赤い屋根の屋敷、リビング――
「あ、トパーズ。おかえり〜」
帰省したトパーズを、彼シャツ姿のヒスイが迎える。
コハクから解放され、これから昼寝というところだった。
「ふぁぁ・・・」
些か眠そうにしているヒスイに。
「ホラ、土産だ」と、トパーズがある物を手渡した。
「?何、これ」
「カップラーメンだ」
「カップ・・・ラーメン???」
それは丼型の容器に入っていたが、とても軽く。
初めて見る物体に、ヒスイは首を傾げた。
「これのどこがラーメンなの?」
「貸してみろ」
トパーズはキッチンへ移動すると、カップラーメンの蓋らしき部分を半分開け。
そこに、やかんで沸かしたお湯を注いだ。
そして3分後・・・
「え?何これ・・・」
ヒスイが目にしたのは、紛うことなきラーメンだった。
立ち上る湯気の中、ナルトやメンマ、チャーシューまで完全再現されている。
「うぉぉぉ・・・!!すげぇ!!」
アイボリーも身を乗り出し、テーブルの上のカップラーメンを覗き込む。
「食ってみろ」と、トパーズ。
「うん」と、頷き。緊張気味にヒスイが箸を持つ。
アイボリーはフォークを構え。二人同時に麺を啜った。
「!!おいしい・・・」「!!うめぇ!!」
「どうだ?」
挑戦的な笑みを浮かべるトパーズ。
そこでヒスイが席を立ち。
「私っ!お兄ちゃん呼んでくるっ!!」
改めて――赤い屋根の屋敷、キッチン。
コハクとマーキュリー、たまたま顔を出したメノウが加わり、計6名でカップラーメンに向き合っていた。
それぞれお椀に取り分け、試食会の始まりだ。
「へー・・・うまいじゃん」と、率直に感想を述べるメノウ。
「うん、おいしい・・・」マーキュリーも驚きの表情で呟く。
「・・・まあ、ラーメンの味はするよね、うん」
ラーメンは麺から作る!こだわりのあるコハクは、内心穏やかではなかった。
「でもほら、醤油味だけだと飽きるでしょ?僕なら、塩でも味噌でも・・・」
「クク・・・」
コハクの言葉に、不敵な笑いを返すトパーズ。
それから次々と、テーブルにカップラーメンを並べた。
塩味、味噌味・・・更にはカレー味まで。
「わ・・・どれもおいしそう」
「俺っ!カレー味食いてぇ!!」
ヒスイを筆頭に盛り上がる面々・・・
「・・・・・・」
一方、コハクはあまりの悔しさに言葉も出ない。
「ね!お兄ちゃんっ!今日の晩ごはん、これでいいよ!」
おやつもいらない!と、ヒスイが満面の笑みで告げる。
その心は・・・
(これがあれば、お兄ちゃんに楽させてあげられるしっ!)
日々、家事に追われるコハクへの思いやりなのだが。真意は伝わらず。
「え・・・?」
あまりのショックに、コハクは一瞬意識が飛んだ。
「あれ?今、なんて・・・」
信じたくない一心でヒスイに聞き返すも。
「おやつも晩ごはんもこれで済ませるから、お兄ちゃんは何もしなくていいよ!」
「・・・・・・」(僕の手打ち麺が・・・こんなものに負けるなんて・・・)
うなだれるコハクを横目に、メノウは笑いながら。
「ところで、これ、どうやって手に入れたの?」と、トパーズに尋ねた。
「コスモクロアの教会支部で、別大陸の調査をする事にした」
トパーズの話では、数ヵ月ほど前から各大陸に調査隊を派遣しているという。
「それで、だ。珍しい食文化を持つ国があると、先日報告を受けた」
そのうちの一つがコレだ――と、トパーズはカップラーメンを指した。
「他にはどんな食べ物があるの?」
ヒスイはいつになく熱い眼差しをトパーズに向けている。
「さあな」
焦らすトパーズの側に寄り。「ねぇ、教えて?」と、袖を引っ張った。
ヒスイ本人に自覚はないが、トパーズからすれば超絶に可愛い仕種・・・
「クク・・・なら、行ってみるか?」
「!!行く!行く!連れてって!!いいよねっ!お兄ちゃん!」
「・・・うん、そうだね」
力なく、コハクが返事をする。
「お前は来なくていい」
勝ち誇ったトパーズにそう言われ。
「行くに決まってるでしょ」
髪を掻き上げ、苛立ちの溜息。コハクはまだダメージが抜けていない。
そんな中。
「んじゃ、決定!!」
と、メノウが明るく〆る。
「ちょうど夏休みだしさ!家族で小旅行もいいよな!」
その提案に、ヒスイも双子兄弟も大喜びだ。
目的地は――食の先進国『コーパル』
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