チビドラゴンを囲むは、男子4名。
アイボリー、マーキュリー、コハク、トパーズ。
アイボリーを除く3名は、“チビドラゴン=変身したヒスイ”だということに気付いていた・・・気付いていたが、それをヒスイに悟られてはなるまいと各々が平静を装っていた。
(か・・・可愛いすぎる・・・っ!!!)コハク、再び心の声。
斜めがけしているショルダーバッグは、まだヒスイが幼い頃、コハクがプレゼントしたもので。
タンポポのパッチワークが施された、ハンドメイドである。
(正体、隠す気あるのかな)
笑いを堪えるのが、本当に辛くなってきた。
クールが売りのトパーズでさえ、口元が引き攣っている。
唯一、マーキュリーだけがポーカーフェイスを保っていた。
「・・・・・・」(俺より小せぇし)
産まれたて、とはいえ、想像していたドラゴンと大分違う・・・アイボリーも扱いに困っていた。
「こんなんで、俺、乗せられんの?」
思わずそう呟くと。チビドラゴン=ヒスイは、乗ってみて!とばかりに背を向けた。
結果、こうなる。
「・・・これって、ただのおんぶじゃね?」
そこですかさずコハクが。
「いやいや、カッコイイよ」と、言った。すべてヒスイのためだ。
・・・が、言ったそばから、べちゃり。パワー不足でヒスイが潰れる。
15歳の息子はやっぱり重かったのだ。
「なんか、ダセェ〜・・・」
「!!」(え!?私・・・ダサイの!?)
これでも図鑑を見て随分研究したのだが。
アイボリーの辛口評価に戸惑いを隠せない。
「そんなことないよ、ねぇ」
と、コハク。がっちり、アイボリーの頭を掴む。
顔は笑っているが、目元に影が差していた。
こういう時は、口ごたえ厳禁だ。
(なんなんだよ・・・この空気・・・ドラゴン愛護?)
まさに。ヒスイを守ろうとするあまり、殺気立っているのだ。
「女の子なんだから、優しくしてあげないと、ね?」
コハクが更に念を押す、と。
「雌?こいつ、チ○コないの?」
尻尾を持ち上げ、性器を確認しようとするアイボリー。
そのお尻に、ドカッ!トパーズの蹴りが決まる。
「ってぇ〜・・・何すんだよ・・・!!」
「危なかったね。竜は嫌がるんだ、そういうの」
トパーズの暴力に、コハクが尤もらしい理由をつける・・・絶妙なコンビネーション。
「襲われることもあるから、気を付けてね?」
脅しをかけるのも忘れない。
「モタモタしてると遅刻するぞ」
腕時計に視線を落とし、トパーズが時刻を告げる。
チビドラゴン騒ぎで、すでに20分が経過していたのだ。予定していなかったロスだ。
試験に遅れるなど、論外である。
パートナーのマーキュリーは、いつの間にかいなくなっていた。どうやら、一足先に出発したようだ。
「この際、四の五の言ってらんねー!!行くぜ!!チビドラ!!」
アイボリーも、慌てて屋敷を飛び出す。
ここは当然、ヒスイも続くはずの場面だが・・・
なぜかコハクの前で立ち止まり。上向きで目をつぶっている。
何事かと思えば・・・
(ああ、いってらっしゃいのキスね)
ぷぷっ、ついにコハクが吹き出す。
ヒスイは・・・キス待ちをしていたのだ。
本人にそのつもりはなくても、日々の習慣が露呈してしまっている。
幸い双子が家を出た後なので、心置きなく、唇(?)を重ね。
「これで・・・いいかな?」と、微笑むコハク。
すると、ヒスイは満足したらしく。
ペタペタ廊下を歩いて、玄関から出ていった・・・あくまで自分はドラゴンのつもりで。
「いってらっしゃい」
笑いながら、コハクが手を振る。
(さて、僕もこっそり同行してフォローを・・・)
あの調子では、順風満帆にいくとは思えない。
コハクがソワソワしだしたところで。
トパーズが、肩を掴んだ。
「話がある。ツラ貸せ」
「・・・え?どういうこと?材料がないって」
「在庫切れで手に入らない」
アイボリーの毛染めに使っている魔法薬の原料のひとつが、どこの店にもないという。
「直接、現地に出向くしかない、が」
今は収穫に適した時期ではなく・・・
トパーズが、わざわざこのタイミングで切り出したのを考慮すると。
「ひとりじゃ難しい、とか?」
「そういうことだ」
アイボリーを巡る、不思議な縁。
「まさか、君と組むことになるとはね」と、苦笑いするコハク。
「最高に、不本意だ」
「ははは、僕もだよ」
互いにそうは言っても。秘密裏に外出する機会は今しかない。
「すぐに出掛けるぞ」
「はいはい」(ヒスイ、大丈夫かな〜・・・)
ここが分岐点となり。
それぞれが、それぞれのステージへと進むことになるのだった――
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