ドサッ!!
ヒスイを追い、ジストが落下したのは雪原だった。
大地は果てしなく白く、眩しい。
ジストの空間移動はかなりの確率で成功するものの、100%という訳ではなかった。
時には、意図した場所と着地点がズレることもある。
「ヒスイ・・・」
深く鼻で息をするジスト。
すると、大好きなあの甘い香りが嗅ぎ取れた。
よく見ると、前方に建物らしきものがある。
(たぶん、ヒスイはあそこだ!!)
「ヒスイっ!今行く・・・って、あれっ???」
ジストが駆け出そうとした、その時、目の前に立ちはだかったのは。
「タンジェ???」
その声に迷いがあるのも無理はない。
顔や体格はタンジェそのもの。
しかし、すべての色素が抜け、髪も瞳も衣服さえも真っ白なのだ。
「タンジェだよなっ!?」
呼びかけても、返事がない。
タンジェは表情ひとつ変えず、サーベルを抜き、ジストに襲い掛かってきた。
「――グングニルっ!!」
神槍で攻撃を防ぐも、ジストが反撃をすることはなかった。
ただひたすら剣先を叩き落とし、軌道を変えるのみだ。
神の子ジストは計り知れない能力を持つが、女子と戦うのが、とにかく苦手なのだ。
「なんでこんなトコにいんの!?何してんの!?」
タンジェの攻撃を受け流しながら、懸命に話しかける。が、無視される。
(もしかして、誰かに操られてる!?)
そうとしか思えない。
ジストが狙われ体質であるように、操られやすい体質というのもある。
タンジェはどうやらそのタイプのようだ。
なぜこんなことになっているのか、全くわからないが・・・
(大切な子はちゃんと守らなきゃダメだろっ!!)
「サルファー、何やってんだよっ!!」
一方、こちら、ヒスイ。
気付くと“そこ”に立っていた。
“そこ”とは、アイスパレス。天井も柱も謎のオブジェも、すべてが氷でできた宮殿だ。
こういった場所に居を構える魔物は限られてくる。
「スノープリンス?まさかね・・・」⇒番外編『幸せは男次第?』参照
ヒスイが考えを巡らせていると。
「あれぇ~?ママぁ?」
娘、アクアの声に振り向く。
「アクア!?どうしてここに・・・」
「なんかぁ~、氷のオ○ン○ン割ったらぁ、ここ来ちゃってぇ」
アクアは至って元気そうだ。
「さっきまで、シト姉も一緒だったんだけど~」
「え?そうなの?」
「スノーなんとかって魔物に連れてかれちゃったぁ」
以下、アクアの回想。
「あ、シト姉~」
シトリンとアクアの姉妹もまた、この場で合流した。
「む、アクアか」
シトリンは仁王立ちで、周辺に視線を巡らせた。
「これはどういうことだと思う?」
「アクア、わかんな~い」
二人共、魔道には疎い。闇の生き物に関してもそうだ。
「せめて、物知りの母上でもいればな」と、呟くシトリン。
・・・そのヒスイは、男二人に氷責めされている真っ最中である。
「まあ、魔物が出たところで、我ら姉妹の敵ではあるまい」
「だね~」
そう言って、両者武器を構える。
シトリンは大鎌、アクアはトンファー。
“敵”の気配を察したのだ。ところが。
「!!」
猛将シトリンが括目する。
「タンジェか!?」
色素の抜かれた娘が現れ、驚く。
その驚きが致命的な隙となり、シトリンは足元に吹き込んだ冷気に掴まってしまった。
「く・・・」
爪先から凍り付き、動きが取れない。
単なる氷ではないらしく、力を込めても割ることができなかった。
「フフッ・・・豊作だよ」
低い声と共に、タンジェの背後に控えていた者が姿を見せた。
「貴様!!何者だ!?」
凍りかけのシトリンが睨む。
魔物とおぼしきそれは、中性的な人型をしている。
切れ長の目。美人といえば美人だが、悪女顔だ。
スレンダーのモデル体型・・・身長はシトリン・アクアに並ぶも、かなり華奢である。
髪はワンレンボブ、アオザイに似た衣装を纏っている。
勿論、すべてが白い。が、よく見ると髪はクリーム色に近い白で、瞳は僅かにグレーがかっている。
サラリ、髪を手で靡かせ。人型魔物は、こう名乗った。
「スノープリ・・・・・・クイーンとでも言っておこうか」
「スノープリクイーン???」アクアが聞き返す、と。
「“スノークイーン”だよ。フッ・・・」
自称スノークイーンは、両腕を組み、ポーズを決めた。
するとアクアが鼻で笑い。
「クイーンっても、男じゃ~ん。ま、いいけどぉ」
「そうなのか!?」シトリンがまた驚く。
腰まで凍結が進んでいる・・・暢気にトークしている場合ではないのだが、天然ボケの家系※母方※だ。
何かと脱線してしまう。
「フッ・・・よくわかったね」と、スノークイーン。
上から下までアクアの体を眺めたあと、言った。
「君とは、美について語り合えそうだ。コレクションに加えるのは後にしようじゃないか」
「――で、シト姉だけが連れてかれたの~」
ここで、回想終了だ。
「・・・・・・」←考えるヒスイ。
(スノークイーンなんて言ってても、男なら・・・)
種族的には、スノーマン。雪男だ。
(しかも、これだけのことができるとなると・・・)
間違いなくプリンスレベル。自分でもプリ・・・と言いかけていた。
「・・・・・・」
近年、スノーマン達による事件は起きていない。
本来は、雪山に棲む大人しい種族なのだ。人間との共存も確認されている。
あまり危機は感じない・・・が。
タンジェが操られている。
実は、ヒスイを屋敷から連れ去ったのもタンジェだった。
相手がタンジェだったため、ヒスイにも迷いが生じ、本気で抗い切れなったのだ。
「とにかくシトリンとタンジェを助けなきゃ!!行くわよ!!アクア!!」
「了~解♪」
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