赤い屋根の屋敷。門前。
ヒスイは、泣いてはいなかった。
「別に・・・わかってたことだし」
強がりか、励ましか、少々口を尖らせ、呟く。
親子の関係はこれまで数えきれないくらい否定されてきた。
ただ、自分が諦められずにいただけで。
(今更、落ち込んだってしょうがないもん)
「ただいまっ!」玄関で声をあげる。
いつもならコハクの「おかえり」、けれども今日は。
「おかえりっ!ヒスイっ!」
ジストがお迎え役だった。
「お兄ちゃん・・・まだ帰ってないの?」
ヒスイの表情が曇る。コハクによるおかえりのキスは必須なのだ。
「あっ!でもきっともうすぐ帰ってくるよっ!!」
ヒスイを元気づけようと明るく振る舞うジスト。
「そうだっ!ヒスイ、ホットケーキ食べる?」
「ホットケーキ?」
言われてみれば、キッチンの方から甘い香り。
「お兄ちゃんいないのに、なんで??」
「アクアが焼いたんだ」
「え?アクアが?」
キッチンにて。
(すごい・・・ちゃんと焼けてる・・・)
まんまるキツネ色の出来に、ヒスイも目を丸くする。
角切りバターとハチミツで「「「いただきます」」」
ヒスイ、ジスト、アクア、親子兄妹3人で、2時間遅れのおやつタイムだ。
「うん、おいしい」
ヒスイは5歳の娘が作ったホットケーキを頬張った。
それから、ジストに注がれた牛乳を飲んで一息・・・とはいかなかった。
アヒル柄のコップにヒスイが口を付けた瞬間、トパーズが帰ってきたのだ。
無言で出入りするのはトパーズだけなのですぐにわかった。
「あっ!兄ちゃんだっ!!」
迎えのため、早速ジストが立ち上がる、と。
ヒスイが続けて席を立った。
ホットケーキは食べかけ、牛乳はまだ飲んでもいなかったが。
「ヒスイっ!?」
ジストより先にキッチンを飛び出し、階段を駆け上り、バタンッ!!
コハクの部屋へ逃げ込んだ。
(私っ!何やってるの!?)
コハクのベッドに潜り込み、頭を抱える。
「絶対、不自然だわ」
体が勝手に・・・は言い訳で。
「これじゃ、まるでさっきのこと気にしてるみたいじゃない」
そんなつもりはなくても、どこか気まずく、トパーズにどう接していいかわからない。
今頃ジストが心配しているかもしれない・・・そう思っても、キッチンに戻る気にはなれなかった。
「お兄ちゃん・・・早く帰ってこないかな」
コハク&オニキスのスーツ組は。
新たに増設されたペンデローク支部で、午後から入社試験のようなものを受けた。
コハク、オニキス、それぞれ別の思惑はあれど、一日目は何事もなく終了した。
「ああ、もうこんな時間だ」
ヒスイがお腹を空かせている、と、腕時計を見たコハクは落ち着きなく。
「僕、会社勤めって向いてないと思うんですよね〜・・・家のことが気になって仕方がないから。さっさと上層部を潰すしか・・・」
飛んでも帰れるが、時間節約のため、オニキス宅にある魔法陣を使う。
これならば、屋敷まで一瞬で移動できる。
「ちょっと待って、パパ」
いそいそと帰路に就くコハクをスピネルが呼び止めた。
「ん?」
「ママの事なんだけど・・・」
スピネルは理事長室での出来事を簡略的に話した。
「なるほどね」
母親として奮闘しても、ほとんど空回り。
恋愛感情があるかぎり、トパーズがヒスイを母親と認めることはない。
「ひょっとしたら、家で兄貴と気まずくなってるかもしれないから」
スピネルが言うと、コハクは苦笑いを浮かべ。
「まあ、そうだろうね」
赤い屋根の屋敷。
「ヒスイ、ただいま」
裏口から走り込み、リビングへ直行するコハク。
リビングにはジストとアクア、ヒスイとトパーズの姿はない。
【ジストの証言】
「なんか、兄ちゃん帰ってきたら急に2階に行っちゃって」
【アクアの証言】
「トパ兄にいじめられたんだよ〜。だからにげたの〜」
日中はリビング、夜は夫婦のベッドルームにいるので個人の部屋はほとんど使っていないのだが、今夜ヒスイは珍しくコハクの部屋で枕を抱えていた。
「ヒスイ、遅くなってごめんね」
不貞腐れ気味のヒスイを覗き込み。
「お腹空いてない?何か作ろうか?」
「ううん、さっきアクアに作ってもらった」
「アクアに?」
(5歳の娘に作ってもらったって・・・今日も可愛いなぁ・・・)
早くも親子逆転現象・・・思わず笑いそうになるが、堪え。
「学校で何かあった?」
口下手なヒスイがうまく説明できないことは承知の上で、一応聞いてみる。
「大したことじゃ・・・」
コハクに嘘は通用しない。ヒスイは困った顔で俯いた。
「そうだ。ヒスイにお土産があるんだ」
「お土産?」
「はい、開けてごらん?」
受け取ったのは長方形の小箱。
プレゼント用のラッピングがしてある。
包みを開けると、コハクの瞳と同じ菫色の・・・
「蝋燭?」
「アロマキャンドル」と、コハクは言った。
3個入りのうち1個を取り出し、コハクが火を灯すと、ラベンダーの香りが室内に広がった。
その香りは、心を落ち着かせ、眠りを誘うものである。
「いい匂いだね」
ヒスイの表情が和む。期待していた効果を発揮しそうだ。
コハクは笑顔で頷きながら。
(今夜はしっかり眠ってもらわないと・・・でもその前に)
「お兄ちゃん?」
コハクの指がヒスイの制服のリボンを解いた。
「・・・忘れさせてあげる」
シャツのボタンを次々と外す・・・ヒスイは抵抗しなかった。
ベッドの上で膝立ちになるヒスイ。
床下には、制服やらYシャツやらネクタイやらが無造作に落ちていた。
「ヒスイ・・・」
背後からヒスイを抱きしめたコハクが、顔を傾け、唇を寄せる。
対するヒスイは精一杯の斜め上向きでキスに応えた。
「ん・・・」
そのまま、コハクの指が陰部に触れると。
「・・・んっ!」
びくっ・・・ヒスイは小さく震え、コハクから唇を離そうとした。
器用な方ではないので、快感が分散されると困惑してしまうのだ。が。
逃がしてはもらえず、再び唇が塞がれる。
「ん・・・ぅ」
続けてコハクの舌が口内に侵入した。
ヒスイの舌は抵抗する間もなく掴まり。
「はぁ、はぁっ・・・はぁ」
乱れる息。股間の暗がりを弄られながら、コハクと舌を絡め、上も下も快感を受け入れようと必死だ。
くちゅくちゅくちゅ・・・
どちらで鳴っているものなのか判別できないまま、股間に差し込まれたコハクの手のひらに愛液の雫を落とすヒスイ。
「んんッ!」
割れ目を優しく撫でられる度、腰が沈みそうになるが、それはコハクが許さず。
「ん・・・ッ!」
強く唇を重ねたまま、濡れた手のひらで何度も股間を持ち上げられた。
そしてついに。
コハクの指先が内部の肉に触れ。
膣壁への愛撫が始まった。
「んくッ!!」
一方で激しいキス・・・息を吸うこともままならない。
理性も希薄になり、追い詰められた興奮で、コハクの舌を噛んでしまいそうになる。
「んっ、んっ、ん・・・」
コハクの指の動きに合わせて、ヒスイが腰を揺らす・・・
より深い快感を求める淫らな腰使いだ。
唇を解放し、コハクが囁いた。
「そう、その調子だよ」
(今は何も考えずに、僕の愛を体で感じていればいい)
「あ・・・はぁ・・・おにいちゃ・・・ん」
引き続き、背後から両手で胸を掴まれ、左右の小さな膨らみを濡れた手のひらでたっぷりと揉まれる。
「あ・・・んッ」
これはこれで天にも昇る気持ちであるが・・・下は放置。
突然お役御免となり、寂しさが募る。
構って欲しいと訴える愛液が、太股から膝まで大量に伝っていくのが自分でもわかった。
「うっ・・・ぅ・・・」
偏った快感に涙目で呻く。
やっぱり今夜も焦らされてしまうのだ。
「何が欲しい?ヒスイ」
コハクが言った。
横からヒスイの乳首を舐めて。
「ヒスイの欲しいものをあげるよ」
拳銃で脅すように、ヒスイの小さな背中に硬化したペニスを突き付けた。
「えうっ・・・おにいちゃ・・・」
細いヒスイの手首を掴み、耳元に唇を寄せ。
「言って。何が欲しいのか」
口調は穏やか、しかし、内容は鬼畜。
「ちゃんと言えるまで、おあずけだよ」と。
ツンツン、尖った先でヒスイの入口を刺激する。
「あッ・・・あ・・・!!」
入りそうで、入らない。
ぷちゅっ、ぷちゅっ・・・ヒスイの股間で微かな粘着音が鳴り続いた。
「お・・・おにいちゃぁ〜・・・」
ヒスイはいつも以上に頬を紅潮させ、今一番欲しいものを告げた。
「あ・・・」
膝立ちも限界で。ヒスイはへたり込み、上半身をベッドに伏した。
それでも穴だけはしっかりとコハクに向けている可愛い雌だ。
コハクは、ヒスイの腰を抱きかかえた。
「7時間ぶり、だね」
優しく笑いながら、ペニスで膣肉を掻き分ける。
「あ・・・ぁあんッ!!」
本日2度目の交わりだ。
日夜頻繁に訪れる夫のペニスを悦んで、膣内が熱くざわめく。
「あぁ・・・ッ!!」
コハクの鉾先がほんの少し膣壁を擦っただけで、あまりの気持ち良さに身震いする。
このまま奥を突かれたら、一度でイッてしまう。
そんな状態のヒスイに。
「昼は無理矢理イカせちゃったから・・・夜はゆっくり・・・ね?」
コハクは慎重に腰を動かし、ヒスイが耐えられるギリギリの速度で、抜き差しを繰り返した。
「あうッ!あぁッ!!あッ!あ!」
ヒスイはシーツを掻き毟りながら、昼の何倍も長くコハクと繋がる悦びに浸った。
「あ・・・ぁ・・・おにい・・・ちゃ・・・」
「・・・・・・」
裏庭で喫煙中の男がひとり・・・トパーズだ。
もうずいぶんと長いことそこにいる。
設置された灰皿には吸い殻が山になっており、苛立ちの程を窺わせた。
「おい、おい、ちょっと吸い過ぎだろ。悔しいのもわかるけどさ」
明るく声をかけたのは祖父メノウ。こういう場面に大抵現れる。
「ここからよく見えるもんなぁ〜・・・コハクの部屋」と、上を向き。
「お〜・・・今夜も見事なヤラレっぷりだ」
窓際で喘がされている娘を見て笑う。
「でも、ま、しばらく見納めかもしんないよ?」
悪戯な笑いで、意味深なセリフ。
メノウが背にした月は妙な赤味を帯びて見えた。
少し邪悪な感じさえして。
「・・・・・・」
何か企んでいるのかもしれないと思いながらも、巻き込まれるのは面倒なので、トパーズはあえて聞き流した。
「ジストが心配してる。ヒスイとケンカでもしたんじゃないかって」
「・・・あいつが勝手に逃げただけだ」
「ふぅ〜ん、そんでお前が追っかけてきたワケだ」
「・・・・・・」
「見つけたら見つけたで、コハクとヤってるし、やんなってくるよな」
「ジジイ、喋りが過ぎるぞ」トパーズが睨む。すると。
メノウはぴたりと話を止め、最後に一言。恋愛の極意を伝授した。
「押してもダメなら引いてみろ、じゃん?」
その頃、コハクの部屋では。
「うん、よく寝てる」
コハクの精液はヒスイにとって快眠の作用もあるらしく、中出しセックスの後は本当によく眠る。
アロマキャンドルの相乗効果もあってか、ご機嫌な寝顔だ。
「さて、今後に備えてやっておかないと」と、コハクが手にしているのは・・・
黒い羽根ペン、一本。
「どこにしようかな」
うつ伏せで眠るヒスイの全身を眺める。
「・・・よし、ここにしよう」
もものてっぺん。
少女ちっくで可愛らしいお尻の右側・・・小高い場所にペン先をつける。
1時間以上かけて、コハクはそこに複雑な紋様を描き込んだ。
「秘技・・・っていうか、外法なんだけど。これなら確実にヒスイの身を守れる」
完成した“それ”は、ヒスイの肌に吸い込まれるように消え、後には何も残らなかった。
「効果は3ケ月。それだけあれば片が付く」
(“これ”の出番がないことを祈るけど)
「・・・愛してるよ、ヒスイ」
キミを傷つける者は許さない。
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