場面は再び、幻獣会へと戻る。

そこに居るのは、メノウとセレだ。
鎖で繋がれた二人・・・横たわったセレの傍ら、メノウが腰を下ろす。
「ずいぶん深く沈められたモンだなぁ・・・」
(コハクの奴、ホントにセレを生かす気あんのかな)
苦々しい笑いを浮かべ、ぴくりとも動かないセレを覗き込むメノウ。
「おーい、そろそろ目ぇ覚ませー」
回復魔法で覚醒を促進する。間もなく、セレは意識を取り戻し。
「死に近いところにいたよ」と、言って、体を起こした。
パートナーが変わったことに関しては、驚いていないようだ。
「見て来い、と謂わんばかりにね、コハクに叩き落とされた。その間に、ベヒモスと話を付けたようだが――」
内容は巧妙に隠蔽されていて。
ベヒモスの保有者であるセレでさえ、読み解くことができない状態になっていた。
セレは肩を竦め。
「裁きの天使の考えることはわからないね」




その頃のコハクといえば・・・

大きく羽根を広げ、魔界の空を飛んでいた。表情はいつになく深刻だ。
「・・・・・・」(ひとりでまーくんを追うなんて・・・)
母親として、放っておけないのは理解できる。
(けど、最近どうも・・・)


ヒスイの“僕離れ”が進んでる気がする。※しょっちゅう懸念してます。


(あーくんもまーくんもそんなにヤワじゃないし)
幼い時分から、お仕置きを兼ね、鍛えてきた。
(基礎はしっかりできてる筈なんだ。今の勢力図から考えても、命を落とすことはない)
やはり心配の種は・・・
「ヒスイぃぃぃ〜!!待っててね!!今、お兄ちゃんが行くから!!」
(“僕離れ”なんて、させてたまるか!!)←裁きの天使の考えること。




そしてまた、幻獣会・・・

図書室ならではの静かな空間に。
「大抵の人間は――」
低く落ち着いたセレの声が響く。
「涙を流しながらも、身近な者の死を受け入れることができる。それは何故かと思うかね?」


「いつか自分も同じ場所にいくことを、知っているからではないかね」


「その時は、必ず訪れる。人間である限り――」
「・・・半分同感、とだけ言っとく」と、メノウ。
「この調子でタヌキに化かされちゃ、たまんないからな」
「私が嘘を言っているとでもいうのかね?」セレが笑う。
「あながちそうでもないから、化かされるんだろ」メノウもまた笑った。
「んじゃ、俺らもぼちぼち向かうか」




こちら、アイボリーとレムリアンシード。
逃走に手こずり、いつしか、リヴァイアサンとの本格的な戦いへ突入していた。
「なんかすげぇことになってるし」
レムリアンシード=タラスクスの背から地上を見下ろすと。
剥き出しになった地表に亀裂が走り、溶岩が湧き出している。
リヴァイアサンが暴れ回った結果、広範囲に渡り灼熱地帯と化していた。
「あちーよ・・・」
今までに経験したことのないような熱気だ。
次から次と、アイボリーの首筋を汗が伝う。
グォォォォォ!!止まぬ咆哮。
戦いは激化する一方で。
人間でいうところの殴り合い・・・
タラスクスとリヴァイアサンが、尻尾と尻尾を激しくぶつけ合う。
その衝撃で、剥がれて飛び散る互いの鱗が、鋭い刃となり、地に刺さる。
事ある度にリヴァイアサンが吐き出す炎を、羽根を盾代わりに防ぐタラスクスだったが、焦げた匂いが段々と強くなってきた。
「お前、大丈夫なのかよ」と、アイボリー。
「君とは、確固たる友情を築いておきたいからね。ここは守るよ」
レムはそう言うが、劣勢なのはアイボリーでもわかる。
「・・・おし!そんじゃ、俺も奥の手使うぜ」
「奥の手?」
「いいから、ギリギリまで近付け」
至近距離で、リヴァイアサンに左手を向けるアイボリー・・・
拳を突き出したかと思いきや、手首を曲げ。
「・・・何をしているんだい。君は」と、レム。
アイボリーの手の甲には、神の紋様。
修業中、トパーズの右の掌に時折現れるものを盗み見て覚えた。
アイボリー自身の手描きなので、当然、神の力は宿っていない。
つまりはハッタリなのだが、神との繋がりを誇示する分には充分だ。
それをリヴァイアサンの目元付近でチラつかせ、アイボリーは大声で言った。
「いいか!これ以上暴れたら、トパーズ・・・」



「俺の兄ちゃんに言いつける!!」



「兄ちゃんは“神”だかんな!お前、ただじゃ済まねぇぜ!?」
「アイボリー君・・・小学生同士の喧嘩じゃないんだから、そんなものが通用・・・」
・・・しているようだ。
リヴァイアサンの猛攻が止まった。更に。
「アイボリー君、見たまえよ。相合傘の援軍だ」
レムがアイボリーの視線を地上へと促す。
「んっ?相合傘?援軍?」
防御魔法で創り出した傘の下、肩を並べる男と女・・・
「!!まー!!ヒスイ!!」






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