「まあ、座って」
コハクが着席を勧めた。
「ああ、そうさせてもらう」
シトリンが椅子に腰掛ける・・・と、ぐう〜っ・・・お腹が鳴った。
「む・・・こ、これは」
不覚とばかりに照れるシトリン。
「くすっ。軽く何か食べる?」
ラズベリーのタルトがあるよ、と、コハクが戸棚を開けた。
「トパーズが作ったんだ」
「兄上が?」
「そうそう、結構マメなんだよね」
トパーズは、多忙なスケジュールの中でも、コハクと競うようにしてお菓子作りの腕を磨いている。
それはもちろんヒスイを餌付けするためだ。
ヒスイは割と簡単に食べ物で釣れるということが最近わかってきたらしい。
(兄上・・・頑張っているのだな)
「・・・うん、美味い」
トパーズの姿を思い浮かべながら、男の下心が詰まったタルトの味を堪能するシトリンだった。



「2年ほど前の話だそうだ」
ハーブティーを飲みながらシトリンが再び話し出した。
どこかで聞いたような話だが、エルフの住処で原因不明の病が流行ったのだという。
「エルフが病に?珍しいね」
エルフは人間よりも丈夫な種族であり、滅多なことで病に倒れたりはしないのだ。
「かなりの騒ぎになっただろうね」
「ああ、そこからがどうも胡散臭い話なんだが・・・“あれ”を身につけると病気が治るとか、感染を防げるとかでな」
実際それで救われた者もいるらしく、普及に時間はかからなかったという。
今やお守りとして、エルフ族の老若男女、誰もが身に付けているらしい。
「へぇ・・・」と、コハク。
続けて、エルフ達はそれをどこで手に入れたのか質問した。
「教会だ」と、シトリンの回答。
そこで、石をアクセサリーとして加工したものを無料配布しているとのこと。
「ミサに行けば貰えるそうだぞ」
「ミサか・・・エルフは信心深いからねぇ」と、コハクは苦笑し。
「教会の関係者には会えたの?」
「いや、話に聞いただけだ」
シトリンは猫又の変身能力によりエルフへと姿を変え、情報収集に励んだのだ。
「何でも、教会の司祭はダークエルフの青年だそうだ」
「・・・なるほどね」
ダークエルフの青年=ヒスイが遺跡で出会った人物とすれば。
(“お守り”はアンデット商会製と考えていいだろう)
「ところでオニキスは?」
「オニキス殿は“親石”を見つけると言ってエルフの住処を離れたが・・・」
そのままシトリンがコハクに尋ねた。
「“親石”とは何だ?」
「ああ・・・それはね」コハクが説く。
「アクセサリーに使われている石はすべてひとつの大きな石から削り出されたものなんだ」
大きな石=親石である、と。
「あの石は魔石でね、微量だけど魔力を喰らう。しかもそれを消化してしまうのではなく、蓄える性質がある」
削り出された子石が喰った魔力は、本体ともいうべき親石に蓄積される仕組みになっている。
煉瓦造りの町に住むエルフ達は欺かれ、知らず知らずのうちに魔力を提供していたのだ。
「で、さらにそれを増幅させる魔術を施して、魔道具の量産に使用している可能性が高い」
オニキスが親石を押さえれば、アンデット商会の主要な生産ラインを止められる。
「ただ、そのタイミングがね」
アンデット商会が100%敵ならば問題はないが・・・
(メノウ様がいるからなぁ・・・)




その頃、オニキスは・・・親石を探し続けていた。

(親石と子石はそう遠く離せない筈だが・・・)
商売の要となる代物だけに厳重に保管されていると思われる。
在り処を突き止めるには時間がかかりそうだった。
親石に近付くと熱を発する性質の子石を手掛かりに、森の中を歩く。
「・・・・・・」(この近くか・・・)
手に握った指輪の石が熱を持ち始め、オニキスが意識を澄ました時だった。


「よっ!」


聞き慣れたセリフに振り向く、が。
「・・・・・・」
そこにはスーツ+眼鏡のサラリーマン。
オニキスは、自分と同じくらいの年齢に見える青年に対し、慎重な口調で言った。
「・・・メノウ殿か?」
「そ、子供の姿じゃナメられるからさ、商談がある時はこのカッコしてるんだよ」
「・・・アンデット商会か」
「ま、そゆこと」
メノウは大人顔でにっこりと笑い、さらりと言った。
「この先に行かれると困るんだよね。悪いけど引き返してくんない?」
「・・・ああ、そうしよう」
“魔女の遺言”に関係しているのだろうと、オニキスはその場で探索を打ち切った。
全面的にメノウを信頼しているからこその決断・・・だが。
「グロッシュラーにごっそり武器売りつけてやんないとな」と、メノウ。
「武器商って儲かるよなぁ」森に明るい笑い声が響く。
「・・・その武器でどれだけの人間が傷つくと思っている」
オニキスが言うと、メノウはニヤリと口元を歪ませ。
「さぁ、どうだろうな」
それにしてもさぁ〜と、メノウの話が続く。
「王サマが産業スパイ?」
オニキスもアンデット商会の社員に扮しているのだ。
それを指摘され、からかわれる。
「・・・・・・」
(メノウ殿が何を考えているかわからんが・・・)
とりあえずここは。
「・・・大きなお世話だ」



「あはは!んじゃな!」
オニキスと別れ、ひとり森を歩くメノウ。
陽の光は生い茂る木々の葉に遮られ、森の中は薄暗い。
「戦争か」
遠い空を仰ぎ、メノウは魔女の言葉を反芻した。
「・・・己の利欲だって?」前髪を掻き上げ、笑う。


「子供の遊びだろ」


目には目を。歯には歯を。


「遊びには遊びを。ってね」




同じ頃・・・赤い屋根の屋敷、リビングでは。
ジストがイケナイ夢を見ていた。
「ヒスイ!?どうしたの!?」
絨毯の上にヒスイが倒れている。
ジストが抱き起こすと、腕の中で、はぁはぁ・・・熱っぽい息を吐いた。
頬がほんのりと赤い。
「くるしいの・・・ここが・・・こんなになっちゃって・・・」
「え・・・?」
ジストの目の前で脚を開くヒスイ。
潤んだ女性器を見せつけ、ジストを誘う。
夢だけに、いきなり裸だ。
「ね・・・ここ・・・ジストの・・・で・・・ぐちゃぐちゃ・・・して?」
甘く耳をくすぐるヒスイの声。
浮かべる微笑みは魔性のもので。
現実のヒスイはこんな笑い方などしない。
「だめだよっ・・・そんなコトしたら・・・」
夢ならではの急展開に戸惑いながらも、自制心を働かせるジスト。
「大丈夫・・・できるよ」
夢製ヒスイの誘惑は続く。
「繋がるのなんてカンタンなんだから」
「・・・っ!!」
確かにそうかもしれない。
ジストは唇を噛み、赤い顔で俯いた。
ヒスイの穴に差し込むものは、とっくに完成しているのだ。
「でもオレっ・・・」ジストは躊躇い、抗った。
そこに・・・


「お前ができないなら、オレがやってやる」


「兄ちゃんっ!?」
突然、トパーズが乱入してきた。
「どけ」
ジストを押しのけヒスイの上に乗る。
トパーズは、冷やかながらも色めいた視線をヒスイの陰部に注いだ。
「ずいぶんと飢えてるな。口から涎が垂れてるぞ?」
言ったと同時に、膣口を指で大きく拡げ、そこから中に指を入れ。
「うぐ・・・ッ!!」
ビクンと体を震わせたヒスイの内なる粘膜を引っ掻く。
「あく・・・ッ!んッ!んんッ!!」
ヒスイの穴はペニスを挿入する前から、ぐちゃぐちゃと淫猥に鳴り出した。
「んッ・・・んふぅ・・・うッ・・・くッ・・・」
トパーズの指と一緒に、ヒスイの腰が踊る。
「あッ・・・いッ・・・あッ、あッ・・・」
ヒスイは弄られることに夢中になり、その快感に歓喜しながら、美しく喉を反らせた。


(見とれてる場合じゃないっ!!)


・・・が、ジストの瞳にはどんなヒスイも綺麗に映るのだ。
もしかしたら、強姦されている姿さえ、美しいと感じてしまうかもしれない。
そう思ったら、夢の中でも背筋が寒くなった。
(早く兄ちゃんを止めなきゃ・・・っ!!)
「兄ちゃん!!やめ・・・っ!?」
(・・・え!?実体がない!?)
それはまるで立体映像のように。
見えるけれど、触れない。掴めない。体当たりをしようにもすり抜けてしまうのだ。
なにせ夢なので不安定なのも仕方がないが、これでは・・・止めようがない。


「あッ・・・はぁッ・・・んぁッ・・」


愛らしい童顔を上気させ、牙を剥き出し喘ぐヒスイ。
下方の口は主食を求め、一層垂涎していた。
「・・・欲しいか?ならくれてやる」
スーツのズボンを下ろし、トパーズがペニスを出した。
「ホラ、気が済むまでしゃぶれ」
「あ・・・トパ・・・」
ヒスイの両脚を限界まで開かせ、中心の濡れた窪みを一突き。
「はうんッ!!」
「ヒスイっ!!」
慌ててヒスイに手を伸ばすジストだったが、やはり触れられず。
「あ・・・・・・はぁ・・・」
トパーズのペニスが挿入されるとすぐ、ヒスイの声が変わった。
「ん・・・ぁ・・・あん・・・」
飢えて暴れる獣が餌を得た時のように、脇目も振らずペニスを食い締める。
「・・・あ、ああんッ・・・あんッ・・・あ・・・んッ」


(この声、知ってる)


ヒスイがコハクのペニスを味わっている時の声だ。
夫婦のエッチを覗きにいくと、決まって聞こえる悦びの声。
(なのに、兄ちゃんと・・・)
夢なら早く醒めて!!と、切に願う。
しかし無情にも・・・行為は続行された。
「あッ!あッ!あッ、あ、ああッ!!」
トパーズが腰を叩きつける度、ヒスイの両脚が跳ね上がり。
「うッ・・・うぅんッ!!」
激しく擦れ合う結合部から夥しく流れ出すものが、絨毯を汚していく。
「もうやめろよっ!!」ジストが怒鳴ると。
トパーズは腰の動きを止めずに、ジストを一瞥・・・そして言った。


「ガキはそこで自分のでもイジってろ」




こちら、現実世界のジスト。

「うぅ〜・・・ん・・・にいちゃ・・・やめ・・・そんなんしたら・・・ヒスイが・・・」
絨毯の上で悶え苦しんでいる。顔が真っ赤だ。
「にいちゃん・・・だめだよっ・・・ああっ!!」
「・・・・・・」
ネクタイを緩めながら見下ろすトパーズ。
ジストが夢にうなされる様をしばらく眺めていたのだが、あまりにもアヤシイ寝言を連発するので、ついに上から踏みつけた。
「うわっ!!」
踏まれたジストが飛び起きる・・・と、開口一番。
「え?兄ちゃん???ズボンはいてる・・・」
「・・・・・・」
ズボンは、はいていて当たり前のものだ。
確実に、ジストのエロ夢に巻き込まれている。
(この馬鹿・・・オレに何させてんだ・・・)
出演料でも取ってやろうかと思う。
ジストは茫然としたまま、まだ夢と現実がごっちゃになっているようだった。
ベシッ!トパーズに頭を叩かれ、やっと現実を認識する。
「・・・あれ?ヒスイは?」
席を外すように言われ、リビングに戻った。
すると、ヒスイはもう眠っていて。
ジストは2mの距離を保ちつつ、横になったのだ。ところが。
「ヒスイはいなかった」と、トパーズ。
トパーズがリビングに顔を出した時には、ジストがひとりで寝転がっていたという。
「え?そうなの??」
先に目を覚まし、どこかへ移動したのか・・・


(ヒスイ、どこ行っちゃったんだろ???)





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