宮殿奥では――
シトリンの必死の抵抗虚しく、凍結化が進んでいた。
氷の像になるのも時間の問題だ。
「く・・・おのれ」
力押しの戦いなら、絶対に負けない。
けれども、それは拘束魔法の一種であり、強力な魔力で構成されていた。
スノークイーンは、今まで戦ったことのないタイプの魔物だった。
(くそっ!このままやられてなるものか!!)
シトリンの周辺には、他にもいくつか氷の美人像がある。
スノークイーンのコレクションなのだろう。
自分もそのひとつになるのかと思うと、悔しくて堪らない。
「くっ・・・!!」
シトリンの豊満な胸を覆うように、氷が張っていく・・・
(私としたことが、何たる失態・・・すまん、ジン・・・)
自身を呪い、シトリンが目を閉じた、その時。
ゴウゥッ・・・!!氷の床に炎が走った。
そのままシトリンを円で囲い、高々と燃え上がりながら、氷を溶かし始めた。
「拘束魔法を解くわ!ちょっと熱いけど、我慢して!」と、ヒスイ。
「!!おお!!母上か!助かった!」
魔法のステッキを手に、ヒスイが自称スノークイーンを睨む。そして。
「シトリンに手を出さないで!私が相手になりゅ・・・」
・・・大事なところで噛んだ。
「やだぁ、ママってばぁ」
それはないでしょ〜、と、後ろのアクアが笑う。
「っ〜!!私が相手になるわ!で、いいんでしょっ!!」
気を取り直し、ヒスイがそう言ったところで。
「なんと美しい少女だ・・・」
こんなに可憐で麗しい少女は見たことがない、と、ヒスイを絶賛するスノークイーン。
目を妖しくギラつかせ、ヒスイ確保に乗り出した。
息を吸い込み、吐き出す・・・アイスブレス。
これを食らうと、シトリンのように凍結してしまう。
(お兄ちゃんとえっちしといて良かったぁ)
体がいい具合にほぐれている。
ヒスイはそれを余裕で躱し、改めてステッキを構えた。
「えいっ!」
掲げたステッキの先に炎が燈る。それが渦を巻き、大きな火の玉になる。
ボン!ボン!ボン!特に狙いを定めず、ファイヤーボールを乱発するヒスイ。
掠った柱はゴッソリ削れ・・・かなり凶悪な破壊力だ。
軌道が決まっていないため、回避のしようがなく。
いつコレクションに当ってもおかしくない。
「やめたまえ!!」
スノークイーンが青ざめる。
「私は戦いを好まない!!」
そう叫びながら、指笛を吹く、と。
「ニャーッ!!」
ジストの足止めをしていたタンジェが、猫さながらに、しなやかに、雪原を駆けてきた。
持っていたサーベルで今度はヒスイに斬りかかる。
しかしそこで。
「ターちゃんの相手は、アクアだよぉ」
アクアのトンファーが軽々と刃を止め。その瞬間、勝負はついた。
ヒスイの魔法により、氷の呪縛から解放されたシトリンが、大鎌をスノークイーンの首に引っ掛けたのだ。
「貴様の負けだ。スノー・・・なんとか」
「スノークイーンだよ」
シトリンに駆け寄ったヒスイが、背伸びをして耳打ちする。
「あー、そうだったか」
ここで、仕切り直して。
「スノークイーンとやら!命が惜しくば、わかるな?我々を諦め、タンジェの催眠を解け!」
こうして、女達の活躍(?)により、事態は収束に向かっていた・・・筈だった、が。
「どうしてこんなことしたの?」
降伏したスノークイーンにヒスイが質問し、思いがけない展開へ――
「フッ・・・私は“美しい者”をコレクションするのが趣味でね」
単にそれだけだと言う、スノークイーン。
美女を凍結させ、氷の像にするものの、眺め飽きたら、氷を溶かし、帰すという。
たっぷり謝礼の品を持たせて・・・だ。
「美しい者の命を奪ったり、傷付けたり、そんなものはナンセンスだ、フッ」
「・・・・・・」(なんだか微妙ね、このヒト)
やっていることは誘拐だが、謝礼を渡しているせいなのか・・・教会への被害届は出ていない。
エクソシストとして、どう対応すべきなのか、ヒスイが迷っていると。
「私は弟のように、美しい者を排除したりはしない」
スノークイーンがそう力説した。
「弟?もしかしてスノープリンスのこと?」
「弟を知っているとは、驚きだ。フッ・・・」
「じゃあ、やっぱりあなたもスノープリ・・・」
「スノープリンスでは愚かな弟とカブってしまうだろう?カブリはいけない」
そのため、スノークイーンを名乗ったのだという。
「女王のように気高く美しい、という意味も込めてね、フッ・・・」
「あ、そう・・・」(さっきから、フッフ、フッフ、うるさいわね・・・)
“ナルシスト”は、スノープリンス兄弟に共通する特徴のようだ。
「タイガーアイから、モルダバイトには金髪菫目の超美人がいると聞いてね」と、スノークイーン。
その情報を頼りに、モルダバイトに出向いたという。
「!!」(それってお兄ちゃんのことじゃ・・・)
金髪菫目の超美形といえばコハクだが、シトリンも同じ顔だ。この状況にも頷ける。
更なる情報収集の末、ターゲットをモルダバイト王妃シトリンに定めたスノークイーン。
城へ向かったところ、たまたま里帰りしていたタンジェと鉢合わせになった。
そこで正体を見抜かれ、戦闘になったが、スノークイーンが制し。予定変更。
「地味顔だったのでね、コレクションには加えず、魔力を貸し与え、眷属としてしばらく働いてもらうことにしたのだ、フッ・・・」
『この私より美しい者を連れてきておくれ』
タンジェにそう命じた結果、美形一族の女子に被害が及んだのだ。
「申し訳ないことをしましたわ」
我に返ったタンジェが深々と頭を下げる。
「後は、わたくしからお話します」
その頃、雪原では。
突然タンジェが撤退し、ひとり残されたジスト。
「どうなってんの???」
首を傾げていると。
「ジスト?」
空から金色の羽根が降る。
ジストが見上げた先には。
「父ちゃん!?と、サルファー!!」
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