
オニキスの手に軽く腰を揺すられ、摩擦面から、キュンとする快感が全身へと巡り始めた。
「は・・・あん・・・おにいちゃ・・・」
角に向け、いやらしく腰を振っている最中も、ヒスイはコハクの名しか口にせず。
今、自分の腰を掴んでいるのは誰かわかっていない様子だ。
「ふっ・・・ふぁっ・・・あっ・・・はぁっ・・・おにいちゃ・・・おにいちゃぁ〜・・・」
「・・・・・・」
喘ぎ乱れるヒスイの声に、ペニスが甘く絞め殺されていく・・・
報われない・・・報われてはいけない勃起なのだと、オニキスも理解していた。
「あっ・・・!あんっ!んぃ・・・っ!!」
ヒスイの膣口から大量に溢れた愛液が、脚の付け根から、膝、踝まで伝って。
「あ・・・ぁ・・・おにいちゃ・・・」
「・・・・・・」
これ以上長引くのは、オニキスにとっても辛かった。
最後の最後までコハクの代わりをするために、左手でヒスイの両目を覆うオニキス。
そうして、バスローブの上から、ヒスイの乳房を揉み上げ。
「あん・・・っ!!おにいちゃ・・・!!」
快感に、快感が重なる。
オニキスの愛撫に、ヒスイは、バスローブを突き破りそうなほど乳首を尖らせ。
「あっ!あっあっ・・・あぁっ・・・!!あぁ・・・ん!!おにい・・・っ!!」


「・・・あぁぁっ!!」


「・・・っ」
ヒスイが達する瞬間・・・オニキスも堪らず。
ちゅっ。ヒスイの頬に一度だけ、キスをして。
「はぁ・・・ふぅ・・・」
テーブルの前に崩れ落ちるヒスイから離れた。
「・・・すまん」一言、謝罪の言葉を残し。
「あとは頼む」と、部屋の外にいたカーネリアンに引き継ぐ。



「お疲れ」
スピネルが労いの言葉をかけた。
「ママと、してないの?」
同じ男として、見るところを見ればわかる。
「我慢ばっかりしてると、体に悪いよ?」
「ああ・・・」
コハクの名しか呼ばないヒスイの相手をして、ドッと疲れた。同時に、虚しい。
ここでもまた、溜息だ。
「オニキス?どこ行くの?」
「例の村を調べる」
「ボクも一緒に・・・」
「いや・・・」
一人の方が動き易い、と、スピネルの同行を断り、オニキスが表へ出た時だった。
「・・・・・・」
上空に、よく知る気配。



「ど〜も。遅くなりました」



朝日と共に、コハク参上。
ヒスイは無事か、まずオニキスに確認し。
この土地が、モルダバイトとは時差が生じるほど離れていることを説明した。
「あの村、かなり訳アリっぽいですね」と、コハク。
ここへ来る前に、例の忌まわしき棺桶を探し、立ち寄ったのだという。
「あの村のことを、この町の人間に聞いても無駄だと思いますよ」
「どういうことだ?」
コハクは早くも何かを掴んでいるようだったが、多くは語らず。
「意図的に隠された村だからです」とだけ言った。
「ここは、ヒスイにとって、あまりいい場所じゃない」そう、コハクが続けて。
「僕のことはまだヒスイに話さないでください」
安全を確保してから改めて迎えにくる、と、羽根を広げた。
ヒスイに害をなすものは、ヒスイに知られる前に消す。それがコハクのやり方なのだ。
「僕がいないからって、ヒスイに手出さないでくださいよ?なんとなく今回は嫌な予感がするんですよね〜」
女の勘を凌ぐ、コハクの勘。
「・・・・・・」
ある意味手遅れなのだが。オニキスは黙ってコハクを見送った。


・・・と、その時。


「お兄ちゃん?」
フラフラと、まだ少し具合の悪そうなヒスイが表へ出てきた。
「お兄ちゃんの声が聞こえたような気がしたんだけど・・・」と、空を見上げる・・・コハクの姿はもうなかった。
「お兄ちゃん〜?どこ〜?」
それでも諦めず、コハクを探すヒスイ。
「・・・・・・」
コハクに口止めされているので、黙っているしかないのだが。
必死になってコハクを探すヒスイを見ていると・・・不意に。
ある言葉が、口をついて出た。



「・・・お前は、コハクがいなくなったらどうするつもりだ?」



「お兄ちゃんがいなくなったら?それって、死んだら、ってこと?」
ヒスイはまっすぐオニキスを見つめた。
その姿は、純真無垢で。ついさっきまで、愛液を飛沫かせていたのが嘘のようだ。
不躾な質問にも、気を悪くした様子はなく。
「う〜ん・・・考えたことなかったけど・・・お兄ちゃんが死んだら・・・」



私も死ぬ。



「そうか」
相変わらず迷いのない答えに、オニキスは苦笑いを浮かべ。
「ヒスイ、お前にひとつ問いたい」
「ん?なに?」



その時、オレがまだ“生きたい”と言ったら。



お前は・・・どうする?







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