一泊二日の小旅行。


日々多忙なトパーズの都合で、移動には魔法陣を使うことになった。

コスモクロアに極秘開設されたという魔法陣へ向かう道すがら。

「旅行なのに直通魔法陣かよ。つまんねーの」
アイボリーが口を尖らせる。
船、汽車、神獣・・・乗り物での移動を期待していたのだ。
「死ぬほど長い休みがあるのは、ガキだけだ」
容赦なく言い放つトパーズ。
社会人的には尤もな意見だ。
「ま、急だったし、仕方ないちゃ、仕方ないよな」と、メノウ。
今度俺がどっか連れてってやるからさ〜と、可愛い孫の機嫌を取りながら、コハクに話し掛けた。
「な、お前、気付いた?」
「・・・何にですか?」
「『コーパル』だよ」
「・・・・・・」
あえて口を閉ざす。その反応から、どうやら気付いているらしいが、答える気はないようだ。
「お父さん?何の話?」ヒスイが話題に食い付くと。
メノウは悪戯に笑い、コハクに向け、話を続けた。
「俺がお前に“コハク”って名前つけたろ?お前のイメージに合った石から引用したワケだけど――」
『コーパル』もまた、石の名称として存在するらしい。
「コーパルはさ、コハクによく似た石でさ。コハクの代用品として使われることもあるんだよ」
「お兄ちゃんの・・・代わり・・・」
ヒスイが感慨深げに呟く。
まさにメノウが伝えたかったのは、それで。
コハクの役割を奪う可能性のある、国。
「コーパルかぁ・・・偶然にしちゃ、出来過ぎだよなぁ?」
コハクに視線を遣りつつ、ニヤリ、だ。
対する、コハク、心の声。


(作者の陰謀を感じる・・・)※その通りです※







――出発から一時間と掛からず、一行は『コーパル』に到着した。

と、いっても。
そこは一面、真っ白な玉砂利が敷き詰められた広場だった。
周囲には、草も木も・・・とにかく何もない。
地熱が関係しているのか、玉砂利の隙間からほんのりと湯気が立っている。
「わ・・・ご飯粒みたいだね!」
「食べられませんよ?お母さん」
浮かれる母ヒスイに、息子マーキュリーが諭す。


「ここからは徒歩だ」


トパーズが示した先には、広い運河。そして、超巨大建造物がひとつ。
丸みのある円錐形をしており、全体が白い煉瓦造りになっている。
正面の跳ね橋が光沢のある黒色をしていることもあり・・・
「!!おにぎりみたいっ!!」と、ヒスイ。
「マジだ!面白れぇ!」と、アイボリー。
誰しもが海苔付きおむすびを連想する・・・そんな風景だった。


トパーズが門番に通行手形らしき書類を見せると、黒い跳ね橋が降ろされた。
「国と認められてはいるが、実態は企業のようなものだ」
トパーズの説明によると、建物の内部は五階層に分かれており。


一階層:観光、商品販売エリア、宿泊施設{外部の人間に向けたエリア}

二階層:国民の居住区。{研究、販売、サービスに関わる者とその家族のエリア}

三階層:役所{他国との交渉などもここで行われる}

四階層:工場

五階層:研究施設


「ヒスイ、手を出せ」
「うん」
犬の“お手”のようなノリで、差し出されたトパーズの手に手を乗せるヒスイ。
次の瞬間、トパーズが呪文を唱えた。
「!?」
一瞬の発光。手首に何かが巻き付いた感触があったが、目には見えない。
それは――トパーズと繋がる、不可視の手錠だった。
「拾い食い、及び、迷子トラブル回避のため」と、トパーズは言うが。
それだけではないのは、明らかだった。
「ここでは、オレから離れるな、いいな?」
トパーズはヒスイの顎を掴み、そう言い聞かせた。

いつもなら、コハクが黙っていない場面だが・・・

コハクは、入国の際に受け取った観光ガイド冊子を熱心に読み込んでいた。
すると、メノウが下から覗き込み。
「お前、何か企んでるだろ」
「いえ、別に?」
「んで、どうすんの?これから」
メノウが尋ねると、コハクは笑顔で。
「僕は工場見学に行ってきます。“敵”を知らなければ始まりませんから」
「見学じゃ済まないんじゃないの?研究員になりすまして、技術盗むくらいはしそうじゃん」
メノウの言葉をコハクは笑顔のままスルーし。更なる笑顔でこう続けた。
「ヒスイはどうせ、トパーズにべったりでしょうし。しばらく僕の出番はないでしょう」
それはまあ、夜、取り返せば済む話ですけど〜と、付け加え。
ははは!爽やかな笑い声を響かせる。
脈絡があるようで、ない。
父親のその姿に、アイボリーもマーキュリーも只ならぬものを感じ、怯えている。
「メノウ様は、あーくんとまーくんをお願いしますね。それでは、後ほど」
「あー・・・やっぱこうなるかー・・・」
メノウは苦笑いで肩を竦め、コハクを見送った。







‖目次へ‖‖前へ‖‖次へ‖