幻獣会図書室。
「そ、だからさ、念のため・・・をヒスイんとこ向かわせて・・・」
携帯電話で話をしているのは、クーマンヴァージョンのメノウだ。
「あ、そうなの?わかった。んじゃな、トパーズ」
通話を終了した、ちょうどその時。
例の本の黒塗りのページが燃え上がり。コハクが姿を現した。
意識を喪失しているセレを引き摺り、自力で本の中から出てきたのだ。
手錠は、していない。
武器化を解除する際、セレの右手にだけ残し、自身の左手は自由にしたのだ。
ほぼ灰になっているページを見て。
「何やらかしたんだよ」呆れたメノウの声。
「ちょっと急いでいたもので」コハクは笑顔で答え。
「ヒスイは、どうしてます?」早速、この質問だ。
「まーんとこ行くっていうから、送ってやった」と、メノウ。
「・・・・・・」(なんてことだ・・・ああ・・・ヒスイ・・・)
脱力感が半端ない。
ヒスイのエッチな下着姿が見たくて、早急に事を運んだというのに。
ヒスイはもう、ここにはいないのだ。
「・・・・・・」(愛し方が甘かったかな・・・)
3Pのあと、こんなに早く行動を起こすとは正直思っていなかった。
コハクはすぐさま身を翻し。
「僕も後を追います」
「ちょっと待てって、相変わらず過保護だなぁ・・・」
「過保護も愛のひとつです。メノウ様だって、ヒトのこと言えないんじゃないですか?」
「ま、そうだけどさ。大丈夫だって!」
メノウは、クマの手でポンポンとコハクの背中を叩き。
「ヒスイが本気出せば、リヴァイアサンなんかチョロイだろ」
「今まで本気出してないだけでさ!」と。
・・・ダメな親のダメな発言が炸裂する。が。
「そうですけど」コハクもまた、否定しない。
「俺の娘ができない訳がない。たぶん・・・」
「俺の娘にしか、できないことなんだよ」
「・・・って、お前、話聞いてる?」
コハクは、空いた手錠の一方をメノウの左手に嵌めていた。
セレが重しとなり、今度はメノウが自由に動けない。
「お前なぁ、かつての主にこの仕打ちはどうよ?」
「すみません」一応、謝罪はするものの。
コハクは、メノウのクレームをさらっと聞き流し。
「ヒスイは、僕にとって最も大切なものですから」
過保護にもなるでしょう?と、笑って。出口へと向かった。
「それじゃあ、失礼します」
その頃、荒野では。
・・・沈黙が続いていた。主にマーキュリーの。
「・・・・・・」
あんなことや、こんなことが、あったあとだ。
ヒスイとは一緒にいづらいのが本音だが、また二人きりになってしまった。
(・・・仕方がない)
何事もなかったかのように振る舞うと決め、ヒスイを見るマーキュリー。
一方、ヒスイは荒野を眺め・・・
「ところでまーくん、どこ行こうとしてるの???」と、口にした。
「・・・・・・」(もしかして・・・)
もしかしなくても。
ヒスイは、セレを巡るこの状況を全く理解していなかった。
「・・・お母さんは、総帥が今、何の悪魔を封印しているかご存知ですか?」
「知らないけど。それがどうかした?」
目をぱちくりさせているヒスイ。
ベヒモスであることをマーキュリーが告げるも。
「へぇ、そうなんだ」
大した驚きもないようで。
先輩エクソシストらしく、ベヒモスについての説明を始めた。
「ベヒモスはね、“暴食”を司る悪魔で、地上の光さえ食糧にしちゃうの。象に似た姿をしていると言われているわ。鼻が長くて・・・ん?」
自ら述べたその悪魔に覚えがある。
「私、戦ったことある・・・よね・・・」※番外編『監禁ラブアピール』参照。
(あれ、セレだったんだ・・・だからリヴァイアサンが・・・)
そこでやっと、一連の騒動の辻褄が合い。
「そっか!リヴァイアサンを捕まえればいいのね!」と、ヒスイ。
しかし、マーキュリーは浮かない顔で。
「でも総帥は・・・迷っているみたいです」
修業期間中、セレは死を仄めかす言葉を度々口にしていた。
さすがにそれは誰にも言っていないが。
「迷う?何を?」
「これ以上、人間離れしたくないと思っているみたいです」
マーキュリーは、メノウの言葉を借りて、ヒスイにそう話した。
「ベヒモスを解放して、死のうとしてるってこと?」
ありえないよ、と、ヒスイが笑う。
「あのセレが死ぬわけないじゃない」
「・・・どうしてそう言い切れるんですか?」
「なんとなく」ヒスイらしい、ざっくり回答。
それから続けてこう言った。
「セレはね、“タヌキオヤジ”って呼ばれてるんだよ。トパーズに」
さほど深く考えている口ぶりではないが・・・
「タヌキはヒトを化かすものでしょ?」
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