エクソシスト教会、食堂。
試験は明日ということで、この日は解散となった。
「今夜はお兄ちゃんがご馳走つくるって!楽しみだね!」と、ヒスイ。
コハクは晩餐の準備のため、この場にはいない。トパーズも弟子のお披露目会をすっぽかし。
家路に就いたのは、保護者のヒスイと双子の3名だけである。
「・・・・・・」「・・・・・・」
ヒスイを間に挟み、双子は言葉を交わさぬまま。
「あれ?まーくん、また背伸びた?」
ヒスイが下から見上げる。
「ほんの少しですよ」
マーキュリーは笑顔で答えたが、すぐにヒスイから視線を逸らした。
「?」(なんだ?今の?まーの奴、感じわり・・・)
アイボリーが横目で睨む・・・が、今は喧嘩をする気力もない。そんなとき。
「あ、そうだ!これ、まーくんにあげる!!」
突然、ヒスイからのプレゼント。右手に持っていた紙袋をマーキュリーに差し出す。
「?ありがとうございます」(クッション???)
受け取ったマーキュリーが首を傾げる一方で。
「!!」(双子なのに、俺にはねーのかよ!!!ヒスイぃぃ!!)
ひとり立ち止まり、悔しさのあまり、両手で髪を掻き毟るアイボリー・・・しかし。
(・・・へっ、一週間前の俺とは違うっての!あとで目にもの見してやるかんな!)
なぜか一発くらった風に、口元を拳で拭い、ニヤリ、不敵に笑う。
「あの・・・お母さん、これは?」
「慣れるまで、結構辛いと思って」
「何が、ですか???」
「お尻が」
「・・・・・・」(お尻?意味がわからない・・・)
思わずクッションを凝視してしまうマーキュリー。
ハートマークとLOVEの文字が入り乱れた柄のチョイスは、ヒスイの勘違いが極まった結果である。
「なぁ、ヒスイ」と、そこでアイボリー。
「うん?何?」と、ヒスイが振り向く。
「俺のドラゴン、産まれた?」
「あっ・・・うん・・・」
一瞬だけ、ヒスイの目が泳ぐ。けれども今回は、アイデアによっぽど自信があるのか、両手を腰に胸を張り。
「明日の朝、連れてくるから!きっとびっくりするよ!!」
それから7時間後の、赤い屋根の屋敷。
夕食時にはトパーズとジストが合流し、家族6名が揃ったが、食後は2組に分かれた。
コハクとマーキュリーは片付けのため、キッチンに残り。
ヒスイ、トパーズ、ジスト、アイボリーは、リビングで寛ぎタイムだ。
暖炉前の絨毯にヒスイが腰を下ろす・・・両隣の、いわば特等席はトパーズとジストが瞬く間に確保していた。
(ちっ・・・トパーズとジストに先越された・・・)
ごく自然に・・・それでいて、この素早さ。さすがに年季が違う。
場所取りに敗れたアイボリーは、暖炉の火を背にして、ヒスイの正面に座った。
「どうだ?」
トパーズがデザートと称してヒスイに見せたのは、ゼリービーンズ。
色とりどり、味もとりどり・・・無論、手作りである。
教会に顔を出さなかった理由はつまり、これだ。
「わ・・・おいしそう・・・だね・・・」
ゼリービーンズの詰まった瓶に、ヒスイはたちまち魅了され。その視線は、もはや釘づけだ。
「ホラ、食え」
まずは一粒、指で摘み、ヒスイに与えるトパーズ。
「あ〜ん」
素直にヒスイが口を開ける。幼い頃からコハクに慣らされているため、他者の手から直接食べることに抵抗がないのだ。
「ふぁ・・・」
一口で、幸せいっぱい〜という顔をするヒスイ。
甘さもヒスイ好みに調節されていて、これならいくらでも食べられそうだ。
一方、こちらも。
「ふっふっふっ・・・」(トパーズだけだと思うなよ!!)
満を持して。アイボリーが声をあげた。
「ヒスイ、食え!!」
「ふぁっ???」
ヒスイは反射的に、アイボリーの方へ顔を向けた。
アイボリーもまた、瓶詰のスイーツを手にしている。
中味は、メレンゲのクッキー・・・勿論、手作りである。
トパーズの下で、料理のスキルを身につけたので、これくらいなら簡単に作れる。
夕食前に自宅のオーブンで焼いたのだ。
確かに、1週間前のアイボリーとは一味違う。
碁石ほどの大きさのクッキーを、ヒスイの口に放り込む・・・と、ぱくり。
「!!食った!!よっしゃぁ!!!」
長年の夢がひとつ叶い、感激するアイボリー。疲労など吹き飛んでしまった。
「ほぃひぃ〜・・・」
うっとりと、ヒスイがコメントを述べる。
見た目こそシンプルだが、さっくり溶けて、癖になる食感なのだ。
トパーズのゼリービーンズと、アイボリーのメレンゲクッキー。
ヒスイは、あっちを向いたりこっちを向いたり。
大忙しだが、どちらも気に入ったらしく、余念がない。
口を開けて待つ、その姿はまるで・・・
親鳥から餌を貰う雛。
・・・だ。
(オレも何か持ってくれば良かったな〜・・・)
出遅れたジストが膝を抱えて、チラリ。餌付けの様子を盗み見る。
(ヒスイ・・・やっぱかわいい・・・)
はぁ。悩ましげな溜息の後・・・
(ほっぺに、ちゅーしたい)
「ほっぺに、ちゅーしたい」
「ぶはっ!!ジスト、心の声、漏れてんぜ!!」と、大笑いするアイボリー。
「・・・へっ?オレ、言っちゃった?」
ジストは顔を赤くして。弁解すべく口をパクパク・・・しかし、フォローの言葉が出てこない。
「・・・・・・」
もぐもぐ、お菓子を食べながら考えるヒスイ。
(ん〜と、こういう時は母親らしく、ビシッ!とケジメをつけるべきよね・・・)
と、いうことで。「だめ」と、一言。
するとアイボリーが。
「ジストかわいそー・・・」と、兄の肩を持った。
当のジストは、焦りに焦って。
「いいって!変なこと言ってごめんなっ!ヒスイ」
「・・・・・・」←待機中の、マーキュリー。
コハクが淹れた紅茶をトレーに乗せ、運んできたのだが・・・この光景に唖然としていた。
(お母さんの餌付けが、そんなに楽しい?)
盛り上がっている兄弟達の輪の中に、入れない。
(入れないんじゃない。入らないんだよ)
「・・・それにしても、あーくん、1週間何してたんだろう・・・」
そうこうしている間に、ヒスイはメレンゲクッキーを完食し。
ゼリービーンズも、残すところあと僅かとなった。
「最後の一粒だ。心して食え」
「ん!!」
食べさせてやると見せかけて・・・ひょいと取り上げるトパーズ。
追ってヒスイが背筋を伸ばし、ぱくっ!トパーズの指に食いつき、ゼリービーンズごと舐めた。
「クク・・・存分に味わえ。オレの指をな」と、トパーズ。
そう言われ、気付いた時には遅かった。
「!?んむっ・・・」
しっかりと顎を掴まれ。ヒスイの口の中でトパーズの指が動き出す。
最後の最後で嵌められたのだ。
「ん・・・んぅぅ!!!」
くちゅくちゅ・・・舌を擦られ、この場に似つかわしくない音が、ヒスイの口から漏れ出した。
「すげ・・・これが大人の餌付けってヤツかよ」
口内愛撫の様子をアイボリーは傍観。ジストは慌てて止めに入った。
「兄ちゃん!だめだって・・・」
「はい、はい、そこまでね〜」
手を叩き、コハクがその場を収める。
「あーくん、明日試験でしょ?早く寝た方がいいんじゃないかな?」
アイボリーを笑顔で追い払い、速やかにヒスイを回収する。
「・・・・・・」「・・・・・・」
そこで、睨み合う、コハクとトパーズ。無言のまま火花を散らす、が。
ジストの抑止力により、今回は、表立った喧嘩にはならなかった。
「わ・・・おにい・・・」
ヒスイを軽々と抱き上げ、階段を上る・・・廊下・・・夫婦の部屋・・・そして、ベッド。
コハクは、洗いたてのシーツの上に、そっとヒスイを寝かせた。
「おにいちゃ?あのね、明日・・・」
えっちの前に、話しておきたいことがあったのだが。
「ん・・・」
コハクの強引な口づけに、声を奪われてしまう。
「は・・・」
熱い息を飲まされ、喉の奥が痺れる・・・
唇が離れる頃には、ヒスイも熱っぽい息しか吐けなくなっていた。
「はぁはぁ・・・あ・・・」
キスで濡れたヒスイの唇に、親指をのせるコハク。
「お・・・にぃ・・・ちゃん?」
ヒスイはゆっくり瞬きをしてコハクを見た。どうすればいいのか、わからないらしい。
コハクは優しく笑いながら、ヒスイと額を重ね、言った。
「ね、ヒスイ――」
「僕の指は舐めてくれないの?」
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