一方、連れ去られたアイボリーはというと。

「・・・・・・」(どこだよ、ここは)
モルダバイトの砂漠から、遠く離れた見知らぬ土地。
大きな川の近くに、一人と一匹は着陸した。


レムリアンシードだという竜の外見は、凶暴、そのもので。
見るからに硬そうな鱗を生やし、肢が6本・・・羽根は剣山のようなもので覆われている。
(強そうだけど、こんな竜、見たことねー・・・)
その異質さに、アイボリーが圧倒されていると。
「タラスクス―― と、呼ばれる竜だ。前神の創造物のひとつとでも言っておこうか」と、レム。
インテリめいた口ぶりはそのまま。
「この姿は、嫌いなんだ」
そう言って、すぐ人型へと変化する。
「・・・俺に何の用だよ」
「いやなに、可愛い後輩に、真相を明かそうと思ってね」
「真相?」



事の始まりは、数年前。
人間界に進出してきたベヒモスを、エクソシスト総帥セレナイトが、自身の体内に封じた――
「その時から、対の悪魔に狙われることは、わかっていただろう。まとめて喰ってしまえばいいだけのこと・・・そう考えていたに違いないのに」
「・・・・・・」
(話、ついてけねーんだけど。こいつの言ってること丸暗記しときゃ、あとで役に立つだろ)
アイボリーは大人しくレムの話を聞いていた。
「ところがだよ、彼はなぜかそれをしなかった」
不思議に思い、しばらく傍観していたらしいが。
何年経っても、一向に動きを見せないので。
「それならいっそ、取り戻してしまおうと思った訳だよ。父も痺れを切らしていたしね。計画は、アイボリー君の、麗しの母君に台無しにされてしまったけど」
「う、うるせー・・・ウチの秘密兵器なんだよ!文句あっか!」
「元はと言えば、君が連れてきたせい」
「ひとりで来いなんて、言わなかっただろ」
はぁ。アイボリーは珍しく溜息ひとつ。
「そんで、これからどーすんだよ」
「先が読めなくなってきた。仕切り直すつもりでいたが、引き際のようだ」
「薄情だな、おい、父ちゃんのことはもういいのかよ」
「悪魔なんて、そんなものさ。それより・・・君のところの総帥が“何を考えているか”知りたくなった」
そして・・・レムの口から驚きの発言。
「僕達、手を組まないかい?」



「君の竜に、なってあげるよ」




同じ頃。本の中の監獄に。

「ヒスイ、アレ、持ってきたよ」と、コハクの声が響いた。
「お兄ちゃん!!」
満面の笑みを浮かべたヒスイが駆け寄る。
(今度は夢じゃない・・・)マーキュリー、心の声。
鉄格子の向こうには、はっきりとコハクの姿が見えて。更には・・・
(・・・総帥?)目を疑う顔ぶれだ。
「お兄ちゃん!はやく!はやく!」
ぴょんぴょん飛んで急かすヒスイ。
コハクは、片手で鉄の棒を曲げ、檻の中へ入ってきた。


・・・が、しかし。


「・・・お兄ちゃん、何ソレ」
ヒスイの表情が一気に曇る。
コハクの左手と、セレの右手が、手錠で繋がっているのだ。
「ソレとは酷いね」と、セレ。
「手錠はコハクの意向なのだがね」
しれっとした顔で言う。
「誰のせいだと思ってるんですか」
軽く横目で睨んだあと、コハクはヒスイの肩に手を置き、こう説得した。
「ヒスイ、この人は今――」


「目が離せない、困ったおじさんなんだ」


「だからこうして見張ってないと・・・」
「・・・トイレとか、どうするの?」
口を尖らせ、ヒスイが尋ねる。
「それはまあ、男同士だし。そんなに気にすることは・・・あ」
(まずいな)と、すぐに思う。
ヒスイはなぜかセレを同性愛者扱いしているのだ。かなり根深い勘違いである。
以下、そんなヒスイの心の声。
(セレはホモなのよ!?見られ放題じゃない!!)
「・・・っ!!お兄ちゃんを返して!!」
「!!お母さ・・・」
マーキュリーが止めるより先に、セレに突撃するヒスイ。
握り拳で胸板を叩くも、全くダメージを与えられない・・・
セレはどこか楽しげに、ヒスイの相手をしていた。


「・・・・・・」
黙って見守るコハク。
一刻も早くヒスイに会うため、強行手段に出たが、当然リスクはある。
(この件が片付くまでは、えっちもセレ同伴になっちゃうんだけど・・・)



今は言えない雰囲気だなぁ・・・






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