翌日。ヒスイは・・・

(ね・・・ねむい・・・)
エッチで夜更かしすると、決まってこうなる。
午後の授業は尚更。瞼がくっついて開かない。
(今日こそ・・・頑張らなくちゃ・・・なのに・・・)
もともと授業などロクに聞いていないが、いつも以上に耳に入らない。
悪魔リストを作ろうにも、文字が思うように書けなかった。
(ねむくて・・・しにそう・・・たすけて・・・おにいちゃん・・・)
昨夜は二人でたっぷり汗をかいて。そのあと一緒にお風呂。
イチャイチヤしているうちに、夜が明けてしまったのだ。
昨夜が天国なら、今はまさに地獄だ。
(ヒスイやばいよっ!!先生が睨んでる・・・っ!!)と、隣の席でハラハラしているジスト。
本格的にヒスイが眠り出しそうだったので、見兼ねて席を立ち。
ヒスイの腕を掴んで言った。


「先生っ!すいませんっ!具合悪そうなんで、保健室に連れていきますっ!!」


「んぁ・・・ジスト?わっ!?」
ヒスイを教室の外に連れ出し、軽々とお姫様だっこ。で、走り出す。
「ちょっ・・・ジス・・・」
自分で歩ける!と、ヒスイが主張するも・・・
「いいから!いいから!ほらっ!もうすぐ保健室だよ」
1階の保健室まで、本当にあっという間だった。
保健医を説き伏せ、ジストはヒスイをベッドに寝かせた。
「ここで寝ててっ!放課後迎えにくるか・・・ら?ヒスイ?」
ジストのシャツを掴むヒスイ。
「ジスト、昨日帰ってこなかったけど、どうしてたの?」
27歳の男が一晩外泊したところで、騒ぎにはならないが。
今朝は別々に登校・・・ヒスイはそれを気にかけていたらしく、ベッドからじっとジストを見上げた。
「あ・・・サルファーんとこ行ってて」と、ジスト。
それは本当だった。トパーズに放置され、どうしようか迷った挙句、だが。
「そっか。あ!あのね、りんの玉使ってみたよ!」
ヒスイは無邪気な笑顔で、大人のオモチャ使用の報告をした。
「そっ・・・かぁ・・・」
(父ちゃんとエッチしたんだ・・・昨日も・・・)
チクリとした心の痛みを奥底へと押し込め。
「どうだったっ!?」と、明るい口調で尋ねる。
「まだちょっと慣れないけど・・・気持ち良かったよ。ありがと、ジスト」
「うんっ!また買いに行こっ!」ジストは元気いっぱいに言った。すると。
「でも買って貰ってばっかりじゃ・・・」と、ヒスイ。
これもまた、親のプライド・・・というものかもしれない。珍しく、遠慮する。
「へーき!へーき!オレ、ヒスイのこと養えるくらい稼いでるからっ!」
「え???」(養える??なんで??)
「あ・・・」
願望が思わず口に出てしまい、赤面するジスト。
「じゃ、またっ!!」と、走って逃げる。



渡り廊下から空を見ると、どんより、曇っていた。
「さっきまで晴れてたのに・・・なんか、雨降りそう」
額の汗を拭いながら呟くジスト。その時。


「ジスト様・・・っ!!」


「わっ・・・タンジェ!?」
猫耳メガネ娘がジストの視界に飛び込んできた。
「サルファーに会いませんでしたこと!?」
「えっ!?サルファーが来てんの!?なんで?」
体力に自信のあるタンジェにしては珍しく、息を切らして。
「アマデウスに・・・言ってやる・・・と・・・」
「へ?言ってやる?何を??」


『あいつが言えないなら、代わりに僕が言ってやるよ』


「・・・と。わたくし、よくわかりませんけれど」
サルファーのセリフを復唱し、難しい顔をするタンジェ。更に・・・


『あいつは一度こっぴどくフラれた方がいいんだよ』


サルファーが玄関で不吉なことを言い残したため、心配になり、後を追いかけてきたのだという。
「フラれ?え?それってオレのこと・・・?」
ジストは・・・ポカンとしている。
とにかくサルファーが校内にいることは間違いないのだ。
「ジスト様・・・わたくし・・・」
ジストよりタンジェの方が気を揉んでいる様子で。
「サルファーを探して参りますわ!!!」




場面は変わり。こちら、ヒスイ。

保健室のベッドで眠っていた筈なのだが・・・
(ここ・・・どこ?)
場所は、体育倉庫。
体操マットの上で、ヒスイは目を覚ました。
「なにこれ・・・」
知らぬ間に、拉致されたようだ。
学ランの集団に囲まれ、逃げ道はない。
学ラン・・・といえば、応援団で。そのリーダーはコッパーだ。
「目が覚めた?おチビちゃん」と、コッパー。
「やっぱり、君って人間じゃないと思うんだよね」
一歩前に出て、ヒスイの顔を覗き込む。
「な・・・なに言って・・・私は人間・・・」
そう言ったヒスイの目が露骨に泳ぐ・・・誰が見ても嘘と見抜くのは容易かった。
それでも認めようとしないヒスイだったが。
団員数名に取り押さえられ。
ひとりにベストを脱がされたかと思うと、別の手でリボンを解かれ。
ブラウスのボタンを外され・・・そして、羽交い締め。
「ちょ・・・やめ・・・!!」
本日のブラジャーの色は黒。赤い薔薇の刺繍が施された、ゴージャスかつセクシーなデザインだ。
それを、その場にいた全員にお披露目した瞬間に、パシャリ!カメラのシャッターが切られた。
「え・・・?」(何・・・今の・・・)
集団の中には新聞部もいるらしく、一台のカメラをヒスイに向けている。
「エッチな撮影会なんていいんじゃない?」と、再びコッパー。
完全に脅しだ。昨日とは随分印象が違う。
「・・・・・・」
(そういえば、人間じゃないんだっけ・・・)
「なんで・・・こんなことするの?」
「“仲間”を増やしたいの。だから、おチビちゃんも、口を割ってくれない?」
「・・・・・・」
ヒスイが黙ると、次はスカートのホックが外され、チャックが下ろされた。
スカートは落下し、パンツ丸見えだ。
「・・・・・・」
今回の任務に危険はないと聞いていたが。
(なんかちょっと・・・変なことになってきたような・・・)
パシャ!パシャ!連続でシャッターが切られる。下着姿を撮られているのだ。
「早く認めた方が身のためだと思うけど?」
ヒスイを取り押さえている仲間に、コッパーが視線を送る・・・フォーメーションチェンジだ。
「!!なにす・・・やめ・・・!!!」
今度はハチマキで手首を縛られ。数名がかりで、無理矢理両脚を開かれるヒスイ。
「意地悪したい訳じゃないんだよ?友達になりたいと言ったのは本当」
コッパーは、手にばちを持っていた。
太鼓を叩く、太いばち。その先端で、フニフニとヒスイの陰部を弄る。
「あ・・・っ!!やぁ・・・っ!!」
パシャ!パシャ!パシャ!その間も、フラッシュを浴びて。
「・・・っ!!」
貞操の危機、だ。そのうえ、写真を焼き増しされ、学校でバラ撒かれたら。ますます居づらくなる。
観念したヒスイは・・・
「わ・・・たしも・・・きゅ・・・」
カミングアウトしようとした、その時。バンッ!!
体育倉庫の扉を蹴破ったのは・・・サルファーだった。


「・・・その女に用あんだけど」


相変わらず横柄な態度だ。
「見てわからない?こっちも取り込み中」
コッパーも負けじと言い返す。すると。
「ふ〜ん。お前等全員、半吸血鬼だろ」
サルファーは自身が1級のエクソシストであることを告げ、その証明ともいえる十字架を翳して見せた。
「まとめて本国に送り返してやったっていいんだぜ?」




こうしてサルファーは、コッパー率いる学ラン集団を追い払った。
あとには、下着姿のヒスイが残され。
結果的に助かったので、とりあえずお礼を・・・と、ヒスイが口を開く。
「サルファー、ありが・・・」
「お前、バッカじゃね〜の。父さんもいないのに股開いて」
いきなり罵倒され。感謝の気持ちは消滅。
ヒスイは制服を着直し、言った。
「何しにきたのよ」
久々に、睨み合う。と、そこに。
「ヒスイ・・・っ!!」
ジストが駆け込み、事態は急転する。
「・・・ちょうどいいや」
サルファーは睨みを利かせたまま、親指でジストを指し。



「こいつ、お前のこと“好き”なんだってさ」



「え・・・?」
ピカッ・・・雷光に照らされる3人。
ポツポツポツ・・・ザァァァァーッ!!強い雨が降り出した。
まるでサルファーが引き連れてきたような夕立ちだ。
そのサルファーは「用はこれだけ」と、雨の中に消え。
「・・・・・・」「・・・・・・」

雨音と沈黙。

耐え兼ねたジストは、考えがまとまらないまま口を開いた。
「あのさっ・・・今の・・・」
「あ・・・うん」
「サルファーが・・・なんか・・・変なこと言って・・・」
間接的に告白という事態に陥り、心臓がバクバク鳴っている。
一方ヒスイは・・・
「?別に変じゃないと思うけど・・・」
息子に好きと言われれば、嬉しくない訳はない。
(私もちゃんと言った方がいいのかな???)と、いうことで。
「わたしも・・・その・・・好きだし」
「っ!!違うんだ・・・っ!!」
ヒスイの受け答えに、一度は反論したジストだったが。
「あっ!!違わない・・・っ!!」
ヒスイを困らせてはなるまいと、すぐに本心を引っ込めた。
「・・・・・・」(そうだよな・・・)
親子の間で交わされる“好き”は通常ひとつの意味しかない。
この“好き”が、違う意味の“好き”であることを、理解しない、しようとしないヒスイを責められるかと言えば・・・責められないと思う。


「うん、オレ・・・ヒスイのことが好き」


そう、言葉にしたところで。
(この“好き”はヒスイに伝わらない。だったら・・・)
「ヒスイ・・・好き」
「うん」
「ぎゅってしてもいい?」
「うん、まぁ・・・」
ヒスイにOKを貰ってから、その体を両腕で包み込む。
それから、自分と同じ銀髪に顔を埋め・・・
「好き・・・好き・・・大好き・・・」
ずっと我慢していた分、何度も何度も口にして。
「これからも・・・ずっと好き・・・好きだよ」
「あ・・・うん」
母親のヒスイにしてみれば、“好き”なのは、当たり前。
(でも、こういうのって・・・なんかちょっと・・・照れるわね・・・)



「・・・ごめんっ」



散々、実にならない告白をしたあと、ジストはヒスイを突き離した。
「えっ!?ちょっ・・・」
サルファーが壊した扉を神魔法で修復し、ヒスイを中に残したまま、扉を閉める。
「ちょっ・・・ジスト!?」
内側からヒスイが開けようとするが、外側からジストが押さえ。
「お願いっ!!ヒスイ」



「雨がやむまで、開けないで」



ジストが切羽詰まった声で訴える・・・と。
「・・・うん。わかった」
ヒスイはそう言って、扉から離れた。どのみち、外は雨だ。
(どうしたんだろ・・・急に)
この展開に首を傾げながらも、マットの上に座り。
「雨がやむまで、ここにいるよ」
「ありがと・・・ヒスイ」
一言礼を述べ、ジストは振りしきる雨の中へと駆け出していった。






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