注がれたワインを一気に飲み干し、軽く一礼の後、トパーズは部屋を出た。
(疲れた・・・)


許す愛。


これだからオニキスには頭が上がらない。
愛もクソもないコハクといる方が断然気が楽なのだ。
城で暮らした17年間、オニキスには怒られた事も、殴られた事もなかった。


一度だけ。ヒスイを犯した時を除けば。


今は養父オニキスの元を離れ、実父コハクの元、殴り殴られる日々だ。
オニキスと違い、コハクはすぐに手が出る。


「見〜ちゃった」


そのコハクがトパーズのすぐ近くに立っていた。
ヒスイ発見に至らず、で、一人だ。
「ふ〜ん。オニキスのこと苦手なんだ」
「・・・・・・」
オニキスの「共に〜」発言に対し、コハクが述べた。
「僕だったら、その場で潰すね」
優美な微笑みだが、相変わらず口から出る言葉は嗜虐で。
「・・・・・・」
オニキスとコハク・・・つくづく対照的だ。
物事の考え方が根本的に異なるのだ。
コハクが恋敵ではオニキスもさぞ苦労するだろう。
今更ながらに同情するトパーズだった。


“好き”でも苦手なオニキス。逆にコハクは“嫌い”でも苦手ではない。


従って、屋敷での生活は何気に快適だった。
「口で言ってわからないなら、殴るし。特に君は」
コハクは拳を鳴らし、笑った。
「これからも、ね」

ところで・・・とコハクが続けた。

「どう?気分転換に」
何のお誘いかと思いきや・・・卓球。
ヒスイ捜索中に偶然見付けた広間に卓球台が置いてあった。
ラケットと玉も揃っている。
「ヒスイが見つからなくてイライラしてたんだ」
ここはひとつ健康的に運動で発散しようという提案。

カッカッカッ・・・

「・・・・・・」「・・・・・・」
お互い話す事もなく、黙々とラリーが続く。
いまいちスッキリしない。
メノウの魔法に妨害され、愛しいヒスイの消息が掴めず。
(近くにいるのは間違いないのに・・・)
強力な結界で隠蔽保護されてしまっていた。



「思った通りの展開だな」
中継用の水晶玉を覗き込み、メノウが笑う。
同じ旅館内ではあるが、ずっと離れた場所から。
男達に悟られないよう、細心の注意を払う必要があったが、天才の名は伊達ではなく、今のところ順調だ。
「んじゃ、まずはこいつらからいくか」
「ね〜・・・お父さん、お土産買うとこあるのかな〜?」
何も知らないヒスイは親子温泉旅行を満喫・・・
計画の一端を担う事になるとは思ってもいなかった。


「よっ!やってるね」
「メノウ様!」


メノウは卓球場に姿を現した。
「僕のヒスイをどこに隠したんですか!」
“僕の”を強調しつつ、すかさずコハクが詰め寄る。
「まぁ。まぁ」
宥めても効果はないとわかっているが。
「お前等さ、魔界の温泉って始めてだろ?」
勿体ぶって、なかなか本題に入らないメノウ。
ちゃっかり自分も浴衣だ。
「何でここが観光名所か知ってる?」
様々な効能を持つ種類豊富な天然温泉が売りだが、その中のひとつに・・・
「“禊ぎの湯”ってのがあるんだ」
“禊ぎ”とは、“身を濯ぐ”という意味を持つ。
「禊ぎの湯に入ると、処女に戻るんだってさ」
「え?」
ゆっくり瞬きをして聞き返すコハク。
トパーズも反応を示した。
処女のヒスイ・・・イメージが各自の脳裏に浮かぶ。

ヒスイを処女に戻せるとしたら。コハク思考。

トパーズに介入された過去を清算できる。
それがなくなれば・・・普通の親子に戻れるんじゃないか?
初めての相手は当然僕だし。
今度こそ僕が200%ヒスイを独占できる。
他の誰にも触らせない。

ヒスイを処女に戻せるとしたら。トパーズ思考。

ヒスイの体から、コハクのペニスを追い出して。
親子としてじゃなく、男と女として始める。
約束の10年は過ぎているし、攫うついでに処女をいただくのも悪くない。
今度こそオレが200%ヒスイを独占する。
他の誰にも触らせない。

横目と横目で交差する視線。


(トパーズが何を考えているのか知らないけど)
(こいつが何を考えているか知らないが)


((早いもの勝ちだ!!))



「・・・で?ヒスイはどこに?」
我先にとコハクが尋ねた。
「ついさっきまで俺といたけど、土産買いに・・・って、おい」
メノウの話を最後まで聞かずにスタートダッシュするコハク&トパーズ。
思った通りの反応で。
「あはは!引っ掛かった!」
お腹を抱えてメノウが笑う。
何かにつけてよく笑う・・・メノウは笑い上戸だ。
(やっぱ面白い奴等だなぁ)
「んじゃ、始めるか」



エントリーナンバー@コハク。

(土産物屋!!もらった!!)
さっき覗いた時はいなかったが、旅館内施設の位置はバッチリ把握している。
「ヒスイ・・・っ!!」
「えっ!?お兄ちゃんっ!?」
(見つけたぁぁ!!)
再会の喜びに浸りたいところを堪え、トパーズに追いつかれる前に、禊ぎの湯を目指す。
「ヒスイ、お兄ちゃんと温泉入ろう。それからいっぱいえっちしようね〜」
怒濤の勢いでヒスイを抱き上げ、走る。
「待って!お兄ちゃんっ!これまだお金払ってないの・・・っ!!」
ヒスイの手には、買い物カゴ。
中には未会計の土産物の数々。
「万引きになっちゃうよっ!!」
当然店員も追ってきた。そこでコハクが一言。


「すいませんっ!後から来た銀髪眼鏡の男が払いますから!!」



露天。禊ぎの湯。

「ここが・・・禊ぎの湯?」
案内板の指示に従いやってきた。
温泉旅館の裏手から階段をずっと下った先、海原が一望できる絶景に面して、それは長方形・・・横に長く広がっていた。
周囲は板張りで、それこそプールのような温泉だった。
人間界とは時差があり、ここではもう日が沈みかけていた。
辺り一面、夕焼けの色に染まっている。
季節は同じ初夏だが、年間を通し魔界の平均気温は低く、今も少し肌寒い。
傍にヒスイがいなかったので、コハクは環境の変化を気に懸けている余裕もなく、ヒスイを奪還した今、やっと自分のいる場所を認識した。
「さ、ヒスイ、脱いで・・・」
早速禊ぎの準備に取り掛かる。
コハクはヒスイの体に手を伸ばした。
「・・・ん?」
(そういえばコレ、お揃いじゃないか!!)
ヒスイは同じ旅館の浴衣を着ていた。
(可愛いぃぃ!!)
いつもの萌発作。

その時。

「ね、お兄ちゃん!これ、ジストのお土産にどうかなぁ?」
トパーズ、シトリン、スピネル、サルファー、アクア・・・
ヒスイの口から次々に子供達の名前が出た。
買い物カゴには全員分の土産。
ヒスイは無邪気な笑顔で、そのひとつひとつをコハクに見せた。
「でね、これがお兄ちゃんの分だったんだけど・・・お兄ちゃん?」
「・・・・・・」

愚かな夢から醒める瞬間。

(そうか・・・ヒスイは・・・“母親”なんだ)
頑張って6人産んだ体をリセットする事は、ヒスイに対しても子供達に対しても物凄く失礼なんじゃないか?
途中イレギュラーがあったって。
愛し合った思い出がたくさん詰まった、愛しい体だ。
いつもはやってしまってから反省するのだが、今回は事前に気付く事ができた。
(良かった・・・取り返しのつかない事をするところだった)
今日もまた愛しくて愛しくて堪らなくなって。
ぎゅ・・・っ。ヒスイを抱き締める。
込み上げる愛情は性欲へと変換されて。

禊ぎの湯、前。

プールサイドのような場所に並んで座り、景色を眺める。
・・・より先に、ヒスイの肩を抱き寄せ、キス。
白いレースの下着に指を忍ばせるコハク。
薄い布地の下、モゾモゾ・・・蠢く指。
愛しいヒスイの分泌液で、コハクの指先はすでにドロドロだった。
「んっ・・・ぁ」
外見の幼さとは裏腹に、悩ましげなヒスイの声。

くちゃ、くちゃ、くちゃ、くちゃ・・・

「ん〜・・・っ」
濃厚キスで舌を絡ませ、指先には愛液を絡ませ。
一枚覆われた内側で、淫らな音を響かせながら、続く愛撫。
ヒスイの女性器を直に見ることはできないが、確かな感触だ。
「あっ・・・はぁ・・・」
「よしよし・・・」
人差し指と薬指を割れ目の左右の膨らみに添え、中指で溝を撫で上げる。
ヌルヌルと・・・手前の肉粒も優しく擦って。
「あ・・・おにぃちゃ・・・ん・・・おん・・・せん・・・は?」
「この温泉は熱くて火傷しちゃうから、やめよう」
「今、思い出した」と、付け加え。
「時間によって温度が変わるんだ」と、こじつける。
「そ・・・うなの?」
「うん。ごめんね」
その言葉と共に、入口付近で愛液と戯れていた指先が、一気に奥へと送り込まれる。
「うっ・・・んっ!!」
ヒスイは深く俯き、一段と頬を紅潮させた。


「今日はそのくらいにしとけ〜」


「メノウ様!?」
ここでメノウが登場する意味がわからない。
驚くコハクをよそに「今日はえっち禁止」と、娘を回収するメノウ。
ヒスイの処女に男達がどう行動するか見定めたかったのだ。
父親としては、処女如何に拘らず、ありのままの、今のヒスイを愛して欲しい。
コハクはヒスイを処女に戻さなかった。
それを確認できた時点で終了だ。
とにかく後がつかえているのだ。
「え?え?お父さん??」
男3人に対し、ヒスイは1人。
どうしたってフル稼働になってしまう。
「メノウ様!?」
「ちゃんと説明するから、お前はこっち来いよ」
間もなくトパーズがここに現れる。
ヒスイを禊ぎの湯の前に残し、コハクを連れ撤収。
「メノウ様・・・これどういう事なんですか?まさか・・・」
「そのまさか」
(さ〜て、あいつはどうするかな?)




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